白眉神

奇妙で不思議で不条理でシュールな出来事を夢と現実に渡って書きつらねます。

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ドリーム・トラベラー 番外編1「近距離の体外離脱」

 体外離脱(幽体離脱)を最も経験したのは三十代半ばから四十代半ばまでの十年間だった。十一年連れ添った愛犬を三十代半ばで亡くし、悲嘆に暮れて過ごした十年間、わたしは頻繁に肉体を離れた。愛犬が現実世界との軛となっていたのか、愛犬と再会したい思いから深層心理が霊界へ向かおうとしたのかは解らない。  離脱は必ず、眠りに落ちる寸前に起きる。全ての音をかき消すほど大きな耳鳴りに続いて、乱気流に突入した飛行機の如く激しく恐ろしい振動。何か大きな物体の落下音と、こもった爆発音が同時に二発。死

    • ドリーム・トラベラー第十二夜 明晰夢と体外離脱の境界

      もう一人のトラベラー  どうやって登ってきたのか、なだらかな山道を進んでいた。  周囲には美しく長閑な山間の風景が広がっていた。  やがて、山の中腹の斜面にポツポツと民家が現れ、気づけば公民館風の施設の前に立っていた。  何の施設かはわからないが、休館中の札がかかっていた。せっかく来たのに困ったな……なぜかそんな思いが込み上げた。  だだっ広く何もない庭の横に果樹園があり、その前で二人の中年女性が今年の収穫について議論していた。 「このあたりに開いているお店はありませんか」

      • ドリーム・トラベラー第十一夜 ついに集団化したダーク・ピープル

        飛行能力の獲得  恐ろしい姉妹が現れ、泊まっていた旅館の部屋から逃げ出した。  姉妹は「噛まないから」と囁きながら、黄色く細い蛇をわたしの顔に近づけてきたのだ。  時刻は午前零時を回っていた。  人が大勢いる場所なら安全だろうと思い、階段で大浴場のある二階へ向かった。    階段の踊り場にスチール製の物置が設置されていた。その扉が開くと、宿泊客らしい人々が五、六人詰め込まれていた。どうやらそれは、エレベーターらしかった。  どうぞどうぞと促され、わたしはその物置風エレベータ

        • ドリーム・トラベラー第十夜 「明晰夢の新たなるステージ」

          ウコンさん  鏡の向こうにウコンさんが現れるようになってから、不安で憂鬱な日々を過ごしていた。  わたしは夢の中のわたしと同化し、これまでの経緯を瞬時に理解した。  だが、ウコンさんなどという知り合いはいないので、この人物がわたしだとは当然思えなかった。では、わたしは他人の夢の中にいるのだろうか?  これまでの明晰夢とは異なる、新たな感覚だった。他人の夢の中に転移する、体外離脱の変則バージョンかも知れないとさえ思えた。  ベッドの上には、愛犬らしき小型犬が蹲っていた。眠って

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        ドリーム・トラベラー 番外編1「近距離の体外離脱」

        • ドリーム・トラベラー第十二夜 明晰夢と体外離脱の境界

        • ドリーム・トラベラー第十一夜 ついに集団化したダーク・ピープル

        • ドリーム・トラベラー第十夜 「明晰夢の新たなるステージ」

          ドリーム・トラベラー 第九夜 新たな恐怖

          抜け道の守護神  ダーク・ピープルに追い抜かれてからというもの、しばらくは明晰夢に奴らが出てくることはなくなった。代わりに、別の恐ろしい黒い物体や生物が現れるようになった。  これはその一つで、昆虫と機械の中間のような存在だった。  ケーキ屋の前に会社の部下と見知らぬ二人の社員(かどうかも不明)がいて、わたしの買い物に同行することになった。  部下は自転車の練習中に足を怪我したらしいが、どうしてもついてくるという。 「一軒だけじゃなくて、三軒回って最も安くて新鮮な肉と野菜

          ドリーム・トラベラー 第九夜 新たな恐怖

          ドリーム・トラベラー 番外編2「明晰夢を作り出した非現実的な生活」

           前回、ダーク・ピープルに追い抜かれたことを書いたが、説明不足だったかも知れない。  夢の中でダーク・ピープルに追われていたわたしは、夢から逃れるために目を覚まし、現実の世界に戻りたかった。  では、わたしはいったいどこにいたのか?  夢を見るという現象が脳内で起きていることは科学的にも明らかになっている。そうすると、ダーク・ピープルは自分の脳の中に存在していることになる。夢について研究した学者や精神科医、識者の大半が、それを「自身の潜在意識が作り出した存在」と断定するだろう

          ドリーム・トラベラー 番外編2「明晰夢を作り出した非現実的な生活」

          ドリーム・トラベラー 第八夜 ダーク・ピープルに追い抜かれた日

          霊峰  夢の中で、二度訪れている寺がある。普段の生活では全く記憶に上らないのだが、同じ寺の夢を二度目に見た時、思い出したのだ。といっても、寺の建物どころか鳥居さえも見たことがない。二回とも寺へ向かう道程、参道を歩く夢である。  その寺は濃い霧に覆われた急峻な山の中腹にあるらしい。先細りの尖った山だが、高い山ではない。観光地として人気がある設定になっているようで、寺へ向かう陽炎の如き人々の後ろ姿が道々に現れる。 〝教授〟を先頭に、三人の女子生徒、そしてなぜかわたしが参拝に

