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リモートチームを成功に導く「信頼」と「リーダーシップ」

リモートでのチームワークを成功させる秘訣について、"Leading Virtual Teams (2007)"の論文と、留学時代の講義"Trust and Leadership in Virtual Teams"を振り返りながら、まとめます。

2020年4月1日現在、コロナ対策として、急激にリモートワーク勤務者が増えている状況だと思います。私もその一人です。働き方が急激にリモート化されるなかで、信頼関係の構築、リーダーシップの取り組み方など、様々な課題が出てくると考えられます。そして、対面とは異なるコミュニケーションやマネジメントが必要です。

フィンランドのアールト大学の講義で、バーチャルチームワークでどうデザイン思考を実践するのかについて、マネジメント視点から学ぶ講座があり、この状況でふと思い出したので、学び直しの意味で共有します。

引用する講義と論文では、特に、対面のコラボレーションなしで、リモートで新しい製品やサービスを生むことができた(イノベーション)成功事例に焦点を当て、ベストプラクティスについて展開しています。加えて、調査された事例は、グローバルにリモートワークでプロジェクトを遂行した事例であり、文化的な違い、時間的な違いなど、より過酷な状況から得られたノウハウです。

リモート特有のリーダーシップの難しさ**

まず、リモートチーム(Virtual Team)とは場所が離れた状態で、電話会議やチャットなどの手段を使って、Face to Faceのコミュニケーションしないで仕事を進めるチームのことです。

前提として、対面とリモートワークでリーダーに求められる資質は変わらないと言われています。ビジョンを作り、熱意を持って伝え、実行計画を遂行する、メンバー間を繋ぐ、文化を創造する、従業員のモチベーションを向上する、など求められる役割そのものに違いはありません。

しかし、これらのいくつかの役割については、リモートワークとなることで非常に難しいものになります。

例えば、リモートワークでは、きめ細かな「観察」をすることができず、タイミングが見えにくいです。Face to Faceでの環境では示すことができた「存在感」を示すことができず、仕事のプロセスや構造を整えることに対してより創造的になる必要があります。また、「オンラインでの沈黙」に対して敏感になる必要があったり、メンバー各々の能力が最大限に発揮されているか、きめ細かな観察が必要になります。

このほかにも、コーディネーション、信頼関係、チームの一体感、コアバリュー(大切にする価値観)を伝える機会の少なさ、コミットメントへの得られにくさ、あるいは「孤独」といった感情などがあります。

このような「バーチャルチーム特有の難しさ」を乗り越えるためのリーダーシップの特徴について見ていきます。

成功するリモートチームの6つの特徴

Leading Virtual Teamsの研究では、33社の異なる会社で、55の成功したバーチャルチームのメンバーとリーダーをインタビュー調査を行っています。研究手法として、これら55のチーム対して、プロジェクトの最初からヒアリングを実施し(成功かどうか分かる前)、その内、バーチャルで新しい製品やサービスを生むことができた成功事例と判明したチームを深くインタビューしています。チーム1つ当たりの平均メンバー数は14名です。

成功事例に共通する「効果的なリーダーのプラクティス」が次の6つです。

1.デジタルコミュニケーションを駆使して「信頼」を構築・維持すること
2.メンバーの「多様性」を理解し、感謝し、上手く活用すること
3.仕事のサイクルと会議をマネジメントすること
4.チームの仕事の進捗をテクノロジーを使ってモニタリングすること
5.チームとメンバーを外部への可視性を上げる
6.各人のチームへの貢献に対してベネフィットを与える

1.リモートで「信頼」を築き・維持する

"In virtual teams, trust is often based on actions, rather than goodwill (Jarvenpaa & Leidner, 1999). Because goodwill is hard to observe virtually, expectations about actions and the actions themselves need to be made as explicit as possible for all others to see."

バーチャルチームでの「信頼」は、「意思」ではなく「行動」により形成されます。対面であれば、熱意や意思というのは「感じられる」ものではありますが、リモートでは感じにくいため、期待される行動とその結果についてできるだけ「見える化」して他の人と共有される必要があります。

よくある失敗は、共通の仕事を進める手順や方法がないことです。とりわけ「どのようにコミュニケーションテクノロジーを使うのか」についてきっちりと記述する必要があります。

例えば、E-mail、電話会議、チャットの使い分け、打ち出したアウトプットはどこに保存するのかなど。緊急性の高い内容のみを発信する場所を決めたり、ドキュベントのバージョン管理者の決定なども含まれます。このような共通する進め方がない場合、情報が充分に共有されないなど、メンバー間の結びつきが失われてしまいます。

これらのコミュニケーションテクノロジーに関するルールは一度作られたら終わりではなく、“virtual-get-togethers(バーチャルでの集い)”みたいな、イベントを催して、本来の目的を再共有したり、各々のメンバーがデジタルコミュニケーションに感じて思う不満や改善点、アイデアなどを共有する機会を定期的に設けます。

