あーやん

闘病中です〜私の物語をただただ書いています。

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最近の記事

(22)夏の会津

夏休みは、祖父母の家に居候だ。 夏休みの課題は三日で終わらせた。公務員試験の勉強がしたかった。買ってきたテキストは厚い。 畳に座り込んでタイマーを入れる。このページまでを1時間でやる。やったら休憩だ。 タイマーと私のスイッチははいった。 祖父が本を買いたいといい、祖父母と車で出掛けた。 祖母は私に言う、名前が悪かったから病気になったんじゃないのか。 そんな訳ない、私は思った。しかしおばあちゃんがそう考えてしまうのはおばあちゃんが悪いわけではない。名前のせいにしたか

    • (21)遠足

      遠足の日はちょうど誕生日だった。一年生の皆で横浜の赤レンガ倉庫に観光に行くのだ。 雨天だとクラスメイトが車いすを押していけないから、当日雨ならば皆んなが遠足に行っている間は図書館で課題をやることになっていた。 何となく雨だろうなと思った。 予感は当たった。 朝から私はおぼつかない歩きで一人図書室に行った。図書室の大きな窓から皆が横浜に出掛けていった後の校門を見つめていた。 担任が、あなたはいいのよ、と国語の課題は免除してくれた。残ったのは数学と英語の課題だった。国語

      • (20)見学ノート

        よたよたとグラウンドまで歩く。砂の地面はざらついて滑るのが怖い。転ばないころばない、念を込めて一歩いっぽ踏みこむ。そうしているうちに体育の授業が始まる。 快活なクラスメイトが、私の見学用のパイプイスを運んで授業が見やすい位置に置いてくれている。 私の居場所だ。 春風が私のシャンプーの香りを顔に叩きつける。砂ぼこりが舞う。強い風さえ、私には春を喜んでいるように思えた。 今日の授業の種目を説明する、先生の声が聞こえていた。ぼーっと遠いクラスメイト達を眺めながら耳を澄ました

        • (19)体育館

          体育の授業は好きではなかった。 どんなに一生懸命やっても、実技ができないから成績の評価もしようがない。5段階評価で1がつくと、全体の成績に大きく響く。かといって、3をつけると大多数の生徒と同じ動作ができたことになる。努力しようが動かない体だが、努力要と言いたげな「2」がつくのだった。クラスの成績の順位も変わる。病気というだけでこんなに不利なのか、体育の授業には重たい壁を感じていた。 中学校の体育の授業は、病気が分かってもできる範囲で参加するのだった。どうせ「2」だし、そう

        (22)夏の会津

          (18)制服

          4月から着られるんだ、可愛い制服。 制服の採寸に来ていた。ウエスト周りを測ってもらいながら、ぼーっと高校生活を想像していたりした。 特別に配慮の必要な生徒、ということで、3月に高校の事前打ち合わせと言って校長室に母と呼ばれた。先生方が六、七人程集まっていた。校長、教頭、学年主任、担任、養護教諭とそれぞれの雰囲気に圧倒されて、私は固まっていた。私のためだけに、こんなに大人が集まっている。皆私を見ている。私はどこを見たらいいのか。想像していた高校生活と今この現実が掛け離れてお

          (17)試験の日

          試験の日が来た。 自分は本番に強いタイプだ。 ドキドキする気持ちは全身に血を巡らせる。 この試験、このとき、この一瞬のために今までやってきた。 めったにない受験という試練に、血が巡る高揚感が私は好きだった。シャープペンシルを持つ右手は私の高ぶる気持ちのようにガツガツと紙の上を駆けていく。 学校から後日もらった採点の結果は上出来だった。国語は一問だけ時間が無くて空白で出したところ以外は全て正解していた。 私が本番に強い理由は自分でも分かっている。 何度も嫌だった小

          (17)試験の日

          (16)特別支援学校

          母が進路の選択肢に、障害のある生徒の学級がある、特別支援学校を提案した。行くか行かないかは別として、一応見学しておこうか。私に言って、連れていってくれた。 どんなところなんだろう、私みたいに元気無くした子たちがたくさんいるのかな。 想像と反対だった。 学校のロビーにつくなり、電動車いすの生徒会長が元気よく笑顔で出迎えてくれた。一緒に勉強しませんか、次期生徒会長になれますよ!私に言った。 年配の男の先生が嬉しそうに、あなたなら生徒会長ですね、どうですか、一緒にやりません

          (16)特別支援学校

          (15)塾長先生

          塾長先生は若い。27歳だ。 塾長先生に進学フェスティバルに行った結果を知らせなくてはいけなかった。 自分の番が回ってきた。 出願資格もない、そう言われたから諦めます。この学校には行けません。ときっぱり言った。 言えた、良かった。私だって行きたかったし、それをモチベーションに勉強してきたもん。 予想しなかった答えが返ってきた。 それでいいのか?行きたくないのか? 私は、キョトンとした。行きたくても、行けないんです、学校が認めないんです!口調は強かった。 だから、

