【青春小説⑧】泣きたくなるほど君が好きだから…
〈前回のお話〉
◇◇◇
俺は校庭の木陰のベンチで、両腕で顔を隠しながら嗚咽していた。
清瀬さんをのことを諦めなくてはいけない…。
もう二度と彼女のことを想ってはいけない…。
そう思えば思うほど、涙が止めどなく溢れてくる。胸が張り裂けそうで苦しい。
あぁ、これが恋なのか…
と、俺はこの時、生まれて初めて悟った。胸の痛みと共に…。
こうして一人泣き続けていたら、突然、肩をポンポンと叩かれた。
ワワワワワッーーーーーー!
俺はビクッとして飛び上がりそうになった。人の気配なんて全くしないこの場所で、突然、誰かに肩を叩かれたのだ。息が止まるほど驚いた。
あまりに驚きすぎて涙もピタリと止まってしまった。
「ビックリしたーー!マジ死ぬかと思った!」
顔を上げてみたら、なんと!目の前にいたのは清瀬さんだった。
「えっ?どうしてここに清瀬さんが…?」
俺は頭の中が混乱してきた。
すると、清瀬さんは、「五時間目の授業、さぼったでしょう?だから私が探しに来てあげたの。」と答えた。
俺は「あっ!そうだった…」と思い出し、慌てて涙で濡れた顔や首元を制服の袖でゴシゴシ拭く。
うわっ!俺、めっちゃカッコ悪すぎやん…。メソメソ泣いているところを見られるなんて、超最低。
泣きたい…いや、もう泣いているか?
清瀬さんは、俺の隣に座り、「どうして泣いていたの?」と聞いてきた。
ドキン…。胸が痛い。
もう誤魔化しようがない。嘘をつくのも野暮すぎる。俺は腹をくくった。
「分かったよ。もう正直に話すよ。泣いているところを見られて、もう隠しようもないし…。」
ここまで言うと、俺は清瀬さんの方に顔を向けた。
「実は俺…」
清瀬さんが俺を見ている。その瞳で見つめられると、俺は嘘がつけない。正直に本当のことを伝えようと思った。
「俺も以前から、清瀬さんのことがずっと気になっていた…。だから、清瀬さんが読んでいる本を見て、あの本の映画のチケットをプレゼントしたいと思った。」
清瀬さんは、「えっ?」と少し驚いた表情をした。俺は続ける。
「本当は、俺、清瀬さんと一緒に映画に行きたいと思った。でも、清瀬さんが大野の好きな人だとわかって、俺は大野と清瀬さんを応援しようと決めた。」
俺は、清瀬さんから目を背けて、校庭の奥へ視線を移す。
「だから、チケットを清瀬さんに渡したんだ。」
清瀬さんは黙ったままじっと俺を見つめている。彼女は、どんな思いで俺の話を聞いているのだろう…。
「でも、まだ踏ん切りがつかなくて、俺は一人になりたかった。だから、ここに居たんだよ。でも、自分でもよく分からないんだけど、涙があふれて止まらなくなって…。それで泣いていた。自分でもマジかっこ悪くて恥ずかしいと思っている。こんなみっともないところを清瀬さんに見られちゃったし…。」
ここで俺はもう一度、清瀬さんの方に顔を向けて、真っすぐに彼女を見た。
「でも、俺、こんなになるまで、清瀬さんのことが好きになっていた。俺、清瀬さんが好きだ。」
清瀬さんは驚いた表情になり、目を大きく見開いている。
俺の胸がドキドキと激しく鼓動する。心臓が飛び出しそうだ。
あぁ・・・言ってしまった。
俺はとうとうやっちまったよ…。
もうやけっぱちだ。なんとでもなれ。
◇
清瀬さんは無言のまま、俺の横でじっと体を強張らせている。
気まずい時間がしばらく流れた後、清瀬さんがようやく口を開いた。
「フジマキ、ありがとう。これはあなたの本心なんだなぁ…って、すごく伝わって来た。ありがとう。」
清瀬さんの目から涙がポロポロとこぼれ出した。
「実は私、こんなことは誰にも言いたくなかったんだけど…。これを言わないとダメだと思うから、フジマキにだけは正直に話すね…。」
清瀬さんは正面を向いてうつむき、ポツリポツリと語り始めた。
◇
「実は私、中学生の時、いじめられていたの。」
いつもの彼女らしくない弱々しく震える声で、彼女は静かに語った。
「中2の時、親友の彼氏が、私のことを好きになったと言って、私に告ってきたの。でも、私はその親友の彼氏のことはただの友達だと思っていたし、親友にも悪いと思ったから、ハッキリとお断りしたのよ。そうしたら…。」
彼女は自分の制服のポケットからポケットティッシュを取り出し、頬を伝う涙を何度も拭いた。
「その彼氏がすごくキレて、私の悪口をクラスに言いふらして、親友にも嘘をついて私が言い寄ったみたいなことを言って…。それは嘘だと親友に説明したのに、全然信じてもらえなくて…。」
俺は彼女の話を黙って聞き続けた。
「こうしてクラス全員からシカトされて、私は独りぼっちになったの。嫌なことをいっぱい言われたし、酷いこともされた。もう何も信じられなくなって、私はもう誰とも口を利かなくなったの。」
「辛かったけど、学校だけは頑張って通って絶対に休まなかった。でも、もう誰とも関わりたくなくなって、これからは一人で生きていくと決めたの。誰も信じないし、誰ともつるまない。友達も作らない。恋もしない。そう決めたの。」
恋もしない…の部分に、俺はドキッとする。
「それで私は猛勉強をして、この高校に入ったの。この学校なら、私の中学校から来ている子はほとんどいないし、これで嫌な過去とは縁が切れると思ったから。」
ここまで言い切って、清瀬さんは顔を上げた。
覚悟を決めた表情だった。
「こんな私なんて、フジマキは嫌でしょう?中学時代の友達を全部捨ててきた嫌われ者の私なんて、フジマキにはふさわしくないよ。」
口調は強くて厳しいけど、清瀬さんの瞳は悲しそうで、でも優しい色をしていた。俺をジッと見つめてくる。
そうだったんだ。だから、ずっと塩対応だったのか…。
誰も自分に引き寄せないように、そうやって見えない壁を作って必死になって自分を守ってきたんだな…。
そう思ったら、なんだか無性に清瀬さんが愛しく感じられた。
こんな細い体で、精一杯虚勢を張って、自分を傷つけないように毎日闘ってきたんだな…と。
「俺、清瀬さんを守るよ。」
自然とスッと腕が伸びる。気が付くと清瀬さんを抱き寄せていた。
「えっ?フジマキ…⁉」
清瀬さんは驚いていたけど、俺は彼女の肩をしっかり抱きしめた。
◇◇◇
〈次回のお話〉
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