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読書記録:俺と妹の血、つながってませんでした (ファンタジア文庫) 著 村田天

【血の繋がりを越えた真の絆は、常識という枷を解き放つ】


【あらすじ】
妹の久留里は超絶ブラコンである。
光雪と目が合うたびに抱き着いてくるし、膝に乗る事や手を繋ぐスキンシップの機会をいつも狙っている。

「なにしたっていいんだよ。私たち、兄妹なんだから」

「えへへ。お兄ちゃん。大好き!」

にへっと笑う久留里が光雪と同じ高校に入学した日の深夜。

両親から光雪は、妹自身も知らない衝撃的な真実を告げられる。

「光雪くんと久留里ちゃんは、血がつながってないんだ」

え、俺と久留里が義理の兄妹なの!?
それはヤバい――。

「お兄ちゃんと血がつながってなかったら……結婚するよ!」

久留里は、常々こんな事を宣う奴なのだ!

兄恋ガチ勢な甘えん坊義妹との兄妹関係は、一つの隠し事で、変貌の兆しを見せる。

あらすじ要約

兄想いである妹を持つ生真面目な少年が、両親から義理の兄妹だと告げられ、在り方が変貌する物語。 


一般的な兄妹とはどういう物だろうか?
凄く仲の良い兄妹も居れば、険悪な仲の兄妹も居る。 言ってしまえば、兄弟の在り方などその家庭でそれぞれ。
常識という物差しは通用しないのである。
歳を重ねると家族という物が面映くなる。
今まで血の繋がりという確固たる指針が光雪を形作っていた。
久留里の愛情も兄妹愛の範疇だと。
しかし、兄妹の秘密を知る事で。

世間一般という思い込みと、しがらみの中でどの程度の距離を保つのが適切なのか、それらは全て、今まで過ごしてきた体験と結果による物だと気付く。

元々、あり得ない距離感だった関係性を正すべく、光雪は久留里に兄離れを促す。
だが、持ち前の頑固さで久留里はそれを拒絶する。
それどころか、同じ高校に入学した事で。
学生生活をも、彼女は侵食し始める。
学校で、尊敬と畏敬を勝ち得ていた生徒会の一員を務める光雪の役に立とうと大暴走して。
結果的に生徒会の一員となって、光雪の同期である渡瀬と丁々発止のやりとりを繰り広げていく。

そんな彼女の姿に振り回されながら、アクシデントでラブホに泊まったりする事になって。
理性をガンガンと削られていく日々。
そんな中で、久留里の抱え持った想いも、また語られていく。

ヘタな兄妹の恋愛とは違って、久留里の光雪への愛情はあくまで家族への愛情。
兄を慕う愛情ではあっても、異性への愛情ではない。
彼女にとって、兄への愛し方と両親や年の離れた妹である四葉への愛し方の濃度は何も変わっていない。
他の家族にも同じくらい愛情を注いでいて、兄だけを特別視している訳ではない。
ただ、兄妹という関係性は彼女にとって、かけがえのない唯一無二であり、そこに留まりたい気持ちがある。

彼女が、何故これほどまでに家族への愛情と執着を注ぐのか?
それは、「幼い頃から自分だけが他の家族に似ていない」と周囲に頻繁に言われたから。
その疎外感が、彼女に異常なまでの愛情を抱かせた。
幼い頃に感じた、疑念や疎外感を少しでも、雲散霧消させる為のセーフティーが必要であったのだろう。

だから、光雪が両親の密談を聞いてしまい、両親がそれぞれ連れ子を連れての再婚だった事実を知って。
血の繋がりのない妹だった久留里とのスキンシップの危機感を抱いて。
普通の兄妹らしい適切な距離感を心がけ始めた事は、久留里の拠り所だったハシゴを外されるような物であった。

ずっと、精神を安定させ続けたセーフティーネットを急に取っ払われたのだから。
久留里が過敏に不安を増大させてしまって、ヒステリックなまでに関係にしがみつこうとするのも理解出来る。

また、光雪も、普通の思春期の男子からすると、やや不安定な部分があった。
人の心に共感したり、機微を察知する感受性がやや乏しかった。
両親の打ち明け話で、自分の本当の父親は浮気した挙げ句、自分と母親を捨てたクズ男だと判明して。
自分もそのろくでなしの遺伝子を引き継いで、いつしかとんでもない間違いを犯してしまうのではないのかと、不安が心を埋め尽くしていた。

故に光雪は、共感能力が乏しくても、真人間で居られるように。
一般的な規範や正しいとされる常識やルールを重要視して、それを自分の言動に当てはめて動く事で。周囲から逸脱しないように心がけた。
だが、その切り替えの接し方は恐ろしいほどに、不器用であった。

どれほど、常軌を逸した触れ合いであっても、あくまで仲の良い兄妹であった光雪と久留里。
血が繋がっていなくても、何よりも大切な妹だった。
過ごしてきた長い時間は本物であると信じたかった。
どこか違和感があったとしても、心が繋がった確かな家族でありたかった。
そんな二人であった筈なのに。

どれだけ、愛が深くても、慕い合える兄妹であったのに。
あまりに距離が近くなりすぎたり、兄妹というには他人みたいに遠くなったり。
その振幅の高低差によって、二人の認識は粉々に破壊してしまう。
しかし、それでも二人がお互い注ぐ愛情の深さは何も変わる事はない。

そうなのだ。
光雪は血縁の真実を知りながらも、久留里はそれを知らないのである。
歳を取れば、家族の関わり方など自然に変化していく物だが、この予期せぬ変化はあまりにも、久留里にとって不自然すぎた。

常識を盾に躱そうとする兄に対して、久留里は真摯な真っ直ぐな想いをぶつけていく。
立場や環境で、如何様にも変化する普通なんて意味がない。
そんな物差しに、自分の指針を委ねるのは間違っている。
常識よりも、今ここで想いをぶつけている自分と率直に向き合って欲しい。

その切実な想いをぶつけられて、心情に激流の嵐が吹き荒れる光雪の想いを裏切るように。
最後の最後に、 義理の兄妹である秘密が露呈してしまう爆弾が投下される。

建前という枷は外された。
留まる為のハードルは撤去された。
体裁はもはや、意味をなさない。
秘密を知ってしまった久留里は、ここからどのように接していくのか?
その態度と行動を見て、光雪は何を思うのか?

常識という枷を振り払った真っ直ぐな絆を、模索して行けるのだろうか?















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