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夏の富山旅行、完膚なきまでに山の洗礼を受ける🏔

◆夏の薫り

8月のお盆を過ぎた頃、2年半振りの旅行に行くことにした。
以前は頻繁に行っていたから、とても久々の遠出である。
1泊2日の短い旅。つややかなゼリーのように光沢を帯びた新幹線が、駅に滑り込んでくる。夏風がふわっと舞い込んできた途端、わくわくが止まらなかった。これから行ったことのない土地へ行く。どんな場所なんだろう。

私は少し前、テレビで「ブラタモリ」を観ていた。なんとはなしに流れていく画面を、茫漠とした気持ちで見つめていたのだが、偶々映ったのが富山県だった。都市部ではなく、立山(たてやま)を特集している。タモリさんたちは、平地になっている室堂平(むろどうだいら)という場所にいるらしい。元来、ここは氷河だったとか、白い花崗岩が特徴的だと語っている。そのシーンで目が釘づけになった。私には、その白い岩が草むらに水玉模様を描くさまが、どうにも浮世離れしているように思えたのだ。ミュージックビデオの撮影地になりそうな場所だとも直感する。なんて美しい風景なのだろう。

エモい

このnoteのヘッダー画像は、まさに一番美味しい立山の風景である。
私はテレビを観ていて悟った。


立山はスイスだと。


かき氷の形をした山脈に、カルピスか、練乳のシロップがこぼれ落ちていく。溶けない根雪と氷河の軌跡。滴るまま静止画となった永遠の夏の風景は、訪れた者のみに涼を運び、全ての苦しみから解き放ってくれる・・・スイスだ。一度も行ったことはないが、ここはスイスなんだ。単に、お腹が空いているだけのような気がしてきた。過剰な憧れかもしれないが、こんな景色が日本にあるなんて知らなかった。天国?天国??天国???

勢いで図書館で借りたブラタモリの本。
アクセスのレベル高そうで真顔になった瞬間。

ひとまず、富山の立山について調べてみることに。室堂平は標高2450mらしい。頂上の立山は3015mと結構笑えない高さであった。富士山級かな?だが、室堂に行くにあたっては紫外線対策をしっかり行うこと、薄手の長袖を身に纏うこと、夏だから重装備でなくてもOKとの情報が出てくる。しかも、気温は10~20℃くらいとも。幅ありすぎて何を着たらよいものか。黄色矢印の室堂駅を目的地として、準備することにした。果たして行けるのだろうか?旅行に行くこと自体、かなり新鮮に感じる。

ドリブルをしながら相手をドライバーで仕留めるのだろうか

ちなみに、富山県といえば、プロバスケットボール選手の八村塁くんが富山出身で有名だ。富山といえばLRT・黒部ダム・富山ブラックラーメン・八村塁くんが浮かんだ。改めて八村塁くんを調べると、電動工具のマキタにイメージキャラクターとして抜擢されていた。この構図はあまりにもシュールである。どんな無茶ぶりも引き受ける人柄の良さに、好感度が爆上がりした。

◆旅のしおり

1日目は、称名滝(しょうみょうだき)が絶景らしく、観に行くことに。
2日目は、室堂平を散策することにした。富山駅→立山駅→美女平(びじょだいら)→室堂平のルートを辿る。

2日目の夜はお寿司を食べて、そのまま帰る!という弾丸スケジュールだ。
今回は知り合いに会いにいく都合もあり、一人旅ではなかった。寧ろ、一人で行くには経験値がなければ精神的に厳しいと後に感じることとなる。山は特に・・・!!!

◆1日目

富山駅に着いて、まず驚いたのが、木造とガラスを組み合わせた駅舎の美しさだった。新幹線の次の駅が金沢だから、対抗してるのかなと思う。次に印象的だったのは、観光客の動線が完璧にできていること。駅に到着後、下りエスカレーターがそのままデパ地下のお土産売り場に突入する構造だった。笑いそうになるくらい計算されているのを感じた。

お土産売り場に、ランチできる場所もある。
そこで頂いたのは・・・

白えび天丼


白えびが人差し指のサイズで大きい。
味がかなり濃厚で、えびの出汁がぎゅっと天ぷらに凝縮されている・・・!
つゆ、たれ無し。予想外に味が濃いめで、ここじゃないと味わえない感じがした。かっぱえびせんのような、仄かなえび風味しか知らない民だったので、え・・・?おいしい!を連発していた。これがえびの本気(ガチ)・・・

称名滝に行くため、立山駅まで在来線で1時間揺られる。電車は田んぼの上をすいすい羽ばたき、やや錆びれた無人駅を止まり木にした。その繰り返しだった。広がる景色は寂しげかと思いきや、途中で部活帰りの高校生がめちゃくちゃ乗ってくるので、アンバランスな程に人は多いのである。

立山が近づくにつれ、森の中に突っ込んでいくので心配になる


立山駅から称名滝に向かうバスへ。バスに観光客は誰もいないのかと思ったら、年配の方が一名乗車されていた。皆、車で来るのが普通らしい。後に知る。

ほぼいないじゃん


真っ黒な背景が怖い

画面のフォントがおぞましい。地獄へのお誘いであろうか?日光のいろは坂のような曲がりくねった路地を、バスは重たげにカーブしながら走っていく。鬱蒼と森は深くなり、極めてアンニュイな雰囲気が漂っていた。

