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広告プロモーションで成功する会社、失敗する会社
私は広告業界、なかでもネット広告の領域で、15年ほど働いてきました。
最初はスタートアップのマーケ担当として、代理店に広告を「発注する」側。その後はオプトに入社し、メディアプランナーとして広告を「売る」側。両方の立場を経験しました。
広告は、うまく使えば事業をブーストするとてもいいツールになります。
一方で、せっかくお金をかけて広告を出したのに、売上につながらず、ただ経営を圧迫しただけだった……といった話も、たしかに存在します。
広告で事業を伸ばして成功する会社と、失敗してしまう会社。両者のちがいは一体なんなのか? うまくいく広告とはどんなものなのか?
今回は、長年業界にいるなかで見えてきた、私なりの考えをまとめてみました。
広告を検討されている方や、これから事業を伸ばしていきたい方にとって、少しでも参考になれば幸いです!
広告で失敗する会社には共通点がある
そもそも「広告の失敗事例」は、世の中に出回りづらいものです。
みんな「失敗しました!」なんて、わざわざ表立って言いませんから。一部の大企業ならまだしも「中小企業の広告がどんなもので、結果がどうだったか」は、メディアにも取り上げられません。
成功事例はたくさん出回っていますが、失敗したら誰にも知られないまま。
ただ、業界の中にいると「あれは失敗だよね」という話はちらほら聞こえてきます。
それらの会社に共通しているのは、広告が「購買」につながっていないこと。つまり、事業の成長につながっていないことだと思います。
有名なマーケターに依頼して、インパクトのあるタレントさんを使って。「今は赤字だとしても踏むべきだ」と、とにかく体力勝負でたくさん広告を出して。
でも、いざサービスを使ってみると、UIがいまいちだったり、価格設定がよくなかったりする。
マーケターの方が表に立って「マーケティングはこうすべきだ」「コミュニケーション設計はこうだ」「ブランドはこう作るんだ」と語っていて、見え方はいいんです。
でも、業績を見るとなかなか厳しく、いつまで経っても競合に追いつけていない。お客さんに選ばれていないのです。
気づいたら、そうやって旗を掲げていたマーケターは退職して、赤字だけが残っていたりする。
やたらと広告は見るのに、お客さんが購買には至っていない。
これが、典型的な広告の失敗パターンだと思います。
商品がイケてないと、広告を出しても意味がない
では、広告が購買につながらないのはなぜなのでしょうか?
もちろん、すべての広告が購買促進目的とは限りませんが、今回はここに絞ってお話ししたいと思います。
購買につながらないのは、シンプルに「商品やサービスがイケていないから」であることが多いです。
人がお金を払うのは「広告がすごいから」ではなく「商品やサービスがすばらしいから」です。考えてみれば当たり前なのですが、意外と忘れがちですよね。
広告がすごいからといって、イケてない商品だったら買わない。今はもはや「モノがよければ売れる」という時代でもありません。それは「モノのよさ」がそもそも大前提になっているということ。モノがよくなかったら、勝負の土俵にも立てません。
広告によって知名度は上がっている。なのに、お客様がそのサービスではなく、競合他社のサービスを使う理由が、必ずあるはずです。
UXなのか、価格なのか、デザインなのか、機能なのか。お客さまは何を求めているのか。まずはそこを明らかにすることが、いちばん大切です。
それをしないまま「この商品が売れないのは、知られていないからだ」と「知名度」の問題にして、広告にバーッと投資してしまうと、失敗してしまうことが多いのです。
広告を出す前に必ずやるべきこと
広告は、他のいろんな施策をやり尽くしたうえで「最後の一押し」をするもの。私はそう思っています。
なかでも大前提としてやっておくべきなのは、有名なマーケティングフレームである「WHO」「WHAT」「HOW」を整理することです。
「そもそもこの商品って、誰のためのものなんだっけ?」
「じゃあ、その人たちに喜んでもらえるような商品ってどんなものだっけ?」
「どうすれば、その人たちに商品が届くかな?」
これらをしっかり考えておかないといけません。
広告は、メッセージを届ける手段の一つとして、最後に選択すべきものです。
誰のための商品かがはっきりしていて、その人たちが喜ぶ商品ができていて、実際にECやリアル店舗などで順調に売れ始めている。
そこまでわかってからでないと、的外れな広告を出してしまう可能性があります。
たとえば「50代〜60代の、地方在住の方」向けの商品なのに、渋谷に広告を出してもあまり効果がないでしょう。ネット広告でも、届けたい地域があるならそこに絞って広告を出したほうが効果的ですから。
本当に必要なのは「手書きのお手紙」かもしれない
まだ商品に「コアなファン」がついていない状態なら、そのフェーズで本当に必要なのは「広告」ではないかもしれません。
商品に「ありがとうございます」と、ちょっとした手書きのお手紙を添える。商品の説明やこだわりを、サイトや店舗で丁寧に説明する。
ファンになってもらうために必要なのは、まずそういうことだと思うんです。