良いリーダーは、このような機会を設ける必要性を"Virtual Sense(バーチャルでの感覚)"を活かし、いつチームを再活性化すればいいのか見極めます。時には、みんながデジタルの環境で同様に「苦しんでいる」ことを共有することでチーム内での共感を高め、信頼へとつながります。

繰り返しとなりますが、**バーチャルチームでの信頼について最も大切な考え方が、"COMPETENCY-BASED TRUST(成果に繋がる行動に基づく信頼)" **です。他のメンバーに対して、自分が何をしていて、どんなアウトプットを出しているのか「バーチャル」で分かるようにすることが、信頼を形成するために、対面での仕事以上に重要となってきます。

2.チームのダイバーシティを理解・感謝・活用する

“Face-to-face teams would learn what they needed to know for good collaboration over dinner and drinks, but the virtual team members will just have to settle for the electronic directory.”

対面でのチームは、一緒にご飯を食べたり、飲み物を飲んだりと時間を過ごす中で、メンバーに適したコラボレーションについて学習することができます。しかし、バーチャルチームでは、オンラインでの情報のみで、お互いのことを理解する必要があります。特に、イノベーションという観点からは、多様性のコラボレーションが欠かせないため、このような施策をプロジェクト初期から打っていくことが重要です。

そのため、対面以上に、お互いのスキル・ワークスタイル・パーソナリティを共有することが重要です。今現在、リモートで働いている方は、これまで培ったお互いの理解や信頼などの「対面での資産」を使い仕事をしていると思います。これからリモートのみで仕事を開始するメンバーや取引先がある場合には、丁寧にお互いのコンテキストを共有していく必要があります。

お互いの特徴などを共有していくために、2つの提案がされています。1つは、スキルマトリックスや顔写真付きの自己紹介を共有することです。お互いのキャリアや趣味、スキルなどをいつでも見られるようにしておきます。もう1つは、「ペア」で仕事にアサインすることです。リモートワークで、孤立しやすいため、タスクごとに責任者を決めながらも、ペアを作り仕事をしてもらうことで、ペアの間での信頼が生まれ、チーム全体の信頼も向上していきます。

最も成功するバーチャルチームは、上手く「同期通信コミュニケーション」と「非同期通信コミュニケーション」のリズムを構築しています。つまり、ZOOMなどを活用した電話会議などで、ブレインストーミングや議論をする仕事だけでなく、その会議と会議の間に、各人が別々で取り組む時間でも、アイデアを出して、リーダーは評価していきます。この理由としてメンバー毎にオンライン会議中にアウトプットする時間(キャパシティ)が異なるため、会議中の発言に偏りが生じやすいためです。会議中だけではなく、チャットのスレッドなどを活用して、アイデア出しやディスカッションを進めていきます。上手く会議と併用して進めることで、会議で理解が不十分な点が共有できたり、キャッチアップを促すことができます。

このようなワーキングスタイルにより、メンバー間のダイバーシティを理解し、リスペクトしながら、お互いの強みを活かしやすい環境を整えます。

3.会議とそのサイクルをマネージする

“We found that planning out a meeting poorly for a collocated team is OK; but in a virtual environment, team pre-planning is critical. Otherwise nothing gets done and bridge meetings are required to fill in the gaps.” 「対面での会議では充分な計画がなくてもOKだとしてもリモート会議にはチームでの事前計画が重要だ。でないと、何も終わらなかったり、再び会議を開くことになる。」

会議とのそのサイクルのマネージについて、「事前準備」「会議の始まり」「会議中」「会議の終わり」「次の会議までの間」の5つに分けて、成功したチームリーダーが実践していたコツを紹介しています。(かなり入念な準備をしており、ここまでやると時間がかかるので、できる範囲で試してみるといいと思います。)

【事前準備編】
会議が始まる前に、アジェンダについて議論しておきます。チャットで次回の会議についてのスレッドを立て、そこにドラフトのアジェンダと、参加者のコメントをもらいます。そして、前日までにアジェンダをまとめておきます。次に全参加者が言語化されたアジェンダとタイムラインが書かれた資料を共有しておきます。会議前に、仕事の進捗、困っている点などを記入してもらい、全メンバーが閲覧できるようにする。

【会議の開始編】
優秀なリーダーは、リモート会議の初めに、"Reconnect"ー人間同士の結びつきを取り戻そうとします。オンラインの非同期でのチャットなどでのコミュニケーションが多くなりがちなので、チームでの一体感を取り戻す必要があります。具体的には、最初に、先週あった個人的なストーリーを共有するとか、共通のトピックについて話をしますー今だとコロナに対する対策などについて話すのもいいと思います。

