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【青春小説】清瀬とフジマキと大野の物語

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女子高生の清瀬、清瀬のクラスメートの藤巻(フジマキ)、そしてフジマキの部活の後輩の大野。この三人が織りなす、ちょっと切ない青春ストーリー。 一話ごとに主人公が「清瀬」→「フジマキ… もっと読む
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【青春小説】ボーイ・ミーツ・ガール #リュクスなクリスマス

【GIRL①】 手袋をし忘れた私の手のひらに、雪がひらひらと舞い落ちる。 コートに付着した雪は、そのまま溶けて水滴となり、私をしっとりと濡らしていく。 すっかり暗くなった頃、私たちはカフェを出た。 カフェのドアを開けた瞬間、冷たい空気がスッと私の頬に当たった。冷気を浴びてゾクッとしながら外を見ると、思いがけず雪が降っていた。 すごい降り方だ。 最初「えっ…」と驚いたけど、すぐに私は「きれいだなぁ…」と思った。 軒の外に出て、空を見上げる。 舞い落ちる雪が、白い花びら

【青春小説⑮最終回】ここから始まる、新しい俺たち

〈前回のお話〉 大野のストーリー 清瀬のストーリー ◇◇◇ 「おはよう」 朝の教室。自分の席で机に伏していた俺は、突然、誰かに背中をポンと叩かれ、驚いてパッと顔を起こした。 振り返ると、清瀬さんだった。 清瀬さんは俺の隣の席に座り、「昨日はありがとう」と小声で俺に話しかけてきた。 そうだ、昨夜は後輩の大野と差しで話をしたんだった。 その後、清瀬さんに連絡を入れて、昨日のことは、それでひとまず一件落着したんだけど、それでも昨日はいろんなことがあり過ぎて、俺の頭

【青春小説⑭】ありがとう、初めての恋

〈前回のお話〉 清瀬のストーリー 大野のストーリー フジマキのストーリー ◇◇◇ 夜の公園に呼び出された僕は、そこで藤巻先輩と差しで話し合った。 そう、清瀬先輩について…だ。 公園へ行く時は、気持ちが急いてしまい夢中で走っていたけど、話が済んで家に帰る時は、夜空を眺めながらゆっくりと歩いていた。 もしも清瀬先輩と付き合えることになったら、この夜空の下を二人で並んで歩く日があったかもしれない…。そう考えると、胸が痛くて張り裂けそうになる。でも、藤巻先輩の清瀬先輩

【青春小説⑬】真っすぐな思い・素直な気持ち

〈前回のお話〉 大野のストーリー フジマキのストーリー ◇◇◇ 五時間目の授業をさぼって、校庭でじっくり話をした私たち(清瀬とフジマキ)は、もうすぐチャイムが鳴るのに気付き、いったん教室に戻ることにした。 そしてこの時、私は、今まで固く閉じてきた自分の心を、フジマキの前では素直に開いていこう…と決めた。 お互いの連絡先を交換する。 フジマキは「何かあったら、いつでもここに連絡して」と優しい瞳で言ってくれた。 何だか胸がドキドキする。 「うん…」私はうつむき加

【青春小説⑫】僕たちの恋

【前回のお話】 フジマキのストーリー 清瀬のストーリー ◇◇◇ 放課後、クラスメートの山本さんから突然告られて、僕(大野)はどうしていいか分からず、ボーと廊下に立っていた。 山本さんの気持ち…。僕は今まで全くといっていいほど気づいていなかった。 ここで、ふと、清瀬先輩のことを思い出す。 僕はさっき(お昼休みに)清瀬先輩に声をかけて、自分の思いを伝えたのだけど、もしかしたら、あの時の先輩は、今の僕と同じ気持ちだったんだろうか? 突然、知らない人から気持ちを打ち明

【青春小説⑪】あなたの本当の気持ちが知りたい

〈前回のお話〉 清瀬のストーリー 大野のストーリー ◇◇◇ 思い切って自分の気持ちを打ち明けた後、俺(フジマキ)は、辛かった過去を話しながらポロポロと涙を流す清瀬さんを見ているうちに、無意識にそっと抱き寄せてしまった。 この時の俺は、雰囲気にちょっと酔っていたのかもしれない。 恥ずかしいとか、嫌われたらどうしようとか、そういう気持ちは1ミリもなく、ただ純真に「支えてあげたい」と思った。 彼女の身体に腕を回す。最初は体を強張らせていた清瀬さんが、少しずつ緊張を解い

【青春小説⑩】あなたのぬくもりを感じていたい

〈前回のお話〉 フジマキのストーリー 大野のストーリー ◇◇◇ 先生の許可を得て、5時間目の授業をすっぽかしたフジマキを探して校庭のベンチに辿り着いたのだけど、気が付いたら、私はフジマキの隣に座っていた。 そして、思いがけない彼の言葉を、私は今、こうして受け止めている。 「…俺、こんなになるまで、清瀬さんのことが好きになっていた。俺、清瀬さんが好きだ。」 さっき、大野君の思いを受け止めたばかりなのに、その数分後にフジマキが…。 私は、頭の中が混乱してきた。

