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少年Aと少女B

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少年Aと少女B

少年Aと少女B

隣からすごくいい匂いがしてくる。
食欲!
何かを強く食べてみたいと思ったのは初めてかもしれない。

おいしそうと思ったのも。

目の前の珈琲。琥珀色ではないよね、これ。

大人が飲んでいるのを見て すごくおいしいものかと思っていたけど
違った。

香りはすごく好みだけど
飲まなくてもいい、飲まないほうが好き。

この人のようにナポリタンにすればよかった。
漂う玉ねぎとピーマンの香ばしい香り
ぷりぷ

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少年Aと少女B

少年Aと少女B

カウンターの中の初老の人。
いわゆるマスターというものなのだろうか。
丸いガラスの不思議な装置に
珈琲豆をセットして
ゆっくりとかき回している。

厨房では若い男が
オレが頼んだナポリタンに
ハムとケチャップを
ふんだんに入れた。

カフェが主流の現代で
ここだけ時が逆流しているような錯覚を受ける。

お待ちどおさま。

意外にも オレの方が先にきた。

珈琲は目の前のガラスのなかで
ぽこぽこと音

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少年Aと少女B

少年Aと少女B

オレは 携帯を取り出した後
開いたままになっていた
ピンクのバッグから素早く財布を取り出した。

キラキラとした空気が足元まで満ちている。

誰もかれも 四角い画面に夢中だ。

さっと中から数千円を取り バッグに戻す。

あとは待ち合わせでもしてるかのように
友人を探すふりをして うろうろとしながら
交差点を渡ってきた大量の人ごみに紛れた。

今は現金を持ち歩くやつも少ないから
1回目でカ

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少年Aと少女B

少年Aと少女B

塾の目の前の交差点。
ここで信号につかまると行く気がなえる。
まぁ 青信号で渡れることのほうが少ないんだけど。

今日も赤。
しかも 直前で赤に変わった。
ついてないな。

日曜日だからか信号を待つ人の中に
スーツ姿は少ない。
お休みにしては 
みんなちょっと表情が厳しいんじゃない?

そんなどうでもいいことを思いながら
信号待ちしてると 道の向こう側にいる少年が目に入った。

歳はおんな

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少年Aと少女B

少年Aと少女B

今日もひと仕事するために
まぶしい日差しを避けながらのろのろと駅前に向かう。

いつものカフェのテラス席が見える
植込みのベンチに座り 本を読むふりをして
品定めする。

すぐ横の交差点の信号が赤になれば あっという間に
人も車も連なる。

こんなにもたくさんの人がいるのに
ひとりとして ここにオレがいることを知ってるやつはいない。

存在していないのといったい何が違うのだろう。

一行たりとも目

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少年Aと少女B

少年Aと少女B

「そろそろ塾の時間ですよ。」

「はい。」

「もうすぐ模試なのよね。期待してるわよ。」

返事をしようか迷ったが
聴こえないふりをして
予習をしていた手を止めて
テキストと筆記用具をバッグに詰める。

「いってきます。」

テキストでパンパンになった重たいバッグを抱え
ドアを開ける。

眩しい。

良く晴れて風のない気持のよい日。

でも遊びに行けない私にとっては

ただ忌々しいだけ

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少年Aと少女B

少年Aと少女B

あぁ また目が覚めちまった。

淀み切ったくそ重い空気を瞼に感じる。リアルだ。

眠りにつくたびに このまま目覚めなければいいのにと願う。

残念ながら今日もそうはならなかった。

諦めを決めて 重い瞼を開けると 
そこにはさまざまなものが行き場を無くしたままに
放置されている見慣れた部屋。

いつ食べたかもわからないカップラーメンのカップには
割りばしと乾涸びたつゆ。

ほぼエタノールの焼酎のペ

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