(連載小説)たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる<2章第5話>
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たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる
2章 渚沙と竹子の出会い
第5話 次の約束
「はーい、竹ちゃん、そろそろたこ焼きも焼きあがるで〜。どうやって食べる? お出汁効いてるからそのままか、定番なんはソースとマヨネーズ。ポン酢も美味しいで」
竹ちゃんは口の中の焼肉をごくりと飲み込んで、楽しそうに声を上げた。
「いろいろな味で食べてみたいカピ!」
「ほな、ちょっとずつ味変えよか」
渚沙は焼き上がった12個のたこ焼きを白い丸皿に盛り付け、一旦コンロの火を落とし、4個にソースとマヨネーズ、4個にポン酢を塗り、4個はそのままにしておいた。
「どれから食べる? 味の薄いのんからがおすすめやけど」
「では何も付けていないのからカピな。小皿に乗せるが良いカピ」
「はい、どうぞ」
渚沙がお箸で小皿にたこ焼きを載せてあげると、竹ちゃんは「うむ」と頷き、たこ焼きにかぶりついた。
「あ、熱いから気をつけて!」
「はふ、平気だカピ。はふ」
渚沙は焦るが、竹ちゃんは口をはふはふさせながらたこ焼きを頬張る。そしてやがて、うっとりと目を細めた。
「これは……美味しいカピね! たこの甘さが全体に広がっているのだカピ。牛の肉も美味しいカピが、たこの美味しさにはびっくりなのだカピ」
相当気に入った様子である。渚沙も自分が作ったものを、お祖母ちゃんのたこ焼きを、ここまで褒めてくれるのはとても嬉しい。それと同時に安心する。
「カピバラって確か、水辺で暮らすんやんねぇ。せやからお肉とかより海の幸の方が好きなんやろか」
「そうカピが、海では無いカピよ。野生が海辺に現れるという話は聞いたことがあるカピが」
「そっかぁ。でも同じ水やし」
「雑カピな」
あっけらかんと言う渚沙に、竹ちゃんは呆れた様子である。
「でもこのたこ焼きは良いものカピ。次はポン酢のを食べるカピ」
「はぁい。これもあっさり食べられると思うで」
渚沙はポン酢を塗ったたこ焼きを、竹ちゃんの小皿に取り分ける。
「うむ」
竹ちゃんはまた器用にかぶりつく。そして「ふむ」と目を弓なりにした。
「これも良いカピね。ポン酢が良い仕事をしているカピ。酸味が油を中和するのだカピな。たこの味わいも引き立つのだカピ」
「あはは。竹ちゃん、なんやグルメリポーターみたいやなぁ。テレビみたい」
「テレビ。聞いたことはあるカピ。確か娯楽だったのだカピ?」
「そうやで。映画とかドラマとかお笑いとか、そういうのが観れるねん。さすがに竹ちゃんは観たこと無いかぁ」
「丘の後、すぐに古墳だったのカピ。そんな隙間は無かったカピ」
「ほな、観てみる?」
渚沙は言うと、リモコンを手にして、ダイニングの壁際に置いてあるテレビの電源を入れた。この部屋はリビングも兼ねているのである。
お祖母ちゃんが「さかなし」を始めるにあたって建て替えた時、この2階に生活基盤の全てを整えたので、何かとコンパクトにまとめてあるのだ。ひとり暮らしだったので、リビングダイニングで充分なのである。
平日の夕方、テレビに映し出されたのはニュース番組だった。これだと竹ちゃんには面白く無いだろうと、渚沙はザッピングをしてみる。しかし時間的にどこの局でもニュースや報道バラエティだった。
「ごめん竹ちゃん。ニュースとかおもんないやろ」
「いや、日本の情勢を知っておくのも悪く無いカピ。それよりもうひとつのたこ焼きを寄越すのだカピ」
「あ、ソースマヨな。はいどうぞ」
最後のトッピング、ソースマヨネーズのたこ焼きを小皿に置いた。竹ちゃんはさっそくぱくつく。
「ふむ! これがオーソドックスな味付けなのだカピな。ふむふむ、これはこれでなかなか。ソースとマヨネーズのこってりさで、たこ焼きがまるでジャンクフードカピ」
満足げにふんふんと鼻を鳴らしている。この味もまた気に入ってくれた様だ。
家にある調味料では限界があるが、明太子マヨネーズやホワイトソースなどを掛けたり、中にチーズやキムチを入れたりするアレンジもある。「さかなし」ではそこまでの味付けはしないが、個人的にはありだと思っている。
今度また竹ちゃんにたこ焼きを食べてもらう機会があれば、いろいろと作ってみるのも良いかも知れない。
「まぁ、たこ焼きはジャンクフード言うても過言や無いけどね。B級グルメっちゅうか」
「グルメにA級やB級があるのだカピか? 人間の食生活は不思議なものカピ」
「A級グルメって明確に言うてるわけや無いけどね。でもたこ焼き、お気に召してくれたみたいで良かったわ」
「また食べに来ても良いカピか? テレビも、他の番組も見てみたいカピ」
「もちろん。いつでもおいで。あ、水曜日以外は朝から夜の8時までお店やってるから、それ以外の時間でな」
「分かったカピ」
また会えるんや。そう思うと嬉しくなり、渚沙はにっこりと微笑んだ。