【青春小説⑭】ありがとう、初めての恋
〈前回のお話〉
清瀬のストーリー
大野のストーリー
フジマキのストーリー
◇◇◇
夜の公園に呼び出された僕は、そこで藤巻先輩と差しで話し合った。
そう、清瀬先輩について…だ。
公園へ行く時は、気持ちが急いてしまい夢中で走っていたけど、話が済んで家に帰る時は、夜空を眺めながらゆっくりと歩いていた。
もしも清瀬先輩と付き合えることになったら、この夜空の下を二人で並んで歩く日があったかもしれない…。そう考えると、胸が痛くて張り裂けそうになる。でも、藤巻先輩の清瀬先輩への「ひたむきで真っすぐな熱い想い」に触れて、僕はまだまだ先輩の足元にも及ばない…と痛感した。
藤巻先輩は、清瀬先輩のことを深く想いながらも、僕のことまで心配して、ああして正直に自分の思いを伝えに来てくれたのだ。
そんな先輩の誠実さに対して、僕は何てガキで幼稚なんだろう…と、自分の幼さが情けなくなってくる。
ここで僕は、ふと山本さんのことを思い出す。
クラスに馴染めなくて、ずっと一人でポツンとしていた僕に、山本さんはずっと声をかけてくれていたんだよなぁ…、それも笑顔で。
それなのに僕は、彼女の優しさや笑顔を「当たり前」のことのように思っていて、ただ受け取るだけだった。山本さんの温かい気持ち、あれは僕への特別な気持ちだった…。
それなのに、僕は冷たい態度で払いのけてしまったのだ。
ここで次に、ふと清瀬先輩のことを思い出す。
僕が清瀬先輩に勇気を出して声をかけた時、先輩は嫌な顔をせず、また嫌な態度も取らず、ただ僕のことを気遣って、そっと優しく接してくれた。
僕とは正反対だ。
あぁ、清瀬先輩も、そして藤巻先輩も、僕とは全然違う。
みんな大人だ。
僕よりもうんと大人で、心が大きくて、強くて、優しい。
ここまで考えが至ったとき、僕は自分の器の小ささを痛いほど悟った。
今の僕は、清瀬先輩にふさわしい男子ではない。
僕は男としても人間としても、まだまだ未熟だ。
こんな僕より、藤巻先輩の方がうんとふさわしい…。
そんなことをぼんやり頭の中で考えながら、少し涼しくなった夜の道をトボトボと歩いた。
◇
「ただいま…」
家に着き、玄関を上がって、真っすぐ自分の部屋に戻った。
部屋に入って落ち着いた頃、自分のスマホに清瀬先輩からのメッセージが入っていることに気が付いた。慌てて開いて見ると、
「明日の昼休みに、また体育館の裏に来てもらえませんか。話したいことがあります。」…と記されてある。
今度は、清瀬先輩が僕に話してくれるんだな。
藤巻先輩といい、清瀬先輩といい、どうしてここまで僕と向き合ってくれるんだろう。また先輩に会える喜びよりも、こうして僕と正面から接しようとしてくれることに対して、僕もキチンと誠実に応えなくてはいけない…という思いでいっぱいだった。
さっき、藤巻先輩との話の後に、一人で夜の道を歩きながら、いろいろ思ったこと・感じたことを、明日は清瀬先輩に正直に話そう。
…そう思った。
◇◇◇
次の朝、登校して教室に入る。
まだ時間が早くて人が少ない教室の中、僕の席の斜め後ろの席に、山本さんが一人でポツンと座っているのを見つけた。
昨日のこと、謝らなくっちゃ。
僕は、自分の席にカバンを置くと、くるっと後ろを向いて山本さんに「おはよう」と声をかけた。
山本さんも「おはよう」と応えてくれたけど、今日はいつもの笑顔はなく、気まずそうな…ちょっと強張った表情をしている。
僕は勇気を出して、彼女に「昨日はゴメン」と言った。
「嫌な態度をとってしまって本当にゴメン。僕、まだガキだから、自己チューで自分勝手なんだよなぁ…。山本さんにはいつも優しくしてもらっていたのに、ついワガママな態度を出してしまって…。」
すると山本さんは「えっ?」と一瞬驚いた顔になり、でも、すぐに泣きそうな表情になって、
「ううん。私の方こそゴメンね!偉そうに大野君に『どこ行ってたの!?』なんて追及するようなことを言っちゃって…。大野君に嫌な思いをさせちゃって、私の方こそ、謝らなくては…と思っていたの。」と言った。
そして、
「私、大野君のことで『焼きもち』を焼いちゃったんだと思う。ホント恥ずかしい…。私のこと嫌になったでしょう?」
ここまで言うと、静かにうつむき、彼女は目に涙を浮かべた。
きっと昨日はずっと悩んでいたんだろうな…。
そう感じた僕は、思わず「ううん!そんなことないよ!」と叫んだ。
山本さんは、ハッと顔を上げて、目を丸くして僕を見た。
僕は照れくさそうに、
「でも、今は友達として…。まだ僕の気持ちの整理がつかないから、友達としてから…。それでも、いい?」
と伝えた。
すると山本さんは、目じりに溜まった涙を指で拭きながら、「うん、うん」とうなずき、にっこり笑った。きれいな笑顔だった。
この時、僕は山本さんのことを初めて心から「可愛い」と思った。
◇◇
こうして午前の授業を終えて、昼休みになった。
僕は体育館の裏に向かい、ベンチに腰掛け、清瀬先輩を待つ。少しすると、清瀬先輩がパンを何個か抱えてやってきた。
「ごめん、遅くなって…」
そう言いながら僕の隣に座って、両手で抱えたパンの中から一つを取り上げ、「これどうぞ」とポンと僕に渡してくれた。
少ししてから、清瀬先輩の話が始まった。
昨日の僕の告白を嬉しいと感じたこと。ずっと教室では一人ぼっちで、そんな時、藤巻先輩がずっと笑顔で接してくれたこと。そして、藤巻先輩のことが好きだということ…。等々
あぁやっぱり。僕の予想通りだ。
清瀬先輩も、藤巻先輩のことが好きだったんだな。
ここまでストレートに完璧に「本当の気持ち」を正直に言われたら、僕はもう太刀打ちできません。完敗です。
あまりに完全試合すぎて、僕は悲しさよりも先に、思わず笑みがこぼれた。
こんなに自分に正直に真っすぐに生きている女性だから、藤巻先輩は惹かれたんだな…。そして僕も。
でも、今の僕は、清瀬先輩の横に並んで居られるほど立派な男ではない。
まだまだ僕は未熟だ。足りなさすぎる。
先輩にふさわしい男になれるまで、僕は先輩のことを「憧れの人」として心に留めておきます。
そして、もっともっと大人になります。
話の終わりに、清瀬先輩が、
「でも私、大野君とは友達でいたいと思っている。こうして出会えたのも何かの縁だと思うから。」
と言ってくれた時、僕は思わず先輩に向かって手を伸ばしてしまった。
最後に、先輩に触れたい…と思った。
でも、その瞬間、背後から、
「ちょっと待ったーーーーーーーー!」
と、突然大きな声が響いた。
僕はビクッとして後ろを振り返った。
◇◇◇
〈次回のお話〉
◇
〈今までのお話はこちら〉下のマガジンに全話収録中
よろしければサポートお願いします!いただいたサポートは旅の資金にさせていただきます✨