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財前ぜんざい@オリジナル小説
2018年7月31日 19:58
「遅かったじゃん! おみおみ~!」 道場の真ん中で大きく手を振る赤毛の彼女は、先日と変わらず元気な様子だった。隣にいる晃は、申し訳なさそうにこちらへ頭を下げた。 彼らへと歩みを早める雅臣は、明らかに不機嫌そうだった。「俺たちよりも先に予約を取ったのは、お前らだったのか」 雅臣の口調は、もはや怒りに近かった。「そうよ。私たちが貸し切りで予約を取ったの。本当は晃と憑依時の確認をしよう
2016年12月21日 01:44
「ここは区営体育館だ。武道場は地下一階。第一武道場は畳だから、俺たちは板張りの第二武道場を一般公開で使う」 雅臣と私が訪れたのは、彼らのマンションからほど近いところにある区営体育館だった。とても新しいとは言えず、外壁は所々剥がれていたが、温水プールもあり、設備は充分整えられているようだった。「い、一般公開ってなんですか?」「要するに団体貸し切りじゃないってことだ。この券売機で券を買えば
2016年12月12日 21:44
手に持っていた書類を机に置き、立ち上がった雅臣は清水を見下ろして言った。「清水。疲れてるところ悪いが、圭と一緒に組織まで行って、薙刀と防具を持って来てくれないか?」 頼まれた清水は口を開けたまま「う、うん」と頷いた。しかし、返事はしたものの首を傾げ、雅臣が何を考えているのか理解しきれていないようだった。 私も何が起きているのか分からなかった。突然で脈絡もなく、察することもできない。す
2016年12月6日 20:20
「ただいま。紅羽連れてきたぞ!」 結局私は彼らのマンションへと来てしまった。 圭は履いていたスニーカーを乱暴に脱ぎ捨て、部屋の中へと入って行った。私も続いて靴を脱ぐ。屈んで自分の靴を揃えると、脱ぎ捨てた圭のスニーカーが目に入った。靴が玄関に散らばっているのを知っていて、このまま部屋の中へ入っては、私の品格が問われるような気がした。仕方なく奴の靴に手を伸ばす。触ると生温かかった。 気持ち
2016年11月24日 19:10
大学に面した大通りを、私たちは並んで歩いていた。圭は大学の正門を出てすぐに私の腕から手を離し、私に歩調を合わせた。 大通りのどこからか、クラクションの音がする。鳴り止まない車の走行音をうるさく感じるようになったのは、つい最近だ。昔は雑音に耳を傾ける暇も余裕もなかった。だが今の私は、まるで感覚が敏感になっているかのように、昔見えなかったもの、聞こえなかったものを感じるようになった。 それが
2016年11月9日 17:07
「圭……?」 笑顔で大げさに手を振っているのは明らかに圭だった。病的なまでに痩せている身体。深緑色のシャツから覗く、浮き出た鎖骨。小柄な身長。なぜ彼がここにいるのか見当もつかなかった。 私は何も悪いことはしていない。ただ大学に来て講義を受け、帰宅しようとしていただけ。なのに彼と遭遇してしまったことに焦りを感じた。「一緒に帰ろうぜ!」 圭は正門から私に叫ぶ。大きな声とその目立つ身振り
2016年2月12日 18:13
静けさに包まれる。胸の上に手を置くと、もう動悸は治まっていた。自分の身体なのに、なぜ自分の意思でコントロールできないのか。まるで誰かに身体を支配されているかのようだ。「俺の電話番号とメールアドレスを書いておいたから、何かあったらいつでも連絡して。夜中でも大丈夫だから。遠慮しなくていい」 リビングから彼の声がした。電話番号とメールアドレスという単語を聞いて、私は驚いた。どうして私に教えるの