          ドリーム・トラベラー 第八夜 ダーク・ピープルに追い抜かれた日

          ドリーム・トラベラー 第七夜

           これは見た夢の忠実な記録であり、夢の中の体験をノンフィクションと仮定できるとしたら、本作は小説を装ったノンフィクションといえるかも知れない。 夢の中だけに現れる風景の記憶  見知らぬ田舎町を走っていた。  異世界にいるもう一人の自分の体に転送されたような感覚だった。  わたしはすぐに、明晰夢を認識した。  夢の中のわたしは、現実と同様の速度で走っていた。現実世界のわたしはシリアスランナーで、ほぼ毎日十キロ走っている。だから着地感覚に違和感を覚え、夢の世界にいることを悟っ

          ドリーム・トラベラー 第七夜

          ドリーム・トラベラー 第六夜

           これは見た夢の忠実な記録であり、夢の中の体験をノンフィクションと仮定できるとしたら、本作は小説を装ったノンフィクションといえるかも知れない。 アストラル・トリップ  目線の少し上に大きなスクリーンが広がっていた。映画館のスクリーンよりは小さいが、画面との距離が近いので視界いっぱいに広がっている。  部屋全体も映画館並みに暗い。  スクリーンの周囲はコックピットのような計器類が並んでいる。それらは様々な色で点滅しているが、光量は弱く、ぼんやりしている。  わたしは読書中

          ドリーム・トラベラー 第六夜

          ドリーム・トラベラー 第五夜

           これは見た夢の忠実な記録であり、夢の中の体験をノンフィクションと仮定できるとしたら、本作は小説を装ったノンフィクションといえるかも知れない。 出産  分娩室で苦しむ妻に何もしてやれず、わたしはただおろおろするばかりだった。そんな態度を見かねたのか、看護師は廊下に出るよう促した。  閉め出されたわたしは長椅子に腰掛け、祈るような思いで手を重ね合わせ、目を閉じた。  待てよ……わたしに子供が? そんなことはあり得ない。妻は妊娠してさえいないのだから。とするとここは――。  

          ドリーム・トラベラー 第五夜

          ドリーム・トラベラー 第四夜

           これは見た夢の忠実な記録であり、夢の中の体験をノンフィクションと仮定できるとしたら、本作は小説を装ったノンフィクションといえるかも知れない。 壁を越える  歴史的な建造物の廊下で仰向けに寝ていると、五、六人の若い男女がわたしの周囲に集まってきた。 「このどうしようもない奴をまともにするにはどうするべきか」  腕を組んだ偉そうな女が議題を振った。  わたしを取り囲んだ集団は迷惑な漂着物の処理方法でも議論し合うかのような調子で意見を出し合った。 「病院に連れて行くべきだ」

          ドリーム・トラベラー 第四夜

          ドリーム・トラベラー 第三夜 明晰夢は妄想で出来ているのか?

           これは見た夢の忠実な記録であり、夢の中の体験をノンフィクションと仮定できるとしたら、本作は小説を装ったノンフィクションといえるかも知れない。 謎の工場  不気味な唸りを上げる工場があった。  何を作っているかわからないが、入り口の小さなドアが開いており、奥には暗闇にオレンジ色の小さな電球が浮かんでいる。何やらノスタルジックな光景だ。  電球の下に小さな部屋が浮かんでいた。暗い部屋の中に、もう一つの部屋が存在しているように見えた。  これは頻繁に見る夢の中の幻覚だ。暗い部

          ドリーム・トラベラー 第三夜 明晰夢は妄想で出来ているのか?

          ドリーム・トラベラー 第二夜 夢の中の叫び

          怖い家  これも実家にまつわる夢だ。  玄関のドアに鍵を差し込むと、施錠し忘れていたことに気づいた。  ドアを開けると、成人前まで住んでいた実家が現れた。薄暗く狭いリヴィング、右手には二階へ上がるピッチの狭い階段。リヴィングの左奥に細長いキッチン、右奥にトイレと浴室。懐かしさなど感じない。夢で何百回と見た過去の光景だ。  ある夜は憂鬱にふさぎ込み、何かに脅えていた母が突然「来る!」と叫び、二階から何かが凄まじい音を立てて階段を駆け下りて来る。  またある夜は、金属の仮面を被

          ドリーム・トラベラー 第二夜 夢の中の叫び

          ドリーム・トラベラー 第一夜 夢は過去とつながっている

          同じ悪夢  小学生から中学生にかけて、毎晩のように同じような悪夢を見た。  例えば、一人で家にいる時、物音がしたので一階に降りると、形容しがたい姿の化け物に電池のような物を鼻に押しつけられるといった夢だ。そいつは紙袋のようなゴワゴワした袋を頭に被り、体は熊のような体毛に覆われていた。背丈は大人にしてはやや低い。  もう一度電池みたいな物をくらったら自分が消滅してしまう気がしたので、何とかそいつを振り切り、公園に向かって全力で逃げた。すぐにでも追いつかれそうな気配を背後に感じ

          ドリーム・トラベラー 第一夜 夢は過去とつながっている

          ドリーム・トラベラー 序章 謎の原稿

          ※この小説は、創作大賞2023「ミステリー小説部門」応募作品です。 序文  書いた覚えのない原稿がポメラの中に見つかった。わたしは以前、小説家を目指しており、プロットが浮かぶとポメラに書き留めていたのだ。  酔っ払って書くこともあったが、書いた記憶まで失ったことはない。  しかし、この原稿は全く覚えがない。  フォルダの中には作品ごとに分けた複数のファイルがあり、それぞれ膨大なテキスト量に及んでいた。  それは夢に関する記録で、初めは単なる夢日記の類かと思ったのだが、途中

          ドリーム・トラベラー 序章 謎の原稿