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(1)5歳頃からの積読本が「本読む子」への最短ルートでした~10年前に出会ったママさんへ~

 今から私が書くのは、10年以上前に子育てサロンで出会った、ひとりのママ友さんへの手紙です。
 
 その人を仮に、シオリさんと呼びます。

 正確には、ママ友さん…と言えるのかどうか、じつは会ったのは5~6回で、シオリさんはお仕事の都合で、出会って数カ月ほどで、遠くの街へ引っ越してしまいました。
 
 その時、子育てサロンに連れてきていたお互いの子ども(第1子)はまだ1歳。夜泣きや離乳食のことなど、いろんな悩みについて話しましたが、なかでも私達が共通して願っていたのは、「本好きな子に育ってほしい」ということ。
 
 そういうわけで私達は話が合ったのですが、少し違っていたのは、私が「自分自身が本好きなママ」で、シオリさんは「自分は本がちょっと苦手なだけど、子どもには本好きになってほしいと願うママ」――ということでしたね。
 
 だからシオリさんは、子どもを見守りながらサロンの本棚から本を取り出す私に興味を持って、話しかけてくれたのだと思います。
 
 ーーあの時、声をかけてくれて、本当にありがとうございます。
 
 シオリさんは言いましたね。
 「あの・・・いつも育児書を熱心に読んでいますよね。参考になりますか? ・・・本、お好きなんですか?」と。
 
 私が笑いながら「いいえ、育児書というよりは活字が好きで、本当は小説を読みたいんですけど、ふだんは全然時間がないので、ここに来た時だけ目についた本をめくっているだけなんですよ…」
 と答えると、シオリさんはなぜか目を少し伏せて言いました。
 
 「そうなんですね。・・・じつは私、本をあまり読まずに育ったんですけど、自分の子どもには本が好きになってほしいと思っていて・・・。学生時代もずっと、本を読んでいる人に憧れていたし、本を読んで育ったら、もう少し自分の気持ちをじょうずに表現できるようになったのかもしれない・・・って思うことがあるんです」と話してくれました。
 
 そして、「育児の情報誌を見ても、絵本の読み聞かせはすごくいいことだって書いてあるから、絵本はたくさん買ってるし、読み聞かせもしているんですけど・・・その先はどうしたらいいのかなって。私、自分が小学生の頃にはもう読んでいた記憶があまりないから、自分の子どもが小説とか、長い文章を読む子になるイメージが湧かないんです。書店や図書館に行っても本が多すぎて、何がいいのかもわからなくて・・・」と、話してくれました。
 
 それを聞いて私は「なるほど、そうなんだ・・・」と、少し新鮮に感じたのを覚えています。
 
 ――というのも、私自身は子どもの頃から本が好きで、出版社に就職して編集をしたり、文章を書く仕事をしていたので、逆に「本が好きじゃない人」が身近にあまりいませんでした。
 
 ひとり目の子どもを妊娠して仕事をお休みし、無事に産まれてからは毎日、子育てのことで頭がいっぱい。サロンでシオリさんに出会うまでは、子どもを「とにかく寝かせる」「泣き止ませる」「オムツを手際よく替える」「何時に授乳する」・・・とか、そんなことばかりを考えていて、「ほかのママ達が子どもに対して願っていること」・・・なんて考えることすらなかったのです。
 
 だからシオリさんとの出会いは、「私が子どもに願うこと」「ほかのママが子どもに願うこと」は、なんだろう、どんなことだろう・・・と、考えるキッカケになりました。
 
 ――そうなんです。

 私も、自分の子どもには「いつか本のおもしろさを伝えよう」と、何となく考えてはいたのですが、ほかのママ達が同じ願いを持っていながら、具体的な方法に関してイメージが湧いていないーーという事実に触れたことにも、ハッとさせられました。
 
 思えば私自身、1歳の長女を連れて子育てサロンへ通うようになったことが、新しい世界への・・・少し大げさに言えば「幕開け」だったのかもしれません。
 
 そこでまったく違う人生を歩んできたシオリさんに出会ったこと、自分の悩みや願いを打ち明けてくれたことで、私も気づきを得ることができたのです。
  
 ――さて、シオリさん。
 
 今はもう、あなたに会うことは叶いません。
 タイミングを逃してしまって、私達は連絡先の交換すらできませんでしたね。
 
 ――それでも、あれからずっと考えていました。
 
 そうそう、じつは私、結局あれから仕事に復帰できていないんです。
 いろいろなことがあり、結局この10年間、家事育児に専念してきました。
 本作りや、文章を書く仕事へ戻りたい気持ちもあったけれど、この10年の生活で得たものも、すごく大きかったと思っています
 
 あれからたくさんのママさん達とお話をして、シオリさんのように「子どもに本好きになってほしいけど、具体的にはどうしたら…」と考えているパパ・ママさん達が多くいることもわかりました。
 
 自分の子どもや、周りのお友達を見ながら、「子どもってこんなふうにいろんなことに興味を持って、成長していくんだな・・・」と自分なりに感じたことも、最近ではようやく少し文章にできるようになりました。
 
 ――ここまでに10年、かかりました・・・。
 
 だから私はこれから、10年前のシオリさんにお返事したいと思います
 
 ーー遅いかもしれません。
 ーー今さらかもしれません。
 
 でも私、今なら少しだけ、わかることがあるんです。
 この10年で、見つけたことがあるんです。
 
 だから私は、10年前に必死でオムツや夜泣きのことばかりを考えていた私自身にも、この手紙をおくりたい
 
 「子どもが本好きになりますように・・・」と願っている、かつての2人のママーーそしてほかにもきっといる、同じ願いのパパ・ママさんへーーこの手紙をおくります。
 
 どうか、あなたに届きますように。
 
 
 ・・・さて、話を戻します。
 
 これから私は

「いろいろ試して、子どもと話して、一緒に読んで、一周まわって、考えてみたら・・・結局『家にもともとたくさん本がある』という環境に勝るものはない――ことに気づいた」

 というお話をしたいと思います。
 
 家にもともとたくさん本があること。
 
 本棚の本・・・そして、手を伸ばせばいつもそこにある積読(つんどく)本。

 私は、積読本はよいものだと思います。

 
 そして、今ここで結論だけをお話すると、「本読む子」になる最短の道のりは、家にもともとたくさんの本があることと、次の道筋を整備することかもしれない・・・と、私は思います。
 
 
(1)子どもの人生で「出会う順序」を整える。本が先、スマホやゲームは後。
(2)子どもが夢中で読める本のジャンル・傾向を一緒に見つける
(必ずある)。
(3)
自転車を漕ぐように「読む」ことを体で覚える。
(4)字がだんだん小さくなっていく本選びをする。

 
 
 ・・・と、並べてみたのですが、いきなりいろいろ言われても、頭がハテナになってしまいますよね。
 
 これらはすべて、子どもが本を手に取るキッカケ、タイミング、たくさんの娯楽の中から本を選びたくなる環境、一冊の本を読み続けることができる気持ちづくり・・・などについて、私が数年間、子どもを見つめながら考えてきたことなんです。
 
 順番にお話していきたいと思います。
 
 ――もし、よかったら、おつきあいください。
 
 お手紙、つづきます。
 
 
本棚に世界があるの いつどれを取り出してもいい自由とともに

お手紙(2)はこちらへどうぞ
(2)~10年前に出会ったママさんへ~5歳頃から〝積読本〟と暮らすことが「本読む子」への最短ルートでした。|涼原永美 (note.com)
 
 
 


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