【会議中編】
リモートでの会議では、アテンション(注意)がそれやすいので、リーダーはいかに集中してもらうかについて工夫をこらします。例えば、投票機能を使って、ディスカッションが満足できるような結果だったかについて確認をとったり、インスタントメッセージで議論を行ったりします。

【会議中の終了編】
リモート会議では、特に、会議後のアクション項目を明確にする必要があります。誰がいつまでにタスクを完了させるのか記述したアクションリストを会議中に作成します。"minutes-on-the-go"と呼ばれる方法は、会議を進行させながら、google-docなどを用いて、ビデオ会議とは別にアクションリストをみんなで記入していきます。この議事録を会議直後に共有します。

【次回までの会議編】
リモートワークでは、チームの所属意識が薄れがちで、チームで動いているという感覚を保ちにくいため、リーダーはメンバーをいかにコミットさせるのか力を入れます。個人メッセージを送ったり、定期的に議論スレッドを立てたり、良いニュースをシェアしたりします。

4.テクノロジーを使って進捗をモニタリングする**

リモートワークでは、オンラインで進捗を管理するテクノロジーを活用するチャンスがあります。リモートワークの基本は、"COMPETENCY-BASED TRUST(成果に繋がる行動に基づく信頼)"であり、全てのアウトプットは他者が見える形で共有される必要があります。このルールが徹底される事で進捗やコミットメントが容易に把握されます。逆に言えば、アウトプットできていないメンバーがいる事も分かるため、リーダーとしては早めにフォローしていく必要があります。

5.チームとメンバーの外部への可視性を上げる**

(Photo by Josh Calabrese on Unsplash)

リモートチームのリーダーは、メンバーだけでなく、様々なステークホルダーのニーズにも応える必要があります。プロジェクトのポートフォリオ管理する部長であったり、投資家であったり、顧客、パートナー企業など様々な外部ステークホルダーに対しても、「アウトプット」を見えるようにする必要があります。それぞれのステークホルダーからの期待とともに、レポートの仕方についても事前に調整しておく必要があります。

重要な点は、チーム内での活動が外部から見たときにブラックボックスになって、存在感が薄れてしまわないようにすることです。(具体的な部分については、研究や講義では、海外の慣習の話が多かったため、省略します。)

6.チームで働くことにメリットがあるように配慮する

リモートワークの場合、個人で作業する時間が多く、チームで働くメリットが見失われやすいです。成功するチームを分析すると、メンバー同士がお互いを頼り合うケースが多く、仕事で行き詰まると、専門領域のメンバーに相談するなど、チームとして機能しています。Employee Experience(従業員の組織のなかでの体験価値)を高めていく必要があります。例えば、毎回の会議で、素晴らしいアウトプットをした従業員を褒めたり、バーチャルパーティーを催して、誕生日をお祝いするなど、リモートで陥りがちなドライ過ぎる関係ではなく、人間的繋がりを高める体験を提供することが重要です。

リモートチームを成功させたリーダーからのメッセージ

最後に、リモートチームとして、様々な課題を乗り越えたリーダーが感じたリモートワークの大変さや重要なポイントについて、メッセージを載せておきます。

“I must be a diplomat to help teams overcome cultural differences, an ambassador to keep sponsors around the world updated on the team’s progress, a psychologist to provide a variety of rewards to a diverse and often isolated group of team members, an executive, a coach, and a role model all at the same time.” 「文化的な違いを乗り越える外交官にならなければならない。チームの進捗について世界を超えて、スポンサーに共有する大使にならなければならない。メンバーで孤立を感じる人たちに対して様々なケアを与える心理士にならなければならない。プロフェッショナルであると同時に、コーチでもあり、みんなのロールモデルでもいなければならない。」
“Leadership in my book comes down to communication. But communicating in person and communicating electronically are not the same. It is darn hard to motivate and inspire from long distance. Even telephone conversations fall short of actual meetings. So, for me to lead virtually, I have to learn to be clear and concise, but also to communicate a passion for the assignment and a caring for my people. ”「リーダーシップとは、コミュニケーションであると本には書いてある。でも、オンラインでコミュニケーションを取ることは対面と全く違う。離れた距離から、インスパイア(鼓舞して)モチベーションを高めることは本当に難しい。だから私にとって、バーチャルにリーダーシップを発揮することは、つまり、明確で簡潔であるということです。と同時に、仲間に対して、情熱と優しさを伝えることです。」

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最後まで読んでいたただき、ありがとうございました。

私が留学していたフィンランドでは、国内マーケットが小さく、ほぼ全ての企業がグローバルに働いています。この状況のなかで、世界中でより一層、加速するリモートワークにより、求められるリーダーシップやマネジメントスタイルも多様化すると感じます。

リモートワークが長期化することも見据え、移動時間の短縮、地理的な距離など、メリットにも目を向けながら、活動していこうと思います。

参考になれば幸いです。

Cover Photo at Oslo City Hall, Oslo, Norway

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