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(18)5歳頃からの積読本が「本読む子」への最短ルートでした~10年前に出会ったママさんへ~

 
 お手紙、つづきです。 

「家にある本で、デジタル漬けになる前に『読む』習慣を」

              ・・・というお話をしています。
 
 低学年までは動画やゲームがなくても十分楽しく過ごせます。
 「みんな見てる」「そういう時代」は少し横においといて・・・
 〝読む楽しみ〟にすんなり出会える時期を大切にしたいなと思います。
 
               
・お手紙(17)はこちらからどうぞ。
(17)5歳頃からの積読本が「本読む子」への最短ルートでした~10年前に出会ったママさんへ~|涼原永美 (note.com)
 
 
 今日は

「美しい〝書き言葉〟に出会うこと

          ー『星の王子さま』を再読してー」

 というお話です。
 
 
 さて、シオリさん。
 
 紙に印刷された本の文章って、とりわけ素晴らしい特徴があるんです。
 どんなところか、わかりますか?
 
 ――これは私自身、出版社で働いた経験がなければイメージとして定着しなかったことだと思うので、先に答えをお話しますね。
 

 印刷にかかるまで何度も何度も推敲され、磨きあげられた文章です。

 出版物は、磨き上げられた文章・言葉の宝箱

  ・・・そう私は思っています。

  インターネットにアップされている文章が「そうではない」と言っているのでは全然なく、あくまでも紙の本をつくる工程のお話です。
 
 文章のプロと言われている人達は、当たり前ですが素晴らしい技術やセンスの持ち主。
 そういう人達が本を出版する場合、本人はもちろん、何人ものプロがその文章を読んで、わかりづらい表現や間違いがないかを見直します
 
 書き手が文章のプロじゃない場合も、出版に関わるプロ達が読みやすくなるような構成を考えたり、校閲や校正をします。・・・当たり前ですがこれは、ゴーストライター的な意味合いではなく、出版物の当然の手順として行われること。
 
 本を書く人や編集をする人は、どんな人に向けて、どんなことをメインに伝えようか、それにはどんな言葉遣いや文章量が適しているか・・・などを、かなり丁寧に工夫・検討して本を仕上げています(もちろん挿絵や装丁も)。
 

 もし、私達が何かの本を読んだ時に、
「特別すごい、特徴のある文章とは思えないな・・・」
と感じても、スラスラと読みやすい内容であればそれは、
「不特定多数の人がすんなり読める文章」として意識して書かれたもの
なんですね。
 
 逆に、作家が自分の作品として小説やエッセイを世におくりだす時は、あえてクセがあったり、個性的な文章を書くこともあるでしょう・・・そしてそういう作家さん達は当然、「ごくふつうの読みやすい文章」も書くことができるんです。

 
 また、子ども向けに軽いタッチで書かれた文章は、子どもが理解できるように、当たり前ですがあえてわかりやすい言葉を選んでいます。
 
 子どもの頭に「すっ」と入っていく文章を書ける人というのは、じつは文章の達人が多いです。
 難しい言葉も文章もたくさん頭に入っていて、その中から
「この言葉はどうかな?」と選び抜いて読者(子ども)に伝えようとしています。

 
 作り手、書き手が文章を磨きに磨き、どうしたらテーマが伝わるかを考えて世に出しているのが一冊の本。
 

 そんなふうにして作られた本を子どもが繰り返し読んでいたら、文章力、語彙力が磨かれるのは当たり前

・・・なんです。
 
 だから、「よく読む子」は人に何かを説明したり、自分の気持ちを伝えるのが自然とじょうずになりますし、文章を書くのも嫌がらない子が多いと思います。
 
  

読む習慣があれば、学問として後から一生懸命学ばなくても、
書き言葉が自然と身に付きます。 


 
 学校では「読書感想文」や「作文」を書くことがしばしば求められますよね。
 ふだんから読む習慣がある子は、「登場人物の気持ちや出来事」が文章で表現されていることに慣れているので、書きたい内容をイメージすると、
それが文章となって手が動きやすくなります


  もちろん読書感想文で賞をとるとか、優れた書き手になるかどうかは別問題ですが、読む習慣があれば少なくとも「文章」というものに拒否反応が生まれません。
 
 慣れていない子に「文章を書いて」と言うと、話し言葉を書き言葉に変換するのに苦労するために、疲れますし、そのうち嫌になってしまいます。
 先生に添削されても、書き言葉と話し言葉の違い自体、ピンとこないので、難しい子には難しいんですね・・・。
(もちろん、読書習慣がなくても学力でカバーできる子もいます。これはすごいことです・・・)
  
