(9)秋
母が、絵画教室を勧めてきた。
なんで今更、そう思ったが絵を教えてもらえるなら良い機会なのかもと思い通うことにした。
美術部を諦めてテニス部に入ったのに、病気で退部する運びになった私を、母は不憫に思ったのだろう。
そんなことは私には関係なかった。別に今楽しければいいのだ。好きな絵を好きなだけ描けるならいいのだ。週に一度だけ、学校終わりに近所のアトリエに通った。
こじんまりとしたアトリエに彫刻がたくさん並んでいた。いつも変わらず画材の匂いがした。
小学生の男の子と、私と先生の三人だけの空間だった。どんな絵を描いても褒めてもらえた。先生が何を描きたい?と、野菜を持ってきた。生のトマトが嫌いなくせに、目に付いたからってトマトを描き始めた。
後悔した。トマトなんて大きくそれだけ描いて何になるんだ、描きながら思った。
先生は気に入ったようでたくさん褒めてくれた。
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