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少年Aと少女B

「そろそろ塾の時間ですよ。」

「はい。」

「もうすぐ模試なのよね。期待してるわよ。」

返事をしようか迷ったが
聴こえないふりをして
予習をしていた手を止めて
テキストと筆記用具をバッグに詰める。

「いってきます。」

テキストでパンパンになった重たいバッグを抱え
ドアを開ける。

眩しい。

良く晴れて風のない気持のよい日。

でも遊びに行けない私にとっては

ただ忌々しいだけ。

大きなため息とともに 恨めしく空を見上げた。

蜘蛛は巣に虫がかかってもすぐには食べない。

糸で絡めて保存しておくのだそうだ。

まさに私はゆるやかに確実に死に向かって
生殺しにされているあの人の飢えをしのぐためだけの存在。

あの人は勉強のできる私が好き。

人に自慢できる私なら好き。

自分を困らせる存在は
例え血が繋がっていようとも
躊躇なく切り捨てるだろう。

そんなこと分かってる。


あの人は私のことを愛してるわけではなく

都合の良い道具として好きなだけなんだ。

そんなことも分かってる。


だけど私はあの人に嫌われたくないんだ。

私のことをずっと好きでいて欲しいと思う。

期待に応えたいと思ってしまう。


自分でも馬鹿だと分かってる。






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