 動画にも教育系のチャンネルがたくさんありますが、動画を見ているだけでは「書き言葉」はなかなか身に付かないので、これは「読む」行為が圧倒的にカバーできる学力面かなと思います。 


 ところで、 

 美しい書き言葉・・・で私がいつも思い出すのは「星の王子さま」

 です。
 
 いろんな仕様、いろんな訳者のものが出版されているのですが、私の手元に今あって、最近よく再読しているのは「星の王子さま」(原作・サン=テグジュペリ/文・奥本大三郎/白泉社)というバージョンで、子ども向けの絵本のような仕様になっています。

 フランス文学者で作家でもある奥本大三郎氏による「子供のためのあとがき」には、「星の王子さま」の中から「特に大切だと思われるところを選び、短く書き直したもの」とあります。
 
 子どもに絵本のようなかたちで気軽に渡しやすいので、我が家で大切にしている一冊なのですが、本当に文章が素敵で、読み返すたびに
「・・・美しい」とうっとりしてしまいます。

   「星の王子さま」というあまりに有名な物語については、今ここでその魅力を語りませんが、この一冊から一部文章を引用させていただきます。  


 王子さまは、キツネのところにもどって、もう一度、別れをつげた。
「さよなら・・・」
「さよなら、じゃ秘密を教えてあげる。とってもかんたんさ。心で見るんだよ。大切なものは目に見えないんだ」
「・・・大切なものは目に見えない・・・」
 王子さまは、忘れないように、キツネのことばをくりかえした。
「時間をかけて世話してあげたからこそ、きみのバラは、きみだけの特別なバラになったんだ」
「・・・時間をかけて世話したからこそ・・・」
「忘れちゃだめだぜ、自分が大切にしてやった相手に対して、きみはいつまでも責任があるんだ。あのバラに、きみは責任があるんだ・・・」
「・・・ぼくは、バラに責任がある・・・大切にしてあげなきゃ・・・」
 王子さまは忘れないように、そうくりかえした。

「星の王子さま」(作・サン=テグジュペリ/文・奥本大三郎/白泉社)p37-38より)

 

 はぁ・・・。今こうして打ってみても、なんて素敵なんだろうとため息が出ます。
 物語全体が美しい文章に溢れているのですが、すべてを書くわけにいかないので、有名なバラに関してのやりとりにしました。

 原文のフランス語は私には到底わかりませんが、原文をどうしたら子ども達に伝わりやすく、まるで会話が目の前で生きているかのようにリズムよく、本質を届けることができるか・・・練られた訳だと感じるのです。

 
 そして、さらに胸を打つのは、奥本大三郎氏による「子供のためのあとがき」の後半です。
 引用させていただきます。

 
  この本で、私は皆さんに三種類の言葉づかいを覚えてもらいたい、と思っています。それは、
 子供と大人   (王子さまとパイロット)の言葉づかい
 恋人同士    (王子さまとバラの花)の言葉づかい
 子供とその友だち(王子さまとキツネ)の言葉づかい
 の三種類です。
 作者は、とりわけ、他の人の気持ちを汲み取り、大切にすることを教えているように、私には思われますが、そうした心は言葉づかいに表れるのです。
 言葉を大切に、いつまでも澄んだ目を持った人でいてください。
 

「星の王子さま」(作・サン=テグジュペリ/文・奥本大三郎/白泉社)子供のためのあとがき
より)


 
 ーー今このあとがきを、10歳に満たない子どもが読んだらどう感じるでしょう?
 たぶん何となくしか、理解できないことでしょう。

 ーーそれでもいいんです。

 何となく、何かを感じて、心に引っ掛けておいて、いつか成長した時にまた読んでみて、「あっ」と思う
 
 ーーそういう体験をしてくれたらなと願います。

 だからこれは、絶対に手放さない、我が家の宝物のひとつです。
 家にあることが、大切なんです。
 

 私は、景色や絵や音楽や誰かの姿や心のことを「美しい」と感じるのはもちろんですが、文章を「美しい」と感じる感性を、子どもに持ってほしいと思います。
 
 美しいものは、美しいと感じる心があって成立しますよね。
 完成された謎解きや数式を「美しい」と感じる人もいますし、そういう「感じる心」のチャンネルをたくさん持っていると・・・いろいろ大変なことも多い世の中ですが、それでもキラキラしたものを見つけて生きやすい・・・と思うのです。
 
 
 お手紙、つづきます。

 
「この場所に点あるだけで違うね」と 言葉のニュアンス知る7歳
 


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