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異国の地へ出稼ぎに行く女性

私は東南アジアに留学時にインドネシア人の元家政婦との交流がありました。

彼女との交流は後に私の修士論文のテーマとなる外国人家事労働者のトピックに繋がることになります。

出会い

そのインドネシア人女性は私の住んでいた寮の清掃員として働いていて、私は彼女に会うと簡単な挨拶を交わしていました。彼女は私が外国人であると分かったためか、私に好奇心を持って話しかけてくるようになりました。

私がいたマレーシアでは、ホテルやレストラン、ショッピングモールなどの清掃員などは外国人労働者の割合が非常に高かったため、彼女たちのような存在はとても身近でした。

私も彼女もお互いに「外国人」という境遇であったため、異国の地での不安感やストレスを感じる者同士で共感し合うことができ、次第に交流を深めていきました。

女性のプロフィール

出身国: インドネシア

年齢: 30代中盤

学歴: 小学校卒業

職業: 家政婦→清掃員

子ども: 5人

異国へ出稼ぎに行く理由

彼女が出稼ぎにきた理由は家族のためでもあり自分のためでもありました。

まず、小学校卒業という学歴の彼女が母国で就ける仕事は限られており、賃金も安いため子どもを養うには不十分でした。そのため、彼女はより高い給与を求めて、母国より経済水準が高い国へ渡航することに決めました。

また、彼女の夫は働かずアルコール依存症で、暴力もたびたび振るわれていたそうです。そのようなDVの夫から逃げて子どもを養うためにも海外渡航をしなければならないと思ったそうです。

人の移動にはプッシュ要因とプル要因がありますが、彼女の場合は母国での低賃金脱却とDV夫からの逃避が大きなプッシュ要因となりました。

上野加代子先生の著書でも、母国でのDV夫から逃げるために渡航する外国人家事労働者の事例が取り扱われていましたので、関心のある方は読まれるといいかもしれません。

また、移民受け入れ国のマレーシアやシンガポールでは女性の社会進出に伴い、家事と育児の両立を図るために家事をアウトソーシングするということが行われるようになりました。そのため、できれば安い人件費で家事を担う人材を募っており、それが多くの外国人女性の出稼ぎを引き起こすプル要因となりました。

私の出会ったインドネシア人女性も、母国よりもより良い生活と賃金を求めて外国へ仕事を求めたのです。

現実は自由のない生活

彼女はより良い生活を求めて出稼ぎをしてきたはずですが、最初に就いた仕事は住み込みの家政婦で、雇用主の監視下に四六時中さらされるという生活でした。

彼女の雇用主は仕事が多忙だったため子どもの世話、掃除、料理などほぼ全ての家事を依頼し、彼女の休みはほとんど取れず、彼女の交友関係も管理下にあったと言います。

幸い、雇用主による暴力や虐待などはなく、彼女の場合は一定の雇用期間を終えた後は清掃員へ転職出来たそうです。

子どもとの時間は週に1度の電話

彼女はインドネシアに子どもを5人置いて渡航しており、日々の面倒は彼女の母親、つまり子どもたちの祖母がみていました。

家政婦をしていた当時は日々のほとんどの時間は他人の子どもと過ごし、自分の子どもとの唯一の時間は週に1度の電話だったと言います。

女性の社会進出を支える異国の女性

この一連の彼女の話わ聞いて当時の私が思ったことは、家事をアウトソーシングして一見女性は家事からは解放されたようにも思えますが、結局このような家庭内の労働は女性が担っているではないかということです。

家事をアウトソーシングして働く女性は、外から見ると一見男性のように働く女性のように見えるかもしれないですが、それは家事や育児を担う異国の女性の存在がいるから成り立っていることなのです。

そして、その異国の女性は出稼ぎに来るために自分の母親や母国の家事労働者に子どもの世話を任せるのです。

このような多重の構造によって、経済的に豊かな国の女性達は「男性と同様に」働くことも可能になります。しかし、家事を外国へアウトソーシングすることによって、男性にとっては家事は女性がするものという意識が強くなり、男性の家事・育児参加の促進ということからは余計に離れていってしまうと思います。安易に女性が家事を誰かにやらせれば負担が無くなるという単純な話では無いのです。

最後に

私は、帰国する前に彼女からご飯をご馳走したいと言われて、一緒にご飯を食べに行きました。食べたお店自体はどこにでもある標準的な値段のお店でした。

その時私は彼女の日給がいくらか思い出し、彼女が私の分も支払うと日給の半分以上が消えてしまうと思い、ご馳走してもらうのは嫌だなと非常に心が痛みました。

しかし、彼女は外国人である自分を気にかけて仲良くしてくれてありがとうと言って、どうしてもご馳走したいと言うので最後にご馳走していただきました。

名前もフルネームは知らず、住所や連絡先も知らない彼女とは今後会うことは一生無いのだと思いますが、彼女の存在は忘れることは無いでしょう。

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