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読書記録:義理の妹と結婚します (MF文庫J) 著 鈴木大輔

【出会いは最低最悪、それでも真っ直ぐな想いをぶつけたい】 


【あらすじ】

父が再婚した事で、義妹が出来た。
稲妻に打たれたような、一目惚れをした。

だから、松原タクローは、初顔合わせの場で、率直すぎる言葉を言い放った。

「俺は彼女を──近衛トーコさんを、性的な目で見ます」と。

だが、その率直すぎる告白は、義妹から見たら、ありえなかったらしく。
タクローの第一印象は最悪で終わり、同居生活は好感度は、マイナス∞から始まる事になってしまった。
しかも、タクローは、おっちょこちょいにラッキースケベを巻き起こす厄介な性質の持ち主だった。

当然の如く、トーコは非難する。

「どこが“ちょっと”ですか!毎日のように押し倒したり、胸を触ったり、下着を見たり!」

すまん妹よ。わざとじゃないんだ。
【契約】も交わしたし、もう少し俺という男を見極める時間をくれないか?

その実直すぎるタクローの物言いに、振り回されて、トーコは赤面しまくる。
そして、見た目はギャルだが、元はお嬢様の彼女の抱える苦悩を解決していく。

あらすじ要約
登場人物紹介


父が再婚した事で、義妹であるトーコを欲情のままに見てしまうタクローの好感度マイナス∞から始まる物語。


物語はいきなり、冒頭で、主人公タクローとヒロインのトーコが皆から祝福されて、教会の鐘が高らかに鳴り響き、ブーケの花びらが、快晴の空に舞っていく、幸福な結婚式から始まっていく。
その好感度マックスな状態に、如何にしてなっていったか、その過程が描かれていく。

昨今の主人公は、ヒロインに対して物分かりが良すぎる傾向がある。
まずは適切な距離を保ち、そこから距離を縮めていく。
相手の気持ちを慮って、自分の本心に蓋をして。
そうやって、相手から見たら都合の良い理想の人間に成り下がっていく。
それは、ひとえに好きな人に嫌われたくないという恐れから来る物であろう。

しかし、本当の自分を偽って、仮に上手く付き合えたとしても。
それは本当の自分ではない。
それ故に、その理想のハリボテを維持する事に、ストレスが溜まり、疲れ果てて、やがて破綻する。
本当に良い人間関係とは、思った事を素直に言い合える関係。
自然体で無理をする事なく、等身大で居られる関係こそ、末永く続いていく。

その意味では、このタクローのリビドー全開の姿勢は、相手に呆れさせもするが、その愚直な姿勢に、警戒していた心を解く事が出来る。
言ってしまえば、タクローの人間関係の姿勢は、物を知らない、知らないからこそ、素直な気持ちをぶつけられる、幼少期の子供のような対人スキルであった。

誰もが心あたりがあると思うのだが。
幼少期は自分の欲望に忠実だったと思う。
悲しい事があれば、すぐ泣いて。
自分の欲求が通らないと、すぐ怒って。
相手を慮るよりも、自分の感情を優先させていたと思う。
だからこそ、誰しも子供の頃は、自分が世界の中心である、無敵状態だったのだ。

思春期を経て、大人になっていく過程で、様々な人間関係に摩耗されていくと。
その子供の頃の素直さを失っていってしまう。
それは、当然の事であり、それが大人になるという事ではあるが。
誰か一人くらい、無敵な本来の自分で関わってみたいと思う。
誰か一人くらい、本当の自分の気持ちをぶつけても受け入れられるような人間関係を築きたいとも思う。

自分の気持ちに嘘偽りなく行動が出来る事。
それは、変に隠し立てするより深い関係が築けるのかもしれない。
しかし、現実世界では、距離感と駆け引きという物があり。
いきなり、自分の全てを曝け出してしまうと、相手もびっくりして困惑してしまう。
唐突に出来た義妹であるトーコが思いの外、自分のタイプであった為に、性的に見てしまうと打ち明けたタクロー。

