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少年Aと少女B

隣からすごくいい匂いがしてくる。
食欲!
何かを強く食べてみたいと思ったのは初めてかもしれない。

おいしそうと思ったのも。

目の前の珈琲。琥珀色ではないよね、これ。

大人が飲んでいるのを見て すごくおいしいものかと思っていたけど
違った。

香りはすごく好みだけど
飲まなくてもいい、飲まないほうが好き。

この人のようにナポリタンにすればよかった。
漂う玉ねぎとピーマンの香ばしい香り
ぷりぷりのベーコン。
惜しげもなく投入されたバターとケチャップ。

あの人はこういう料理は絶対に作らない。

食べたこともないのに あの癖になる魅力をわかってしまう。

すごく淡々と食べてるけど
この人がおいしいって感動してるのがわかる。

迷わず 次はあれを頼もうと思う。

次?

また今度という機会は私に訪れるのだろうか。

この人と巡り会えるこの奇跡が。

もう最後の一口 食べ終わってしまう。

あの声をもう一度聞きたい。





初めて食べた懐かしいナポリタン。

イタリアにあこがれた日本のソウルフードなんだろうか。

あのカフェにいた人に ありがとうとごめんなさいが言いたくなった。

今までそんな風に思ったことはなかった。

しあわせなやつから少しもらうだけだもの。
盗むのも盗まれるのも当然のように思ってた。

次はちゃんと自分の稼いだお金で食べにきたい。

あの不思議な装置で入れる魅惑の香りのする珈琲も飲んでみたい。

それと。

隣に座ってるよくわからないこの人の声が
また聞きたいと思う。






あの。

また ここで会いませんか?


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