ムジュラの仮面(ゼルダの伝説)かと思った

称名滝停留所のバス停を降りると、称名滝まで徒歩20分で到着するとのこと。帰ってきてnoteを書いている今でさえ思う。なぜ徒歩20分も手前でバスを降ろすのか謎である。きちんと道路整備されているのだが、運転がついに面倒くさくなったのか、落石が多すぎて責任問題が発生しそうだから?ブラタモリの話だと、滝は大地を削るので、どんどん後退するらしい。7万年前は7㎞も下流にあったそうだ。その影響で手前で降ろすのだろうか・・・。考えていたら、前髪から全身びしょ濡れのレインコート集団とすれ違った。心がざわざわする。折り畳み傘しか持ってきていなかった。工事現場のおじさんが笑っている。「昨日雨がかなり降ったから、滝の方、楽しめますよ」

行く先々で落石注意

滝の動画を撮ったのだが、添付できないらしい・・・!

山頂から降り注いでいる!!
前日の大雨で災害級の濁流
暴風雨で前髪がワカメ状態に
岩肌の険しさ

称名滝に遠くから滝に迫っていく臨場感と、そびえたつ山壁の荘厳さが味わえた。

ずぶぬれの距離まで近づいたのだが、滝の風圧が強すぎて、折り畳み傘が一瞬でひっくり返ってしまった。完璧に台風中継である。呼吸ができなくなりそうで冷や汗が出る程、凄まじい。腕ごと風に持って行かれそうになるが手を離したら最後、二度と傘は帰ってこない。見立てが甘かったのを知った。(ああ・・・こういうところではレインコートなんだ・・・)雨で増水した滝が、山の頂上から毎秒3トン降り注いでいる。滝をかわいらしいものだと想像していたが、本物を見せつけられた。富山県ってこんなに自然が雄大なんだ。一生分以上のマイナスイオンを浴びたと思う。称名滝でびしょ濡れになりながらホテルへ。

富山LRT

帰り道、富山ライトレールが動いているのを目撃した!フォルムが未来的で美しい。結構前から気になっていたのだが、初めて見ることができた。アメリカやドイツでも走っているらしい。ここだけ海外の電車のような雰囲気で、外国人に受けが良さそうな気がする。

駅は街中を網羅されているので移動が楽しそう

旅行は大好きだが、アパホテルには初めて泊まった。部屋を探索していると、誰かの忘れ物・・・?テーブルの下からこんなものが出て来た。

アパホテル会長と専務の著書
夫婦のお写真と熱い意志

うわーーーーーーーーーーーー!!!!!すごいものを見つけてしまったっ!右上の写真怖すぎてわらう。唐突な夫婦写真とまえがきに「おっ・・・!」と感嘆の声が漏れた。


アパホテルって各部屋にこの本があるのでしょうか。
初見でじわじわきた。意志を表明し、本を置いてしまうという逞しい行動力、素晴らしいと思うのだが、それよりカメラアングルにツボった。

◆2日目

立山駅

2日目は、いよいよスイスのアルプスに近い場所、立山の室堂へ向かう。ひとまず立山駅に到着。黒部ダムや雪渓のポスターが貼ってあった。お土産売り場の布がフィンランドデザインを感じさせ、明るい気持ちになる。ここからケーブルカーで美女平、バスで室堂へ。

お土産売り場
ライブカメラに不安しか覚えない

泣きそうになったのだが、ライブカメラに霧しか映っていない。ヤバい気がする。おまけに気温が冬である。昨日まで気温37℃の世界で生きていたから、ショック死しないか些か心配。立山駅の地点では晴れているのに、どういうこと?

爆笑した

オロオロしていた時に、目に飛び込んできたポスター。ゆるいを通り越して煽り芸みたいになっている。LINEスタンプにしたら面白そう。喋る前から文句言いたげな、憮然とした表情である。脚先は丸くて可愛らしいかと思いきや、顔を見たとたん一切可愛げが無く、見かけで騙されるなと自ら訓戒させられる。猿なのか?人なのか?変態なのか?イラついてる時に見た日には、ポスターに向かってばかにしてんのか!って言ってしまいそう。

立山ケーブルカー

高尾山の倍くらいの傾斜を、落ちないでくれと願いながら上昇していく。

中継地点の美女平。暑いくらいの日差しも顔を出し、期待ができる。
室堂平(2450m)暴風雨

降りた瞬間、予想を超えるであった。マジで終わったかもしれない。冷蔵庫に閉じ込められた。フルレギンス・長袖2枚を着ているのだが、手が寒すぎる。見渡すと、室堂平までは軽装で来ている人も全然いるようだ。立山まで上る人はガチ登山服で、スキーのストックなどを装備している。この日に限って特に寒く、山の上は暴風雨に見舞われている。バスを降りた時、5組くらいが「あ・・・っ」とか言って引き返したらしい。それはそうだ。台風が近づいているような天候の中に突っ込むことになる。おやおやおやおや、おかしいな。

