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(連載小説)たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる<2章第3話>

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たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる
2章 渚沙と竹子の出会い
第3話 竹ちゃんとのふれあい


「ところで、お前の名前は? 竹子たけこは竹子カピ」

「あ、私は坂梨渚沙さかなしなぎさ。よろしくやで」

 名を問われ、渚沙は素直に応えた。受け入れてしまえば、妖怪だろうが何だろうが、相手は可愛いカピバラである。

 渚沙は妖怪の知識が乏しいので、見た目などで判断するしか無いと言うのが正直なところだ。それにこの竹子と名乗ったカピバラは渚沙に友好的に思えるし、危害を加えようとする気配も感じられない。

 伝承などをあまり知らないからこそ、幼いころに見たアニメなどの良いイメージを持っていられるのかも知れない。悪い妖怪も出て来たが、主人公サイドは良い妖怪だったはずだ。

「どこに住んでいるカピ? 堺市カピか?」

「ううん、近いんやけど、大阪市やねん。あびこって分かる?」

「竹子は堺市辺りのことしか知らないのだカピ。竹子はハーベストの丘で生まれ育ったのだカピ。妖怪になってからはすぐにここに来たのだカピ」

「へぇ、ハーベストの丘かぁ」

 堺市南区にあるハーベストの丘。アスレチックなどのアクティビティや、カピバラを始め動物とのふれあいができたりする施設である。シルバニアパークもあり、きっとファンにはたまらない空間だろう。

 最寄り駅は南海バスのハーベストの丘である。大阪はバス網が貧弱と言え、1時間に多くても3本が発着する程度。なので利便性の良い大阪メトロ沿いに住んでいる渚沙からしてみたら、不便なイメージがあった。

 そんなこともあってここ数年は足が遠のいている。確か幼いころに両親に連れて行ってもらったきりである。

「他の土地に興味があるカピ。渚沙、帰るのなら、付いて行って良いカピか?」

「そりゃあ構わへんけど、帰りはどうすんの? 私、また送った方がええ?」

 今日はこの大仙陵古墳に来ること以外の予定は無かったので、時間はたっぷりある。もし巧くここに帰って来れなくなってしまっては大変だ。1日に何度も往復するのは正直言って面倒ではあるが、迷子を出してしまうよりは余程良い。

「大丈夫カピ。1度行けば覚えられるカピ。他に用事があれば付き合うカピよ。竹子の姿は誰にも見えないカピから、大丈夫だカピ」

「あびこに戻ったら晩ごはんの買い物したいぐらいかな。スーパー行くで。ほか行こか。えっと、竹子ちゃん……、竹ちゃんて読んでええ?」

 竹子ちゃん、は渚沙には少し呼び辛かったのである。名前と、カピバラの雄の特徴であるモリージョが無いので、雌なのは一目瞭然である。

「良いカピよ。丘の飼育員にはそう呼ぶ人もいたカピ。懐かしいカピな。では行くカピ。世話になるカピ」

「はぐれん様にね」

 そうして渚沙は竹ちゃんと並んで、家路に着いた。

 ・

 JR阪和線の我孫子町駅に帰り着き、少し歩いた大阪メトロあびこ駅近くのイズミヤで晩ごはんの買い物をする。竹ちゃんに聞くと、お肉でもお魚でもお野菜でも、何でも食べられると言うことだったので、鉄板焼きをすることにした。焼肉用の牛肉やウィンナ、玉ねぎときゃべつなどを買い込む。

 渚沙は「さかなし」の2階でひとり暮らしを始めて、まださほど経ってはいなかった。幸いホームシックと言うものに悩まされはしなかったし、ひとりで食べるごはんもそう悪くは無かった。渚沙はひとりで飲食店に入れるタイプである。

 だがやはり誰かと食べるご飯は美味しいものである。今回のお相手はカピバラの妖怪だと言う変化球だが、意思疎通ができるのだから何ら問題は無いと思える。

 渚沙が知らない妖怪の世界。いろいろなお話が聞けるだろうか。楽しみだ。

 JR阪和線に乗っている時も、渚沙がカートを引いて買い物をしている時も、竹ちゃんは興味深げに目を輝かせていたが、おとなしくしていてくれた。ちゃんと付いて来てくれていたし、気が散ることが無かったので助かった。なかなかに常識的なカピバラである。

 そうして無事に家に帰り着く。2階の住居エリアに行くための玄関は「さかなし」の店内に入るドアの左にある。勝手口の様な小さな目立たない木製のドアである。そこを開けると細長いたたきがあり、廊下に繋がっている。それを進むと店内の裏手に出る。そこに店内に繋がるドアと、2階への階段があるのだ。

「うちな、1階でたこ焼き屋やってんねん。この前お祖母ちゃんの後を継いでな」

「たこ焼きとは、確か大阪の名物だったカピな」

「そうやで」

「竹子、たこ焼きを食べてみたいカピ。食べたことが無いカピ」

「そうなん?」

 竹ちゃんの意外な言葉に、渚沙は目を丸くした。何でも食べられると言っていたから、たこ焼きなどはすでに経験済みだと思っていたのだった。


がんばります!( ̄∇ ̄*)