          (15)塾長先生

          (14)ごめんね

          もう帰ろっか。母が言う。 進学フェスティバルに来た意味はさっき砕かれた。 うん、もう足が疲れたし歩く気力もないんだ、私は帰りたかった。 ふと制服が目に入った。 赤いリボンにアイボリーのセーター、ブラウンのチェックのスカート。可愛い制服だな、他人事にそう思った。制服を見つめる私に気付いた母が、制服可愛いねと私に言う。 私たちに気付いたブースの先生が、話し掛けてきた。 先生は母に楽しそうにこの学校を勧めるのだった。私なんかを迎えてくれる学校なんてあるんだ、こんないい話

          (14)ごめんね

          (13)進学フェスタ

          三年生になった。 中学三年生の生徒を対象にした、進学フェスティバルに母は私を誘った。県内の公立高校から、私立高校まで、各学校の特色をPRするイベントだった。 母は、私の病気による障害をフォローするのに、私立高校が融通が効くと踏んでいた。某高校のコーナーで、母が立っている先生に話し掛けた。 障害のある子なんですが、入学出来ますか?聞いた。 答えはNOだった。 健康な生徒が入学の条件ですから。出願資格もありません。返事はこうだった。余りにも想定していなかった答えだったか

          (13)進学フェスタ

          (12)親友

          塾に親友と一緒に通っていた。私は勉強をしてこなかったから、当然勉強すると成績は伸びた。 勉強しなかった人が勉強したら、成績が上がった。単純な話だ。勉強は嫌いでも苦手でもない。興味がなかっただけだった。親は勉強を強要するタイプではなく、宿題をきちんとやればそれでいいというタイプだった。 普段は苦手な英語と数学だけのコースだから少しの我慢ですんだが、塾の夏期講習はしんどかった。 クーラーが効きすぎな寒い部屋に朝から夕方まで閉じ込められっぱなし。課題がひっきりなしにやってくる

          (11)塾

          勉強は好きでも嫌いでもなかった。 正確に言うと、興味がなかった。 親友が、ずっと通っている塾に、私を誘うのだ。理由は、誘った人と、入塾した人それぞれに図書カード五千円分がもらえるからだった。親友の父親が塾の送迎をしてくれると聞き、母は快諾してくれた。 入塾体験は、苦手な英語の授業だった。 先生が、ブレッドって、日本語でなんて言う?と私に振ってきた。分からない時は、分からないって正直に言うのが大切だよね、と思った。 分かりません! 先生は、めげずに、朝何を食べてきた

          (10)スキー合宿

          中学校の行事に、スキー合宿があった。 歩くことが精一杯の私にスキーだなんてとんでもないことだった。 事前に説明があった。皆がスキーをしてる間、待機の先生方のいる小屋の傍で一人ソリ遊びをするよう提案された。断る理由も見つからず適当に了承した。 ソリ遊びは思っていたより大変だった。 雪の緩やかな坂をソリでくだったら、爽快だ。しかしその分足場の悪い雪の上を転びながら登らなければいけない。辛いなら雪の上にでも座っていればいいのに、子どもらしい無邪気さで何度も繰り返すのだった。

          (10)スキー合宿

          (9)秋

          母が、絵画教室を勧めてきた。 なんで今更、そう思ったが絵を教えてもらえるなら良い機会なのかもと思い通うことにした。 美術部を諦めてテニス部に入ったのに、病気で退部する運びになった私を、母は不憫に思ったのだろう。 そんなことは私には関係なかった。別に今楽しければいいのだ。好きな絵を好きなだけ描けるならいいのだ。週に一度だけ、学校終わりに近所のアトリエに通った。 こじんまりとしたアトリエに彫刻がたくさん並んでいた。いつも変わらず画材の匂いがした。 小学生の男の子と、私と

          (8)小さい友人

          夏休み、母の実家のある会津で過ごす。 優しい祖父母が迎えてくれる。二人とも温厚で、口数は少ないが、たまに言う冗談が可愛い人だ。 従姉妹の家族は、家族ぐるみの付き合いの友人家族と一緒に遊びに来ていた。従姉妹の友人は私より6つ歳下だった。生意気で喧嘩腰な弟のせいか、その子は実際より小さく見えた。 少し臆病で、恐るおそる伏し目がちに私と話してくれる。小さい女の子は可愛くて、妹のように愛しく思ってると、次第に楽しく話をきかせてくれた。 みゆちゃんの美人な母親には、おでことスネ

          (8)小さい友人

          (7)帰宅部

          部活を辞めたら、夕飯までの自由な時間が増えた。 図書館に行くのが好きだった。部活を何らかの理由で辞めたクラスメイトもいた。独りじゃないことがとにかく嬉しかった。 新着コーナーをチェックする。 “It(それ)”と呼ばれた子、という本が目に入った。その子に何があったのか気になった。実母による酷い虐待を受け、母親から名前で呼んでもらえなかったのが彼だった。酷い話だった。これが本当にあったことなんて。 虐待を受けてもなお母親を愛する子の気持ちは、子の純粋なこころは、絶対に守ら