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増加する精神疾患-職場におけるメンタルヘルスへの新たな焦点-

厚生労働省が定める4大疾病に2013年度から精神疾患が加わり、5大疾病となりました。

感染症のように増加の一途をたどる精神疾患。

今後、職場でのメンタルヘルス対策はますます重要視されるでしょう。

不知火塾 第8回目のテーマは、大阪公立大学 神経精神医学教授の井上 幸紀先生による「大阪からみた職域のメンタルヘルスの現状」で、最新の知見を吸収できる内容でした。

企業と産業保健の双方の視点から、最新のメンタルヘルスを学んでみませんか。



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次回は10月4日(水)
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1. 大阪における職域のメンタルヘルスの現状

1-1.大阪市との共同調査

井上先生は、労働者の現状を知るために、大阪市内にある唯一の大学病院である大阪公立大学と大阪産業保健推進センターと、1,000社以上の協力を得て、公的に共同調査を実施したと話されます。

その結果、大阪府内では、うつ病による休職者が2000年から2004年までの5年間で5倍、2000年から2014年までの15年間で約8倍に増加したそうです。

このように、大阪では産業メンタルヘルスの需要が非常に高いことがわかります。

1-2.背景と考慮すべきこと

この背景には、2つの社会的変化が影響していると指摘されます。

● IT化
● 生活環境の変化

個性や多様性が尊重される一方で、企業内では集団や規律が求められ、これに適応できない人々が増えているそうです。

社会の変化は個人にとって大きなストレス要因になるため、適切な支援とアドバイスが必要とのこと。

また、ストレスの原因は社会の変化だけでなく、常に存在するものもあり、ストレスチェックだけでは対処しきれない個人的要因職場外要因も考慮すべきだと述べられました。

社会の変化をキャッチしながらも、個人を包括的に評価する必要があるため、より専門性が求められるとお話されます。

産業現場ではメンタルヘルス不調者が増加し、障害者雇用の機会も広がっているため、メンタルヘルス対策の重要性がさらに高まる社会になると示されました。

2. 増加する精神障害の労災認定

精神障害による労働災害の件数は年々増加しており、企業にとって危機管理の側面でも労働災害対策は重要だと話されます。

労働災害が企業に及ぼす影響の例
● 賠償金の支払い
● 風評被害や株価の暴落
● 良い人材の減少
● 職場や組織の士気の低下
● 管理職や経営者への不信  など

安全配慮義務違反をすると労働災害に認定される確率が高くなるとも。

安全配慮義務に関しては、業務起因から、持病の悪化などの業務関連起因にまで解釈が拡大されているそうです。

精神障害の労災認定のハードルが低くなることで、さらにメンタルヘルス対策が重要になるでしょう。

3. 注目すべき精神障害の病態

井上先生が、大阪において気になっている4つの病態について説明をいただきました。

◆ 適応障害

2000年から2014年までの15年間において、大阪府内で適応障害と診断された休職者は約28倍に増加しているとのこと。

ただし、適応障害の診断書は正しく診断されているのかを疑う必要があると話されます。

職場不適応者(状態)適応障害(病気)はイコールではないため、うつ病や発達障害など、ほかの障害の有無を確認することの重要性を説かれました。

◆ うつ病

うつ病は職場で不適応を引き起こす一因であると話されます。

部分寛解の患者の75%以上に抑うつ気分や身体についての不安、一般的な身体症状などが認められるため、復帰後の職場ではプレゼンティズム(出勤しているが、健康問題により労働遂行能力、労働生産性が低下した状態)が発生する可能性があるとのこと。

プレゼンティズムを最小限に抑えるために、適切な薬物療法が重要であると話されます。

◆ 発達障害

個性・多様性が尊重される社会風潮により、発達の問題が目立たず、成人期に初めて発達障害と診断されるケースがあるとおっしゃいました。

個性・特性病気・障害の境目の一つの目安は、”事例性””困りごと”と表現され、自分が困っていたり、周囲を困らせていたりすれば、発達障害としてのアプローチが大切になるとのこと。

個人のスペクトラムの濃淡に合わせた配慮が必要だと述べられました。

◆ 心身症(身体症状症)

心身症において、大切なのは器官選択性であると話されます。

具体的な症状は、個人によって異なるものの”SOS”が特定の器官に出る傾向があるそう。

例えば、ストレスが胃潰瘍として胃に現れる人の場合、胃薬を服用すると胃潰瘍は治癒しますが、ほかの部位に身体症状が出ることがあり、このような症状が長期間続くと、突然死や過労死に繋がることも……。

そのため、その人の”SOS”になっている器官を見定め、薬物治療だけではなく心理行動的アプローチも必要になるとおっしゃいました。

4. 身体症状を丁寧にひろう

メンタルヘルス不調だけではなく、抑うつや不適応に隠れている発達障害の有無やその人の特性・価値観、どういった器官に症状が出ているかなどの身体症状も含めて、丁寧に診ていかねばならないと話されます。

うつ病、適応障害など基本事項の知識は大切であり、適応障害などの診断書の影に他の疾患も考えながら、薬物療法、精神療法、職場環境改善を同時併行することが大事であるとのこと。

最後にさまざなな労働者が、普通に働ける職場環境の構築にご協力いただけるよう締めくくられました。


講座を通して、うつ病、適応障害など基本事項の知識や注意事項を学ぶことができました。

また、診断書の影にある他の疾患を考えたり、ストレスが出やすい器官を見定めたりするのは、今までにない新しい視点でした。

最前線のお話をありがとうございました。


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次回は10月4日(水)
「トラウマケア」
(白川 美也子先生)
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