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日本ロック創成期の空白を埋める奇書『ジャップロック サンプラー』ジュリアン・コープ

『ジャップロック サンプラー』は英国人のミュージシャン、ジュリアン・コープによる日本のロックの研究書です。

メインは1960年~1970年代後半の日本おアンダーグラウンドのロックシーンを取り上げていますが、その始まりは黒船来航からw

その時点でけっこう無理あるやろとかつっこみも発生するんですけど、なかなかおもしろい本です。

注釈がすばらしい

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最初に書いておくと、かなりマニアックな内容です。

外国人の著書が、よくもまあここまで調べ上げたなと感心しますが、事実誤認をはじめとする間違いも少なからずあります。

ただ、それを指摘・訂正する訳注がすばらしい。


事例は山のようにありますが、ひとつ挙げると、グループサウンズ時代の話を書いている断章で加山雄三のことに触れられた箇所に以下のような文章があり、

ベンチャーズのツアーが終了すると、加山は契約通り、「若き将軍」シリーズシリーズの第2作を撮影する予定になっていた。(中略)しかし当時のエルヴィス映画の、率直に言ってお話にならないプロットからヒントを得た彼らは、抜け目なく、ふたつのまったく相反する要素――ロックンロールと歴史上のヒーロー――を奇妙なメタファーのミックスにして合体させることにした。

「若き将軍」のところに、「文脈から察するに65年の『エレキの若大将』(監督・岩内克己)撮影のことと思われるが、『エレキの若大将』は「若大将シリーズ6作目である」と注釈が入り、

さらに「ロックンロールと歴史上のヒーロー」のところに、「若大将シリーズ」を「若き将軍シリーズ」と理解しているコープは、『エレキの若大将』をチョンマゲ姿の加山雄三がエレキ・ギターを弾きまくる時代劇と勘違いしているのかもしれない」とフォローが入ります。


たしかに、その前段で「若大将」を「若き将軍=ヤング・ジェネラル」と訳しており、勘違いをしている節が伝わってきますが、注釈がしっかりとフォローしています。

なぜか評価の低い村八分

かなり分厚い本で、個々の挿話を取り上げていけば切りがない感じですが、日本語がわからないコープが、はっぴいえんどをあまり評価していないのはまあ理解できるとして、

ちょっと意外に感じたのは村八分を必要以上に過小評価している点。

(僕も特別好きとかではないんですけど、なんか飛び道具的な扱いを受けているような気がします)


評価が高いのはフラワー・トラヴェリン・バンドとか裸のラリーズとか、他いろいろって感じです。

Youtubeですぐに観られるありがたさ

これは『日本フリージャズ史』(副島輝人・著)を読んだときにも思ったことだけど、本文中に出てくる楽曲や歴史的なライブの映像が、Youtubeで検索をかけたらけっこう出てくるのがすごくありがたい。


例えば、上述の書籍で、第3回夕焼け祭(1976)に台風直撃して、明け方に裸のラリーズが演奏したみたいなことが書かれてて、映像あったりするかな?と思って検索したらあったりする。

昔だと、湯浅学がなんかの番組で「灰野敬二のフィードバッグの轟音が美しく、云々・・・」と語られてもなかなか確かめるすべがなかったんですけど、今は簡単に音源にありつけるのがいいですね。

(実際に聴いてみると、意外としょぼいやんけとかもけっこうありますが)

『日本のオルタナティヴ・ロック1978-1998』とのつながり

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『ジャップロック サンプラー』は1977年までの出来事が語られます。

んで、本書と直接関係はないんですけど、1998年に発売されたミュージックマガジン増刊『ニュー・センセイションズ 日本のオルタナティヴ・ロック1978-1998』(監修・小野島大)が、タイトルにあるように1978年以降のシーンをフォローしています。

つまり、それぞれなんの関係もない書籍が、図ったように時代をつなぎ、空白地帯を埋めているわけで、なんかちょっと感動しました。

(もちろん、この2つの書籍ですべてを網羅しているわけではないけど)


ちなみに、『ニュー・センセイションズ』の表紙のイラストはボアダムスの山塚アイ。

「300アーティスト、400アルバムがひしめくスーパーガイド!!」と表紙にありますが、当時めっちゃお世話になりました。

小野島大がフィッシュマンズを高く評価してるのがうれしかったなー。

クラウトロックサンプラーが読みたい

ちなみに、ジュリアン・コープの著作には『Krautrocksampler』なるものもあるようで、読んでみたい。

誰か翻訳してくれないかな。


クラウトロックで思い出したけど、ノイ!が2年くらい前にカーハートとコラボしてTシャツを出してたことを少し前に知りました。

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わー、ほしい!と思ったけど、さすがに売ってなくて、つーかどういう経緯でコラボやねんと思って、近く通ったときに堀江のカーハートの店員さんに聴いたら、なんか言うてたけどなんやったか忘れました。

音楽好きのおっさんをはじめ、デザインがかわいいってことで普通に若い女の子も買っていって、けっこうすぐに完売になったって言ってました。はろがろ。

新品でメルカリに出てないかなと探ってみたけど、なかったです。

さいごに

最初に書いたけど、本当に内容がマニアックで、よくここまで調べ上げたなと感動を覚えるくらいです。

(間違いも多いけど)

ただ、「日本のプログレッシヴバンドのだててんりゅうが京都産業大学で結成された」みたいなくだりを目にしたときに、

ジュリアン・コープは「だててんりゅう」の由来を知っているのだろうか?ってことがちょっと気になりました。

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