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【青春小説⑪】あなたの本当の気持ちが知りたい

〈前回のお話〉

清瀬のストーリー

大野のストーリー

◇◇◇

思い切って自分の気持ちを打ち明けた後、俺(フジマキ)は、辛かった過去を話しながらポロポロと涙を流す清瀬さんを見ているうちに、無意識にそっと抱き寄せてしまった。

この時の俺は、雰囲気にちょっと酔っていたのかもしれない。

恥ずかしいとか、嫌われたらどうしようとか、そういう気持ちは1ミリもなく、ただ純真に「支えてあげたい」と思った。

彼女の身体に腕を回す。最初は体を強張らせていた清瀬さんが、少しずつ緊張を解いて、俺にもたれかかってくる。彼女の体の重みを全身で感じていくうちに、胸がドキドキしてきた。

彼女を胸で受け止めながら、彼女の髪の匂いや、指先から伝わる彼女の体の柔らかい感触、彼女の熱い息遣い…を直に感じて、胸の奥がジンジンしてくる。

いつもはクールで塩対応の清瀬さんが、今は、俺の胸にもたれて小さくなっている。「可愛いな…」と思った。

俺は、思いつく優しい言葉をかき集めて、彼女に心を込めて伝えた。そして、素直に「そんな清瀬さんも、俺は大好きだから…」と呟いた。

彼女の顔は見えないけど、泣いている気配を感じた。


◇◇◇

こうして甘美なひと時を過ごし、ふと我に返った瞬間、俺は焦った。

顔を上げた清瀬さんが、制服の胸ポケットから、映画のチケットを取り出して、「この映画、私はフジマキと行きたい。」と言ったからだ。

俺は、目を丸くしてチケットを凝視した。

「あっ!…大野」

思わず声が出てしまう。清瀬さんと話し込んでいくうちに、俺はアイツ(大野)のことをすっかり忘れていた。やべっ!

そう。これは、さっき、後輩の大野と清瀬さんに「一緒に映画に行ってこいよ」と渡したばかりのチケットだ。

本当のことを言えば、俺は清瀬さんを誘って一緒にこの映画に行くつもりだった。

でも、以前から俺に恋の相談をしていた大野の、あの「思い人」が清瀬さんだと知ってしまい、俺は(泣く泣く)かわいい後輩のためにこのチケットを譲ったのだ。

しかし、今更、大野になんと言えばいいんだろう…。

言い訳なんてカッコ悪いし、急に話を変えるのもみっともない。かといって、放っておくわけにもいかない…。

どうしようか必死になって、無い頭をフル回転させていたら、清瀬さんが

「私、大野君に正直に打ち明ける」と言いだした。

「えっ?正直にって…、何を?」とアホなことを聞く俺。

すると清瀬さんは、呆れた顔をして、

「フジマキと一緒に映画に行きたい…ってことよ。」と答えた。

え?…それ?

少しガッカリした俺。

「何?どうしたの?フジマキ。何ガッカリしてんのよ。何だと思ったの?」と清瀬さんに聞かれたので、

「俺、てっきり『私、フジマキ君が好きなの!』って言ってくれるのかと思ったよ」と答えた。

さっき、あれほどのこと(「好き」を連呼)を俺に言わせといて、「映画に一緒に行きたい」で話を止めるのかよ…。どこまで俺を悩ませれば気が済むんだ…。

清瀬さんは、「あっ…」という顔をして、恥ずかしそうに、

「私、フジマキは良い奴でカッコいいと思うよ…」とボソボソと言い出し、小さな声で、

「うん…。好きかもしれない…。かな?」と言った。

「はぁ~?『好きかもしれない…』って何だよ、それ。しかも『かな?』…て何、付け足してるんだよ?意味わかんねーし。今さらテンパってないで、ちゃんとハッキリ言えよー!」

と俺は吠えた。すると清瀬さんは、真っ赤な顔になり、

「えっと…。私、フジマキとずっと一緒にいてあげてもいいよ。」と恥ずかしそうにそっぽを向いて、小声で呟いた。

うーん、ツンデレだなぁ…こいつ。

でも、まっいいや。こんな表情をしている清瀬さんを見られるのは、世界中で今は「俺だけ」だから。こんなに真っ赤になって可愛い清瀬さんは、俺だけで独り占めしておこう…と思った。誰にも見せたくない。

そして、俺はこの時、清瀬さんを幸せにしようと決めた。辛かった中学校時代の記憶を消すために、そこに上書きするつもりで、この高校生活は楽しくて明るくて幸せな毎日にしてあげたい…と思った。


「俺も大野に正直に話すよ。隠し事はしたくない。ちゃんと正々堂々と本当のことを話す。」

俺はベンチの背にもたれて、空を仰いだ。木々の葉の間から、高く青く澄んだ秋の空が見えた。


◇◇◇

この後、俺は泣きすぎて変顔になっているのを見られたくなかったので、「体調不調」ということにして、部活を休んだ。

そして夕方、大野に連絡をして、夕食後、お互いの家の中間地点にある公園で会うことにした。


◇◇◇


少し早めに公園に着き、俺はベンチの近くで立って待っていた。

少しすると、私服姿の大野が向こうから走って来た。

「すみません!藤巻先輩。少し遅れちゃって…」

息を弾ませながら、俺の近くに来る。二人でベンチに座った。

「先輩、大丈夫ですか?」

大野は俺の身体を心配してくれていた。

「心配させてゴメン。もう大丈夫だよ。」と言い、「今日、どうしても会って話したいことがあったんだ。急に呼び出してゴメンな。実は…」

と俺が言いかけたところで、大野が畳み込むように、

「用事って、清瀬先輩のことですか?」と大きな声で言った。

俺は驚いて大野を見た。

大野は、真剣に俺を見つめてくる。俺は覚悟を決めた。

「ああ、そうだよ。清瀬さんのこと。大野には本当のことを伝えたいと思って…」

俺は勇気をだして語り始めた。


◇◇◇

(次回のお話)

〈これまでのお話はこちら〉下のマガジンに全話収録中



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