それで月に100〜200万円の売り上げがあって、初めて広告が活きると思います。「いまは売れていないけど、広告を使ってこれから売ろう」というのはちょっと危険です。
もしかしたら、広告によって少しは売れるかもしれません。でも、本質的には売れていないものを、広告の力で売るのって、ちょっと違うと思っていて。
広告は、事業を加速するためのガソリンみたいなものです。車がまだ完成していないのに、ガソリンだけ撒いても意味がない。
広告はあくまで売上を補完するものであって、作るものではないと私は思っています。
お客さんの笑顔がいちばんの広告だった
広告をつくるうえでも、お客さんに寄り添うことはとても大切です。
オプトで広告を売っていたころ、それを強く感じるできごとがありました。
私は当時、ある大手お菓子メーカーの広告プロモーションをお手伝いしていました。担当していたのは、EC領域のプロモーションです。
コミュニケーション設計をして、クリエイティブにもこだわって、デジタル広告を駆使して広告施策をやって。一応、効果はきちんと出ていました。
でも、とあるプロモーションにだけは、どうしても勝てなかったんです。
それは、メーカーさん側が用意した動画コンテンツでした。
ECでは、段ボールにお菓子がたくさん入った、大きなセットも買えるんです。その動画では、お客さんが子どもの誕生日に、段ボールいっぱいのお菓子を買った様子が映されていました。
当日に「ピンポン」ってベルが鳴って、お菓子が届く。それで包装をビリビリビリって開けて、中からお菓子がたくさん出てくる。
それを見たときの子どもの笑顔が、もうめちゃくちゃ嬉しそうなんです。
当時、いちばん大きな売上を出したのは、その動画コンテンツでした。たくさんお金をかけて展開した広告よりも、ずっと効果があった。
私は「ああ、これってすごく本質的だな」と思いました。「わあ〜っ!」と驚いて喜んでいる、あの顔が人の心を揺さぶって、購買の背中を押したんです。
似たような話で、ジャパネット高田さんの有名なエピソードがあります。
彼が「カメラ」を売ったときの話です。
量販店や他の会社は「これは最新機種で、何百万画素です。この技術がすごいんです」と、商品の性能をアピールして売ろうとしていました。
でも、高田さんはこんなふうに商品を紹介したんです。
「お子さんが生まれたら、毎年1枚、良いカメラで写真を撮ってプリントしてください。すると、成人の日までに20枚の大きな写真が揃いますよ。それをお子さんにプレゼントするんです。最高の贈り物になると思いませんか?」
「それができるのが、良いカメラなんです。スマートフォンでは、この感動は生み出せませんよ~」と。
そうしたら、すごい勢いでカメラが売れたそうです。
「クリスマスパッケージあります」「割引です」という宣伝文句は、やっぱり企業側の都合なんですよね。それよりも「子どもがこんなに笑顔になりますよ」というほうが響く。
商品ではなく、お客さんを主役にして考える。これは広告だけでなく、ビジネスのすべてにおいて大切なことだと思います。
ブランド力は何で決まるか
広告は、わかりやすい形があるし、デザインやコピーもかっこいい。だからつい「広告を出すことでブランディングをしよう」としてしまいがちです。
でも、ブランドを作るのは決して、広告だけではありません。
私の好きな本に『真実の瞬間』というものがあります。著者はヤン・カールソンという人です。当時「スカンジナビア航空」のCEOだった彼が、経営再建に取り組んだ軌跡をまとめています。
この本で提示される「ブランド」の定義に、私はすごく納得したんです。
空港で困っているお客さんがいて、それを見つけた空港のスタッフが「どうしたんですか」とお声掛けをして。それでスタッフが、きちんとお話を聞いてご案内する。お客さんが「ありがとうございます」とお礼を言ってくれた。
「そういう何気ないやりとりの瞬間に、その航空会社のブランドは決まる」と、彼は言っているんです。
かっこいい広告や、お得なプランや、おしゃれなロビーなども、もちろん大切です。でも、それだけでブランドになるわけじゃない。
どんなに広告や店舗の装飾がカッコよくても、壊れた商品が届いたり、スタッフの対応が雑だったりすると、その瞬間にお客さんはもう2度と戻ってこなくなってしまいます。
お客様との接点すべてが、ブランドをつくる機会になるのです。
だから広告に踏み込む前に、たとえばちょっとした手紙を添えて商品を発送したりすることが、ブランディングに繋がったりするんです。
まずは既存のお客様の体験価値を上げていくこと。それがすばらしいものとなったときに広告をかければ、商品やサービスは絶対に売れると思います。
広告は「魔法の杖」じゃない
広告は決して、すべてを解決する「魔法の杖」ではありません。
だから代理店などの「広告を売る」立場の人たちは、すごく苦労するんです。
自分たちは広告を生業にしているけれど、お客さまの事業は、広告だけで成り立つわけではないですから。サービスがよくなかったり、ホームページがよくなかったりしたら、広告だけ出してもあまり意味がありません。
だからこそ私たちは、お客さまと「広告の話」だけしていてはいけないと思っています。
ときには、事業に踏み込んだ話もしないといけない。
お客さまと一緒に悩んで、考えて、戦略を立てて。おこがましいですが、ときには商品やサービスにも口出しをする。
そうすることで初めて、きちんと購買につながる「成功する広告」を実現できると思うのです。