【青春小説⑨恋が始まるとき

【前回のお話】 ◇◇◇ 僕たちはお互いの連絡先を交換して、それぞれの教室へと向かった。 「僕たち」とは、僕(大野)と清瀬先輩だ。 まさかこんな展開になるとは…。昼休みが始まる前まで、僕はまだ先輩のことを何も知らなかった。ただ一瞬、廊下ですれ違った数分の間に落ちた恋。 この時、僕に向けられた先輩のまなざしを、僕はずっと心の中で抱きしめ続けてきた。 そして、今日の昼休み。僕は偶然にして、やっと清瀬先輩と会うことができたのだ。だから、必死だった。このチャンスを逃したら、

【青春小説⑧】泣きたくなるほど君が好きだから…

〈前回のお話〉 ◇◇◇ 俺は校庭の木陰のベンチで、両腕で顔を隠しながら嗚咽していた。 清瀬さんをのことを諦めなくてはいけない…。 もう二度と彼女のことを想ってはいけない…。 そう思えば思うほど、涙が止めどなく溢れてくる。胸が張り裂けそうで苦しい。 あぁ、これが恋なのか… と、俺はこの時、生まれて初めて悟った。胸の痛みと共に…。 こうして一人泣き続けていたら、突然、肩をポンポンと叩かれた。 ワワワワワッーーーーーー! 俺はビクッとして飛び上がりそうになった。

【青春小説⑦】泣きたくなるほど気持ちがあふれる時

〈前回のお話〉 ◇◇◇ フジマキが去った後、私と大野君は、フジマキが置いていった映画のチケットを挟んで向き合い、今の気持ちを正直に話し合った。 この時、あまりに大野君が真っすぐで素直で正直で良い子だから、私は不覚にも泣いてしまった。 涙がにじみでて、目をかすかに濡らした。 そんな私を見て、大野君はハッと驚いた顔をした。 今まで私は「強い女」として生きてきたけど、本当は豆腐メンタルの弱い女なのだ。もともとは泣き虫で、淋しがり屋で、人恋しくて、甘えん坊で、か弱い女なの

【青春小説⑥】大切な人を悲しませたくない

〈前回のお話〉 ◇◇ 藤巻先輩が去った後、先輩が座っていたベンチのところに、映画のチケットが二枚、そっと置かれていた。 清瀬先輩は、しばらくぼんやりしていたけど、ハッと我に返り、そのチケットを手に取った。 「これ、私が以前、教室で読んでいた本の映画なの…」 そのタイトルの本、僕も以前読んだことがある。 ああ、清瀬先輩が読んでいた本を僕も読んでいたんだ…。そう思うと、胸がカッと熱くなった。 でも、どうしたらいいんだろう。 隣町のミニシアターでこの映画が上映される

【青春小説⑤】ただ「愛しい」と思っていただけなのに…

〈前回のお話〉 ◇◇◇ 弁当を食った後、マイボトルのお茶を飲みながら 「どうしてここに清瀬さんと大野が一緒にいるわけ?」 と俺は聞いた。 ◇ ここは体育館の裏のベンチ。クラスメートの清瀬さんと俺、そして俺の部活の後輩の大野と3人でこのベンチに座り、一緒に昼飯を食っていた。 最初、俺は、清瀬さんを探しにこの場所に来たのだった。ところが、ここに清瀬さんと大野が二人きりでいるのを見つけてしまい、今に至る。 その時、清瀬さんに「こっちにおいでよ」と呼ばれて、今はこうし

【青春小説④】「人を好きになる」ということ

〈前回のお話〉 ◇◇◇ 突然、見知らぬ男の子から「ずっと気になっていました!」と言われて、私はどう返事をすればいいのか…正直とても困っていた。 私のことを好いてくれている一年生君の気持ちはすごく嬉しいけど、その純真さに応えてあげられるほど、私は器用ではない。 そして何より、私はこの子のことを全く知らなかった。 初めて会ったんだから、仕方がないよね…。 初対面なのに、校舎の階段でいきなり告られて、私は慌てて彼を人気のいない体育館の裏に引っ張り込んだんだけど、その後、

【青春小説➂】空を見上げて、あの人を想う

〈前回のお話〉 ◇◇◇ 僕はこの春、父の転勤でこの街に引っ越してきた。そして、そのままこの街の高校に入学した。 入学式の時から、僕は完全にアウェイ状態だった。 新入生はみんな、この街の地元の子ばかりだから、みんなそれぞれに自分の顔見知りを見つけて、サクサクと友達になっていく。しかし、僕には無理だった。縁もゆかりも全くない、新しいこの土地に来たばかりの僕には、友達になってくれそうな人など誰一人いなかった。 そのうちに教室にポツンと一人でいるのがつらくなり、僕は休み時間