これが見えたはずなのに、スイスはどこ?
現実

これって、別の意味で天国への道なのかな。ここまでせっかく来たのだから、せめて有名な池、ミクリガ池だけは見届けたい。澄んだ青い池があるんだ。せめて少しだけ・・・。折り畳み傘は例の如く台風中継になってしまう。ごうごうと風の音だけが聞こえる。冷たい横なぶりの雨がレギンスに染み込み、靴もびしょ濡れになった。風圧で体にぺたりと張り付いた傘で身を隠していたが、前に進むのも辛い。指がかじかみ、帰ることができるか危うさを感じる。全て甘かった。他の観光客はレインコートを着て、てるてる坊主になり、足早に行進していった。都会から来た民に立山は怒っている。やはり、ネットの情報だけでは地元民の知恵に足るものは得られるはずもない。

真っ白な霧に溶けて、二度と引き返せない気がする泣
氷河が見えるのは日本で立山だけ(右)

皆、寒いので早歩きで移動している。私は何がしたいのかわからない。
アルプスは見えないのに・・・

お花畑が出てきて、安心して召されたかと思った

晴れていたら最高だったと思う。急に現れたこの花畑が幻想的で、夢見心地になった。この中で静かに眠ることができたら・・・。そう思っていたら、強風で折り畳み傘が急に裏返って、使い物にならなくなった。全身に小粒の雨が体当たりしてくる。15分くらい歩いた。

やっとミクリガ池に到着
晴れている時のミクリガ池
現実のミクリガ池


えっ・・・


手前でチャポ・・・という音がして、静かに波打っているだけである。
霧が深く、池のこの部分しか視界では捉えることができない。




ああああああああああああああああ
寒い思いしてこれって泣 アルプスのかけらもなかった。
山の天気は変わりやすい。今回は一向に晴れず、天候に恵まれなかったようだ。

過酷旅すぎる。この後、ダッシュで山小屋まで戻ったら、3分くらい全く呼吸が整わない。筋トレ不足?とか思っていたら標高2000m級か、そっか。酸素が・・・薄い・・・しまった走った・・・。


色々と後悔しながら、山小屋で震えながら靴下や雨用ズボンを買い、着替えた。このままではあまりに悲惨すぎる。旅行で失敗したことなかった。だからここから先はリベンジしたい!

室堂平のカフェにて

晴れていると雷鳥がいることもあるらしい。ふわふわで可愛らしい動画を観たけれど、いるはずもなく泣 クッキーから必死に雷鳥を想像して戯れる。

着衣泳したのと変わらない。全身冷え切って風邪を引きそうである。
どうにかこうにか検索したら、日帰り温泉を発見。

超高級ホテルなのに、日帰り温泉だけは900円と良心的であった。
そういう使い方があるのだと知る。タクシーを呼んだらすぐに向かうことができた。
命あたためた・・・!
振り返るとかなり過酷。
山の中腹とはいえ、室堂平、軽装だと無理。上下分かれているタイプのレインコート、防寒具、手袋、タオルは過剰なくらい詰め込んだ方が良い。傘は凶器にしかならない。山で誰も持ってなかったのがその証左。

おもしろサンドウィッチがある有名店

相変わらず麓は晴れていて、偶然通りかかったサンダーバード(!?)に入ってみることに。よくテレビに取材されているらしい。中は東京タワーの大きなモチーフがあったり、カラフルな電飾が光っていたり、レトロポップな世界観のコンビニ。おでんサンド等、斬新な取り揃え。

購入した氷見牛サンド。
身が引き締まっている。食べ応え抜群で元気が出てきた。

最後に回転寿司で、のどぐろ、ばい貝、白えびなど、富山県の海の幸を楽しむことができた。どれもつややかで、とても美味しかった。特に、イクラははちきれそうになりながら光を受けて輝いている。

のどぐろの炙り
ばい貝
たい・・・?
真ん中が白えび(生の白えびは富山ならではだそう)。つるんとした舌触りと甘い喉越し。

◆旅の道標

地元の方と話した。こんなにおいしい鮮魚を楽しむことができるなんて、贅沢ですね、と。そうしたら、その方は「元々沢山取れるから、贅沢ではないのですよ。高級扱いされているのを聞いてびっくりする。贅沢なものではなくて、こっちでは昔から魚を食べるのが日常だから」

私は、とれたての魚が食べられるのは贅沢なことだと思っていたので、これまで幾度となくその言葉を繰り返していたのを思い出した。土地柄だと思うが、肉料理の方が出番が多い。「ばい貝」という貝があること、それが食卓によく出ることで美味しいことも、今日初めて知ったのである。その地元の方からすると、肉料理の方が高級に思えるかもしれない。無意識に、自分の尺度で食習慣を計っていたのが恥ずかしくなった。これは恥ずべき事ではないのかもしれないが、飛び出してみたからこそ、思い違いに気づくことは多々あるように思う。アルプスではなく荒ぶった立山も観ることができた訳で・・・。また旅行を楽しみたいを思う。

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