家族としての、一線は守りつつも、欲望は敢えて抑えない、言わば理知的な暴走宣言を放った。

そう、彼は心の中で思った事をそのまま口に出してしまう性格であった。
いい意味では、素直であるが、悪い意味では空気が読めない。
当然、初対面のタクローの印象は最低最悪で、トーコの彼に対する好感度もマイナスに振り切ってしまう。
フラグが立つより先に、既にへし折られてしまうような、マイナス∞で始まった好感度。

しかし、結婚した両親の事は、純朴に応援したいという意識から、最低限の関係は維持しようと、契約を結んだ二人。
その契約を交わした事で、同じ屋根の下で、密に関わる場面が増えて。
まずは、義理の兄妹として仲良くなるべく踏み込んで行く。
そこで発揮される、タクローの「ちょっと」ばかりのおっちょこちょいなスキル。
まずは生活の準備を整える中で、高確率で引き寄せる、少年漫画のようなラッキースケベ。
トーコの服を透けさせたと思えば、押し倒したり下着を見たり。
挙げ句の果てには、膝枕に持ち込んだりと、怒涛の勢いでトーコを振り回していく。

そんな彼を当然のように、トーコは嫌って、引き離そうとする。
しかし、なぜだか、結果的に彼は自分の元に舞い戻ってくる。
確かに、変人ではあるけれど、仲間達にきちんと慕われている彼の人間性。
そして、トーコ自身が抱え持っていた苦悩まで、見透かして、声を掛けてくれる。
そうやって、抱え持った問題を分かち合う事で。
まだ素直になりきれないが、自分の中で彼への好感度が上がって行く。
その思いがけない行動で、意外な一面を知って行く。

タクローの実直な言葉と行動の裏には必ず、誠実さと思いやりが秘められている事に気が付いたトーコ。
エッチな粗相を自分にしてきたり、ずけっとこちらの内面に踏み込んだデリカシーのない発言をする彼だったが。

それは、何の忖度もなく、自分の感じている事を脚色なく表現してくれる、こちらが変に勘ぐる必要のない、安心出来る信頼を築ける証であった。
裏表がない事は、自分の抱いた感情が裏切られない証でもあるから。
男女の交際に於いて、大人の距離感や駆け引きを重視する人もいるとは思うが。
自分の良い所も悪い所も、あらかじめ曝け出す事で、そこから変わっていく意外な一面を見せれば。相手からの好感度も必然的に上がっていく。

そういった意味では、個性は悪ではない。
むしろ、相手に自分の印象を深く刻み込む、万能の武器である。
少なくとも、一緒に暮らして行くのならば、真っ直ぐに想いを伝えあった方が疲れないだろう。
物分かりが良いという昨今の主人公の在り方から、真っ向から喧嘩を売っていく、タクローのスタイル。

見た目で、その人を偏見するような真似はしない。
本人を見て、その本質を評価する。
愚直な性格であるようで、他人の気持ちの機微に聡く、対応出来る。
真っ直ぐな気持ちを、隠す事なくストレートに。
タクロー自身が、そのやり方を何ら恥ずべき物ではないと行動しているので。
その心の在り方に、明瞭な清々しささえ覚える。

同居イベントを、トーコと共に最短距離で駆け抜けて。
最低最悪だった好感度が、メキメキと上昇していく。
タクローの親友であるヒフミと、ライバル視する副会長のツバサまでもが、変人ムーブをかましてきて、トーコの築いた隔たりを越えてくる。

そんな仲間達に応援されながらも、兄妹生活はまだ始まったばかり。
好感度はいつか、プラス∞に振り切れるのか。
曲者なタクローと変人な仲間達に、義妹のトーコはどのように振り回されていくのか。
そして、あらかじめ、この物語は幸せな結末が冒頭から明示されているが。

ここから、互いの心象の差異が、如何にして幸福な結婚に結び付いて行くのだろうか?




 

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