見出し画像

読書記録:わたしの百合も、営業だと思った? (電撃文庫) 著 アサクラ ネル

【私の好きは営業じゃない、本当の意味であなたが好き】


【あらすじ】

百合営業で売っている彼女が、自分だけに見せてなくれる本当の姿。

「かりんさま、何してるのかな」

アイドルグループ「ディアゴナル」の元センターであった、最推しアイドル・鐘月かりんの「卒業」をずっと引きずり続ける、若手女性声優・仙宮すずね。
彼女は、声優事務所「イアーポ」に所属していた。

そんな彼女の事務所に新人声優としてやってきたのは、最推しの鐘月かりんだった。

突然の推しのエネルギーをもらって、内心完全に浮かれつつ、それを察せられないように、ファンとしての距離を保つすずね。

しかし、その心情とはお構いなく、かりんは何故か、ぐいぐいと距離を詰めてくる。

再び、声優として返り咲く為にかりんに利用されようと全く問題ない。

あくまでも、先輩と後輩としての関係を心がけていたのに。
アイドル時代から変わらない完璧な美貌に加え、意外な一面を見せるかりんを、次第に「一人の女性」として意識していく。

あらすじ要約

最推しアイドルが卒業した事を引きずる若手声優の少女は、己の所属する声優事務所に加入する事で、彼女の意外な一面を知る物語。


ファンにとって推し同士の百合は尊すぎる物である。
ただ、商業目的の百合営業も残念ながら存在する。
商売である以上は、ビジネスライクに、ファンが求めている理想の姿を演じて、投資してもらわなければならないから。
アイドルグループでセンターを務め、一際明るい存在感を放つかりんを、ずっと推し続けてきたすずね。
そんな彼女の突然すぎる卒業を受けて、巷では様々な憶測が飛び交う。
しかし、意外な形で運命的な再会を果たす事になる二人。

声優とは誰にでもなれる物ではない。
産まれ持った天性の魅力的な声と、それを思うがままに、感情表現してコントロールする技術が求められる、ほんの一握りの人が就く事が出来る、奥が深くてシビアな職業である。
華々しい世界のように映るが、実際は椅子を奪い合う過酷な世界。
誰かを蹴落としてでも、自分がその役を掴み取りたいという弱肉強食な世界。
最近の声優は声以外にも整った容姿が求められて、アイドル化が顕著に進んでいるが。
一番のかなめは、キャラクターの心情に寄り添って、命を吹き込む、職人気質な役者魂である。

売れっ子声優である自分が、推しであったとしても後輩にあたるかりんに頼れる背中を見せなければならない。
産まれ持ったポテンシャルとアドバンテージを持つかりんを先輩として自分が守らなければいけない。
そうやって、推しと再会出来た喜びをひた隠しながら、凛とした姿で立ち回ろうとするすずねであったが。
いつも、雲の上の存在であったかりんが今は手の届く所にいて、アイドル時代では知り得なかった、彼女の一挙手一投足に、視線が釘付けになり、心を奪われていく。
更には、自分が彼女のファンである事が、かりんにバレたかと思えば、かつてのアイドルグループの同期である栞から。
かりんの方もすずねを推しており、一緒に仕事がしたくて、この業界に入ってきたのだと告げられる。

共にお酒を一緒に飲みながら、等身大の姿でリラックスしてる雰囲気や、一緒に職場に行く途中のタクシーで、偶然に腕に触れてしまったり。
アイドル時代の彼女の姿しか見てこなかったすずねにとっては、かりんとの過ごすプライベートな時間は何よりも至福であった。

そうやって幸せを感じながらも、「自分は厄介なファンではない」とか「神聖なアイドルは、絶対不可侵領域であり、ガチで恋をしてはならない」とか「気持ち悪い限界オタクになりたくない」など。
様々な理由を並び立てて、自分の気持ちをなんとか宥めようとしたし。
望外な幸せに舞い上がって、調子に乗って暴走しないように、自分を戒めもした。
大切で大好きな推しを、自分の存在によって煩わせてはならないから。
しかし、やっぱり、かりんは特別な存在でアイドルじゃなくなった姿を垣間見た事で、抑えきれない恋心が芽生えてしまった。

そんな風に葛藤するすずねに、同じ事務所に所属してからというものの、何故かべったりと接してくるかりん。
毎日、こまめにメッセージを送ってくるし、仕事がない日は、一緒にデートしようと誘ってくる。
そんな熱烈なアプローチを受けて、すずねは「推しと付き合えている未来の自分」を妄想するほどに心が傾いていく。
偶像であるかりんと、いちファンにすぎない自分が一線を越えてしまって良い物だろうか?
そんな風に、親密になればなるほど、心に怯えが生まれるすずね。

二人は声優業界に、抜群のルックスと高い演技力によって、瞬く間に期待の超新星として成り上がる。
推しの成分を供給にする事で、仕事により一層、やりがいとモチベーションが上がっていく好循環。
遂には、同じアニメの主役級にも抜擢される。
そうやって、人気がうなぎ登りになる事がきっかけで、共に声優ラジオまで始める事が叶う。
そんな仲睦まじく、百合の花のように添い遂げる二人を、ファンは温かい眼差しで見守る。

ただ、順風満帆な道のりばかりではない。
声優業界にも光と影がある。
楽しくて明るい業界にファンには見えているが、流動的な対人関係やコミュニケーション能力を必要とするからこそ。
眼をそむけたくなるような容赦ない現実も描かれる。

その人気をやっかんだ同僚のスキャンダルの捏造や、誤解を招いてしまった案件の炎上による中傷が、ネットの世界で飛び交うトラブルも発生した。
悪意のあるコメントが、かりんの心を押し潰そうしてくる。
だけど、世界中が仮にかりんの敵に回ったとしても、自分だけは絶対にかりんの味方でいると、素直な気持ちを表したすずね。
そして、共に二人で力を合わせて、支え合いながら、そのトラブルを乗り越えるすずねとかりん。
そんな逆境が、ますます彼女達の信頼と絆を強く深くしていった。

声優を生業にして、人々の心に希望を灯す光で存り続ける事。
元気よく自らの活躍によって、人々に生きるエネルギーとパワーを与えられる存在になりたい事。
自分にも推しにも恥じないような生き方をしていきたいから。 
そんな風に、相思相愛の二人は、互いに固く誓い合う。

声優業界の苦楽を共にした彼女らの関係は、これからどんな風に進展して行くのだろうか?



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?