世界28ヵ国の調査から見えてきた次世代都市交通としての自転車の可能性と課題
自転車を大切にする街が注目される理由
次世代都市交通の手段として、自転車が世界的に注目されています。背景には、エネルギー問題や気候変動への意識の高まりなどがありますが、「車を前提とした街」と「自転車や歩行者を前提とした街」とでは、特に中心市街地での人びとのコミュニケーションに変化が出てくる点も重要です。
どのような交通手段を優先させて都市計画を行うのかは、「その街の顔」「その街の性格」をも左右します。
同じアメリカでも、ニューヨークシティのマンハッタン島では、1区画の大きさが歩行者(人間)のスケールで規定されています。対して、西海岸のロサンゼルスの1区画は、車の距離感やスピード感をベースとして設計されています。
街の中で、人びとがすれ違い、挨拶をし、時には立ち話をするようなコミュニティは、人を中心としたスケール感でデザインした街で起こりやすく、車中心の街ではこの種のコミュニケーションは希薄になることでしょう。
どんな交通手段を優先させて街をデザインするのかという問題は、どのような性格をもった街をつくっていきたいのかという問題と密接にリンクすると言えます。
28ヵ国の人びとの自転車に対する意識調査
ヨーロッパを拠点とするコンサルティング会社イプソス(Ipsos)は、28ヵ国の成人に行った自転車に関する調査結果を発表しています。
https://www.ipsos.com/en/global-advisor-cycling-across-the-world-2022
この調査によると、経済レベルやその国の気候等によってバラツキはあるものの、28ヵ国の成人の多くが、自転車は、二酸化炭素排出量の削減(平均86%)と交通量の減少(平均80%)にとって重要な役割を果たすと回答しています。
「危険」との認識が自転車利用率に影響する可能性
どのような国で自転車の利用が盛んで、どのような国で低い利用率にとどまっているのでしょうか。
この問いに迫ることは、将来的に「自転車フレンドリーな街に向けて舵を切りたい」と考えている自治体にとって、政策的に気をつけるべきポイントを考える上でのヒントを与えてくれるでしょう。
気になるデータは、「自分の住むコミュニティで自転車での移動は危険だ」と考える人たちがかなり多いというものです。調査対象となった28ヵ国の平均をとると、なんと半数以上にのぼる52%の人が、「自分の住む地域でのサイクリングは危険だ」と考えています。
そして、この「危険認識」と「自転車利用率」の間には、どうやら負の相関がありそうだということも見えてきました。以下の図は、そのことを示唆していると考えられます。
X軸は、自分の住む地域でのサイクリングが危険だと考える人の割合で、Y軸は、2キロ(ないしは1マイル)の移動において自転車がメインの移動手段としている人の割合を示しています。
この図を見ても、ずば抜けているのはオランダで、「自転車先進国」としての風格を漂わせています。この図を見る限り、日本は、中間の比較的よい位置につけていることが読み取れます。
日本は、自転車に「冷たい国」なのだろうか?
ただし、28ヵ国の中で、日本はいくつかの調査項目で特徴的な(極端な)世論を持っていそうなことも見えてきました。
上の図は、「自分の住む地域の新しい道路・交通インフラプロジェクトでは、自動車よりも自転車を優先させるべきだ」と考える人の割合を示しています。
28ヵ国の平均が64%であるところ、日本は45%にとどまっています。50%以下の国は、カナダ、米国、オーストラリア、日本、イギリスの5ヵ国のみにとどまっています。
上の図は、「自分の住むコミュニティの交通手段としての自転車を好意的」に捉えている人の割合を示しています。
調査対象国の28ヵ国の平均が、82%であるところ、日本は66%にとどまっています。60%台は、日本の他に、イギリスとオーストラリアのみという結果になっています。
なぜなのか、と疑問に思う方も多いと思います。もしかすると、ここでも「危険」という認識が影響している可能性があります。
上の図は、「自転車は、車やバイクと同じくらい歩行者にとって危険である」という認識を示す割合を示しています。
グラフを見てもらうと、日本が他国と比べて飛び抜けています。なんと、82%の人が、自転車は車やバイクと同じくらい歩行者にとっての脅威だと感じているようです(28ヵ国平均は、59%)。
最後に、「自転車は車の運転者にとって危険な存在である」と考える人の割合を見てみましょう。
この設問でも、日本は他国に比べて極端な値を示しています。なんと、82%の人が、「自転車は車の運転者にとって危険な存在」だと考えているようです(28ヵ国平均は、55%)。
つまり、歩行者側から見ても自転車は「危険」な存在で、車の運転者側から見ても自転車は「厄介な存在」だと考えられているということでしょう。
じゃあ、日本で自転車は、どこをどう走ればよいのでしょうか?
次世代都市交通として、自転車の重要性は多くの人が認めています。でも、「邪魔者」としての見方は、根強いようです。世界水準から見ても、「外れ値」にあるような状況です。
人びとの認識の変化も大切かもしれませんが、認識だけでは限界があります。政策的な対応も同時に重要な領域だと言えるでしょう。