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【青春小説⑩】あなたのぬくもりを感じていたい

〈前回のお話〉

フジマキのストーリー

大野のストーリー

◇◇◇

先生の許可を得て、5時間目の授業をすっぽかしたフジマキを探して校庭のベンチに辿り着いたのだけど、気が付いたら、私はフジマキの隣に座っていた。

そして、思いがけない彼の言葉を、私は今、こうして受け止めている。

「…俺、こんなになるまで、清瀬さんのことが好きになっていた。俺、清瀬さんが好きだ。」

さっき、大野君の思いを受け止めたばかりなのに、その数分後にフジマキが…。

私は、頭の中が混乱してきた。

太陽のように明るくてまぶしい存在のフジマキが、陰キャラの私に「好きだ」と言ってくれている…。

でも、そんなフジマキに応えられるほど、私にはキラキラと光り輝くものなんて、何一つもっていない。


私の胸の奥がキリキリと痛む。

中学時代の古傷がまたポッカリ開いて、ジュクジュクと膿んだ痛みを発している。自然と涙があふれてきた。

私は、フジマキに「あの話」をしなくてはいけない…と思った。そう、私が誰も信じなくなり、人を寄せ付けなくなった理由。友達を作らない理由。そして、もう恋をしないと決めた理由…。

私は勇気を出して、話し始めた。

「実は私、中学生の時、いじめられていたの。」


◇◇◇


一通り話した後、私は

「こんな私なんて、フジマキは嫌でしょう?中学時代の友達を全部捨ててきた嫌われ者の私なんて、フジマキにはふさわしくないよ。」

と伝えた。


そう、私はフジマキにはふさわしくないよ。私より、もっと明るくて光り輝いている子が似合っている…。

そう思うたびに、私の心の奥がまたキリキリと痛む。フジマキを自分から遠ざけようと思うたびに、私の心が見えない刃物で深くえぐられるような疼きを感じる。そして悲しくなってくる。

どうしてなんだろう…?

もしかしたら私は、フジマキのことを…。



まとまらない頭で、自分の気持ちを一生懸命に整理しようとしていたら、不意にふわっと温かいものに包まれた。

「俺、清瀬さんを守るよ。」

フジマキが私の身体をそっと優しく抱きしめてきた。

「えっ?フジマキ…⁉」

私は驚く。こんな風に異性にハグされたのは生まれて初めてだった。緊張して、無意識に体を強張らせる。


フジマキは、「清瀬さん、話してくれてありがとう。だから、俺にずっと塩対応だったんだな。でも、そんな清瀬さんも、俺は大好きだから…」

と言って、ギュッと腕に力を込めてきた。


私はドキドキしてきた。胸の鼓動が激しくなる。

でも、何だろう?

この温かさ。優しさ。ぬくもり。

私の背中に回されたフジマキの腕から、彼の体温が伝わってくる。

背中が温かいと、こんなにも心地よく安らげるんだ…。男子(ひと)の腕の温かさを私は生まれて初めて知った。


そして、頭をもたげて寄りかかっている彼の胸から、フジマキの香りを感じる。うっすらと汗をかいているのかしら。彼の夏の制服の生地が、私の頬に柔らかく馴染む。私、彼の匂いは嫌じゃないかも…。

フジマキの胸から伝わる彼の匂いは、不思議と私の心を落ち着かせてくれた。

あっ…フジマキもドキドキしている。

彼の鼓動が早く強く波打っているのを感じる。布を通して伝わる、彼の心臓の音。私と同じだ。一緒にドキドキしている。


この瞬間、

私は一人じゃないんだ

と思った。


私のことを思ってくれている人と、こうして一緒にいる…という奇跡。

私は静かに目を閉じた。

でないと、涙があふれて、藤巻の胸を濡らしてしまうから…。

さっきまでは苦しくて悲しい涙だったけど、今の涙は、安心と喜びの涙だった。



「フジマキ、ありがとう…」

お互いの気持ちが落ち着いたところを見計らって、私は顔を上げた。

あなたはもう充分に、私の心を優しさで満たしてくれたよ。

本当にありがとう…。

少しはにかんで、フジマキを見つめる。



フジマキはハッとした表情になり、私を抱きしめていた腕をパッと離したた。

「あっ!ゴメンっ!俺、つい、清瀬さんを抱きしめてしまった…」

バツの悪そうな顔つきになり、私に平謝りし始めた。

「やべー!勝手に腕が動いてしまった!これ、セクハラじゃないから!」

何やら一生懸命に言い訳しているフジマキがおかしくて、私はつい笑ってしまった。

「ふふふ。」

フジマキも私につられて、笑顔になる。


「清瀬さんの笑った顔、めっちゃ可愛いよ」

フジマキが優しい笑顔で私を見つめる。

どきっ…。顔がカーと熱くなった。


「わぁ!赤くなっている清瀬さんも、超かわいいー!」

歓喜してはしゃぐフジマキ。

「うるさいーー!やめてーー!」と私はフジマキの肩をビシッと叩いた。

「うわっ!痛っーー!どうしてこうなるの?」

叩かれた痛みで、うっすら涙目になっているフジマキ。

泣いたり笑ったり…、相変わらず忙しい男だわ。


「やっぱり清瀬さんはSだわ…」と目に涙を浮かべて呟き、私に叩かれた自分の肩を大事そうにソロソロと撫でているフジマキを見ていたら、何だか幸せな気持ちになってきた。

新しい自分が、ここから始まるような気がしてきた。



「ねぇ、フジマキ…」

私は制服の胸ポケットから、映画のチケットを取り出した。

「この映画、私はフジマキと行きたい。」

フジマキは、目を丸くしてチケットを凝視した。



「あっ…。大野」

フジマキは、大野君のことをすっかり忘れていたらしい。チケットを見て、ハッと思い出した様子だった。

「大野のこと、すっかり忘れていた!」

頭を抱えて狼狽するフジマキ。


私は、覚悟を決めた。大野君にちゃんと話そう…と思った。



◇◇◇

〈次回のお話〉

〈第一話から読めます〉下のマガジンに全話収録中。


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