インターネット接続の攻防
今や、好きな場所で、好きな時間にネットに繋げるのはもちろんのこと、通信量を気にすることなくネットができるなんて、なんて時代だ。
今から約20年前、時間に怯えながらインターネットに接続する時代だった。
当時は、常時接続のADSLという方式が普及する少し前の話で、ダイヤルアップ接続というものが主流だった。
ダイヤルアップ接続を簡単に説明すると、プロバイダが持つアクセスポイント(電話番号)に電話を掛ける要領でPCから電話を掛け、ネットに接続する手法である。
プロバイダは各地にアクセスポイントを持っており、ユーザーは基本、自分の住んでいる近くのアクセスポイントに接続するのが割安だったので、同じ市内にあるアクセスポイントに接続していた。
しかし、長時間のネットは禁物である。
近くのアクセスポイントに接続しているとはいえ、毎日平均2~3時間やってしまうと、月末の請求が1万を余裕で越えてしまい、親にこっぴどく怒られてしまうからである。
サブスク利用者達によるネット接続の攻防
しかし、これを解決する神接続法をNTTが提供していた。
その手法こそ、"テレホーダイ" という定額制オプションである。最近だと、サブスクという言葉がしっくりくるかもしれない。
テレホーダイは、こちらが指定した市内接続先において、夜23時~朝8時までどれだけ電話しても月額1800円という、潜在的ネット中毒者にとっては神オプションと言えるものだった。
もちろん、私は利用した。
22時57分にはPCの前でスタンバイし、接続コマンドに約3秒掛かるのを考慮して、22時59分57秒に接続コマンドを開始するという "3秒前作戦" に落ち着くまでに、そう時間は掛からなかった。
因みに、当初は真面目に23時になったら接続コマンドを走らせていたのだが、同じような輩が多数存在していたようで、アクセスポイントが混雑で接続不能となることが多々あった。この接続不能モードに一旦入ると、それが解除されるまでには相当な時間を要した。
チケット発売開始時刻に、オリンピック公式ホームページに突撃してフリーズして、更新して、フリーズするを繰り返すのごとく、接続コマンドを連打してもからっきしダメなのである。だいたい平均30分位で混雑が緩和してくるが、酷い時には、24時まで掛かる時もあっただろうか。
しかし、この "3秒前作戦" の時代は長く続かなかった。なぜなら、同じように追随してくる輩が出てきたからだ。
こうなると、もう思い切るしかない。10円払って3分を買うのである。つまり、22時57分に接続開始するという作戦である。
接続さえしてしまえば、こっちのものである。もはや、何人たりとも私の接続を排除することはできない。朝までしっかりとネット内をパトロールするから、安心してくれと言わんばかりに。
しかし、この "3分前作戦" の時代も長く続かなかった。なぜなら、同じように追随してくる輩が出てきたからだ。
こうなると、もう収拾がつかない。どこまで行くかのチキンレースである。
ADSLが出るまでの間、私は22時54分にBETし続けた。
結果は、私の百戦錬磨であった。
端から見れば、神聖なるリングに凶器を使った反則技を持ち込んでいるように見えるかもしれないが、そこは、ローラのタメ口だと思って許して欲しい。
接続してからが本当の勝負
接続を無事に終えた後にも問題があった。それは、回線スピードが遅い問題である。
今でこそ1Gbpsという通信速度となっているが、当時はISDNという最先端の接続方式でも64kbpsと、現状の1万分の1のスピードだったのだ。
例えば、ヤフートップニュースを見るにしても、ホームページが完全に開き切るまでに10秒は掛かったのではないだろうか? テキストはすぐ読み込めるのだが、僅か50kBの画像がページ内にあった日には、上から下方向にかけて、旧式のプリンタのごとく画像を少しずつ読み込んでいる有様だった。
それでも、ネットに初めて繋がった時の衝撃は忘れられない。当時はgoogleなどなく、検索エンジンはヤフーとinfoseekで2分していたのだが、気になるキーワードを入れてみると、全て無料でそれに見合ったホームページへ案内してくれたからである。
芸能、音楽、ちょいエロ、学問、ファッション、ゲーム、ちょいエロ、グルメ、スポーツ等 私の期待に十分過ぎる程応えてくれた。
しかしながら、凄い反面、ヤバイこともあった。それは中毒性が高いのに加えて、夜開始という点だ。
時間に怯えたくないゆえに、どうしても開始が23時になってしまうのと、ネットという無限の世界を探求したいという衝動が相まって、常時寝不足という不健康な状態を作り出してしまうのだ。
寝不足だと言うまでもなく、次の日に頭が回らないし、ネット中に寝落ちして、接続状態のまま8時を越えてしまい、朝一からおばちゃんが長電話している状況と何ら変わらない結果になってしまうなども普通にあったが、今となっては良い思い出である。
一時接続 ⇒ 常時接続に切り替わって
今やかつてのように、PCがある家に帰ってようやくネットを見るといった時代ではなく、スマホ一つでどこでもネットを見れるという意味ではテレホーダイのように制約がないので、ネットはより身近な存在になっている。
そして、接続するまでの手間が掛からない上に、SNSやネットゲームといったコミュニケーションを楽しくさせるツールが、ネット滞在時間を引き延ばしているのも理解できる。
しかし、環境のせいにしてはいけない。結局、自分の健康は自分で守るより他ないのである。
そういう意味では、ネットが身近でない時代を通り抜けてきた人たちの方がネットに対する自己統制がまだできるのかもしれない。
敬具
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