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(12)親友

塾に親友と一緒に通っていた。私は勉強をしてこなかったから、当然勉強すると成績は伸びた。

勉強しなかった人が勉強したら、成績が上がった。単純な話だ。勉強は嫌いでも苦手でもない。興味がなかっただけだった。親は勉強を強要するタイプではなく、宿題をきちんとやればそれでいいというタイプだった。

普段は苦手な英語と数学だけのコースだから少しの我慢ですんだが、塾の夏期講習はしんどかった。

クーラーが効きすぎな寒い部屋に朝から夕方まで閉じ込められっぱなし。課題がひっきりなしにやってくる。

大変なのは、この教室にいる皆一緒。私は頑張れた。


秋が来て、偏差値は10以上も上がった。成績が上がると先生が褒めてくれ、両親は喜んでくれ、私も嬉しかった。勉強すると、こんなに皆喜んでくれる。ただ一人を除いては。

親友だった。

親友には、塾に誘ってくれたから、こんなに良い点数取れたよ、ありがとう!みほちゃんのおかげだよ、本当にありがとう。そう何度も言っても妬ましいのか、ほかの友達の後ろから指をさして嫌な顔をする。

なんで私の誠意が伝わらないのかな、さみしいな、と思ってとぼとぼ帰るが、家が近すぎて帰り道結局一緒になる。

本当にやだ〜と私に言うから、しつこいなと思い、私は親友の背中に腕をぶん回した。

偶然親友の首の後ろに当たったら、しんだらどうするの!と言い掛かりを付けて泣きながらスタスタ早歩きで帰ってしまった。

あの強さで泣くってことは、私なんかが成績良くて相当悔しいのかな、自分で誘ったくせに、とさえ思った。


一人おいていかれた私は、おぼつかない足で一歩いっぽゆっくり家に向かって進むのだった。



人の成功が妬ましいのは、きっと何か他に訳があるんだろう、そんなふうに思えるのはもっと先のことだった。





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