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モンゴル滞在記 (2)都市の相似性

都市の相似性


2021年に新しくなったばかりのチンギス・ハーン空港から、ウランバートル市内までは車で約2時間。バスの中から、時折ゲルがみえた。初リアルゲルである。それだけで歓声をあげる。
トラベルガイドは読んだものの、正直なところモンゴルのリアルなイメージはほとんどない。「スーホの白い馬」くらいしか知らない。しかも馬頭琴の由来に関する物語であるこの物語は、モンゴルではほぼ知られていないという現状。絶対に「私のモンゴルのイメージ」と「リアルなモンゴル」には大きな違いがあるに違いない。
機内から見えたモンゴルを思い返した。空から降りてくるにしたがって見えてきたこの国は、これまで訪れた国々とはまるで違っていた。茶色い高原がどこまでも広がっていて、遠くに山々がそびえ立つ。ファンタジー小説の中でも映画のセットでもなく、本当にこんな場所があるのかと息を呑むほど神秘的だった。
Wi-Fiにつなごうとスマホをいじっているうちに、バスは市内に近づいた。看板がみえる。けれどまったくもって文字がわからない。どう読むか見当もつかないキリル文字。本来のモンゴル語は縦書きだったそうだが、数学を学ぶ際に不便なため横書きが導入されたそうだ。ロシアと同じ文字。でも、互いに“キリル文字だ”ということはわかっても、なにを書いているのかはわからないらしい。もちろん、私はモンゴル語はおろか、ロシア語もまるでわからないのだけど。

モンゴル語の書道。息を飲むほど美しい。


街並みを眺めているうち、私は自分がどこにいるのか自信がなくなってしまった。モンゴルに来たばかりだというのに、東京に戻る高速道路を走っているような気になってくる。いや、もしかしてここはドバイで早朝で、今から空港に向かっているのかもしれない。そんなまさか、これは空港に向かうロンドンだろ?
どうも暗闇に浮かぶ都市は、それも空港と市内を結ぶ道なりは、どこも似てきてしまうものなのかもしれない。日本の地方都市に行った時に、東京と似たような駅ビルと街並みをみた既視感のようだ。どこに住んでいても、利便性を加味すると必要なものはある程度似通ってくる。
それか、もしくは国際的に「空港への道路都市計画は我が社に!」という組織が暗躍していて、どこの国の工事も一手に引き受けているのかもしれない。真っ黒なスーツを着て真っ黒な靴を履いた男たち。夜の都市を一枚の紙のように大きなハサミで切りぬいてゆく。明かりや窓も器用に切り抜き、少しずつ都市を広げる。彼らのお気に入りの切り絵はいくつかの建物に限られていて、だからどこも同じような都市になるんだ。
そんな想像をしているうちに、私たち一行はホテルで降ろされた。


シングルと聞いていたものの、部屋はツインだった。広い。ストレッチできる。動きの確認ができる。スーツケースが広げられる。以前泊まった、スーツケースすら広げるスペースがなかった部屋を思い出した。そういえば、パリの北駅近くのホテルはスーツケースを広げるどころではなく、荷物の置く場所すらなかった。シングルベッドの半分に物を並べ、眠る時はわずかなスペースに横になった。売れない印象派画家になった空想をしながら眠った。しかし、ここは広い。土地に余裕があるのか、都市としてのスペースが広いのか。もうこれだけでモンゴルが好きになれると思った。時差も1時間。眠るのに困ることはない。完璧じゃないか。

ホテルの部屋 落ち着く


翌日、日本・モンゴル外交関係樹立50周年記念事業である「Japan Festival in Mongolia 2022」のリハーサルへ出発した。昼間の光の中でみるウランバートルは、「モンゴル」と言われて想像するゲルやラクダの世界と違っていて、完全に都市だった。シャングリラホテルもあれば、歩いている女の子たちもおしゃれだ。「都市」であったことに対するちょっとした残念感と、「都市」であることに対する強い安心感が同時に沸き起こった。都市部でのコンサートならば、機材が足りないということはない。
というよりも、たどりついた会場、NATIONAL AMUSMENT PARK の中のWHITE ROCK CENTERは、想像以上に素敵なステージだった。
ここで8月20日と21日の2日間、歌わせていただくことになる。

英語の記事はこちらから


https://ekotumi.medium.com/travel-to-mongolia-2-the-city-similarities-f1645f082f9

モンゴル滞在記 次回は...

(3)平和ボケという欺瞞
https://note.com/ekotumi/n/n17c237b9e361
(4)ラクダの子守唄
https://note.com/ekotumi/n/n1b313c297bc0
(5)本の旅
https://note.com/ekotumi/n/n0ea854b0ad57
(6)拡大しつづける民と安定を求める民
https://note.com/ekotumi/n/n37c8f6c6e27a
(7)ゲルと恐怖と砂漠と
https://note.com/ekotumi/n/n0ec232d014c8
(8)ゴビ砂漠への旅
https://note.com/ekotumi/n/n7319796de9e0
(9)我夢に胡蝶となるか 胡蝶夢に我となるか
https://note.com/ekotumi/n/ne552689ffb0b
(10)赤い土地バヤンザグ
https://note.com/ekotumi/n/n6157eefc4a99

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