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読書記録:妹はサイコパス (LINE文庫エッジ) 著 瀬尾順 

【血の繋がりがある妹よりも、恋人としてあなたと繋がりたい】


【あらすじ】

俺の妹・中島彩恋は少し病弱で引っ込み思案だけど、透き通るような白い肌と艶のある黒髪が印象的な大和撫子だ。

仲睦まじく育ってきた俺たち兄妹だけど、実は血が繋がっていない。

そんな義妹との関係だったが、ここ最近、彩恋にぐいぐい迫ってこられて俺は我慢の限界を感じ始めていた。

それでも、兄の威厳を守る為に耐えていたら、だんだん妹の様子が変わっていき、スタンガンやロープまで取り出す始末。

そんなある日、彩恋に関する衝撃の真実が明かされる!?

新元号とともにやって来た! ニュータイプ兄妹ラブコメディー!

あらすじ要約

血縁の無い義妹と同居する中、自制心を失っていく事に気付いた兄に、徐々に行動がエスカレートしていく物語。


一途に相手を想えば、どうしても愛は重たくなる。
それは、全ての優先順位が相手に変わるからだ。
自分の存在が希薄になり、相手の存在が大きくなる。
相手の為なら、自分を犠牲にしても構わないとさえ思い始める。
そして、出来れば相手にもその想いに応えて欲しいと願う。
それが、叶わなければ、言葉よりも力で相手を制するようになる。
それはまるで玩具を買って貰えなくて、駄々をこねる子供のような幼稚さが介在する。
サイコすぎる妹の言動に悩まされながらも、共存していきたいと願って。
血の繋がりを超えた関係を築こうとする兄妹。 
妹の事は好きになれないけど、突き放す事も出来ない。

そんな兄の優柔不断な想いを裏切るように。
彩恋は「妹である」事よりも、兄を「愛する」事を選んだ。
それは、血の繋がりよりも一人の人として愛したい想いがあったからだ。
そのある種、純粋な想いを垣間見て、「サイコパス」だの「ヤンデレ」だの、早計に決めつけるのは、読者の傲慢でもある。

我々はどうしても、キャラクターを属性によって類型化して、カテゴライズする事で安心している節がある。
自分の経験から他人を決めつけたがる。
彼らにもそれぞれの人生があり、人間的魅力を秘めている事をいつの間にか忘れている。

兄妹とは血の繋がりがあろうが、なかろうが、家族という確かな根幹を成す上でも尊い物である。
なぜなら、両親は子供より恐らく先に逝去するが、兄妹はそれより長くずっと関わっていく物だからだ。

実妹なのか義妹なのか、彩恋の衝撃的な発言により、審議が二転三転して、揺れ惑う兄だが。
兄妹として相思相愛である事は間違いない事実。
あらゆる手段を用いて、兄を独占する彩恋のトップスピードな勢いのある想いにどうにか応えようとする。
それは、幼い時に約束した「どんな事があっても兄妹を辞めない」という純粋無垢な誓いによる物で。

その誓いを破らず果たす為に、どれだけ妹の行動が常軌を逸していても、受け入れて承認してあげようと決意する兄。

ある意味、兄である自分もシスターコンプレックスなのであろう。
愛を拗らせすぎて、サイコパスな領域まで足を踏み入れる妹を目の当たりにしても、彼女の想いを否定する術を持ち合わせていない。
こんな関係を続けてしまったら、この先自分達はどうなってしまうのかと一抹の不安がよぎる。
だが、遠い未来を案じるよりも、今この瞬間の妹の愛に応える為の度量が欲しい。

彼女の刹那の想いに誠実に応えなければ、恐らく自分達に未来はない。
彼女の重い愛も、それだけ自分の事を思ってくれている証で。
恋愛とは、とにかく自分の思い通りにいかないのがセオリーだ。
相手を思って吐いた言葉が的外れだったり。
相手の思いがけない言葉に救われる事もある。
相手を尊重してあげるからこそ、自分の願いも聞き届けて貰える。

恋愛には恐らく正解がない。
十把一絡げで、十人十色なそれぞれの回答があって。
相手を思うからこそ、敢えて言葉を詰めないシーンもあれば、相手を思うからこそ、切実に言葉を迫る場面もある。

心に近付きすぎれば、離れて。
心から離れすぎれば、近付いてくる。
まるで、気難しい気まぐれな捨て猫のような物だ。
しかし、一途な想いとは第三者から見ればどこか理解出来ない物だ。
リスクとリターンの兼ね合いが釣り合わないし、合理性が欠けていて、とても感情的に生きているとさえ思う。

そして、人は自分に理解が及ぼない物に対しては、カテゴライズして安心したいので、「サイコパス」だの何だのと決めつける。

他者の評価は案外、当てにならない。
あくまでも多数派の価値観にすぎない。
当事者として、重い愛を向けてくる妹とラブコメしたい。
そこには、もはや道徳だの倫理だの関係がなく、誰も触れた事がない、未体験の想いを発掘していく。
彼女の不器用ささえも愛してあげたい。
彼女の想いにちゃんと応えてあげれば、彼女自身も自信がついて、自分の事も好きになれる筈だと信じて。

そんな兄の真心を知って、彩恋も少しずつ大人になっていく。
兄妹としてではなく、恋人として対等な関係を築いていく。
そんなプロセスを繰り広げる中で、期せずして知った、妹の隠された真実。
その真実に心の底から安堵すれど、波乱の芽はすぐそこに迫っている。

恐らく、兄妹間で納得しているこの感情も、世間は許さないであろう。
この禁断の恋に、健全という言葉に則った正義を押し付けてくるであろう。

でも、そんな事は知った事ではない。
自分達の関係が歪で間違っている事は、自分達が一番良く理解している。
間違っていても、この重い愛を貫いて、結実させたいと思った。
たとえ、その先に待ち受けるのが不幸で。
未来のない関係だとしても。

その時が訪れれば、自分達は潔く受け入れるだろうから。

血の繋がりを越えた重い愛を、自分達だからこその強い絆に変えていくのだ。


妹はサイコパス















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