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物語

25
小説集。
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Overdoom

Overdoom

 元赤子の眼球が、フロントガラス越しに無言で僕を見つめてくる。
 逃走の過程で母親ごと跳ね殺した赤子がフロントガラスに飛散し、拭ったワイパーに視神経が引っかかってぶらぶら揺られているのだった。
「こっちは走る原爆だぞアホ!撃つなバカ!」
 テカシ製〈ロケット6ix9ine〉は僕らと酷使で爆発寸前の原子力電池を載せ、罪都のハイウェイ61を時速200キロで爆走していた。
 車のハンドルを握る親友のロイ

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(没)恩返しの鶴

(没)恩返しの鶴

「この前助けてもらった鶴です。恩返しに来ました!」
 あ、それ言っちゃうんだ。
 自宅の安アパート。ぼくは開けた玄関のドアノブを掴んだまま静止した。
 呼び鈴の音に誘われてドアを開けたらそこには絶世の美女が着物姿で立っていて、その侘しげな瞳が射抜いてきた。
 男なら誰もが夢見る風景だ。ある日とんでもない美人とうっかり関係を結ぶという超展開。
 だが問題が一つ。
「あの…多分人違いじゃないかな」
 

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(没)BURN IT DOWN

(没)BURN IT DOWN

『我が子威吹よ、汝を指したる凡ての預言に循ひて、我この命令を汝に委ぬ。これ汝がその預言により、信仰と善き良心とを保ちて、善き戰鬪を戰はん爲なり』
 そう水瀧楓は紅威吹の耳殻に呪いを吹きかけた。
「ほらはやく」
 楓は傍らに立つ威吹の手首を掴み、その指先をビルの一つに合わせる。
 閃光がはためく。毒々しい赤紫色の花を開く大火球が眼窠の中で燃えた。生きとし生けるものを焼き払う劫火の嵐。眼前の超高層ビル

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(没)蒼天雲来

(没)蒼天雲来

 龍とは宇宙の道理と変化の具現である。
 時には大に、時には小に。大なるは霧を吐き、雲をおこし、江を翻し、海を捲く。また小なれば頭を埋め、爪をひそめ、深淵にさざ波さえ立てぬ。その昇るや大宇宙を飛揚し、その潜むや百年淵の底にいる。
 ありとすればあり、なしとすればなし。古来、龍の話は無数に聞くが、未だこれが真の龍だという実物は片鱗も見えぬ。
 が、性の本来は陽物ゆえ、いずれこの地上、風雲に会って大い

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(没)恋愛戦闘小説

(没)恋愛戦闘小説

「玄くんが、好きです」

 ──放課後、屋上。

 その言葉を耳にした黑部玄は唖然と立ち尽くした。
 時限終わりに話があるからと隣席の山田小春に呼び出され、なんの話だろうかと心待ちにしていた矢先、屋上の塔屋を出るなり告白された。
 玄にとって、隣席の山田は神に等しい存在だった。優しく、美しく、そして超然としている。なんとなく妄りに近づき難いものを感じさせるのだ。清浄な砂が敷き詰められた床に足跡をつ

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(没)DArkSide

(没)DArkSide

 パンドラによって遍く厄災が解き放たれた匣には、希望だけが遺った。
 では拭えぬ闇に囚われたこの世界に遺ったものとは。

 無明の闇に閉ざされ翳や陰が跳梁する末法の世にあって光を放つものに近づいてはならぬ。逢魔はそう教えられてきた。
 それは人魂を薪に焚べた輝きであり、捕まれば最後、虚にされた肉体に闇を吹き込まれた幽鬼となって人を狩る末路を辿るからだ。
 だが眼前のこれは違った。
 何ともつかぬ奇

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(没)食卓事変

(没)食卓事変

『引きこもりの男が両親を殺害した容疑で逮捕されました。警察によりますと……』

この瞬間、朝の食卓に緊張が走る!

 ぼくはTVニュースが聞こえないふりをしつつポケットの中の凶器に触れ、両親がぼくに対してバカなことをしてきたら刺してやろうと刮目していた。母は台所で固まり、白く浮き上がった腱が遠目でもわかるほど強く包丁を握りしめている。父はぼくの向かいで顔の前に新聞を広げ一見平然としていたが、早業で

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(没)至天

(没)至天

 銀河の全てが刻まれた「覺典」の記述を引くに、それは九九九周期──〈神咒無限帝国〉建国記念式典の事である。

 回顧するに──人類が起源の星、地球を脱して幾星霜。臣民は天帝の詔を患い、多銀河にその版図を拡大した。それは他起源との角逐を意味する。蒼海(近銀河圏)の戦役は連戦連勝の勢に乗じて帝国不滅を告げ、忠勇義烈なる将士は凱歌を奏し、臣民の歓喜は数多の星を震わした。
 かような国家の祭とあればその様

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ギガデス

ギガデス

 渋谷、スクランブル交差点。
 その中心に男はいた。
 誰もが目を見張らずにはいられぬ美丈夫である。艶のある隆々とした巌の如き筋骨はミケランジェロの彫刻を想起させる神々しさすら漂わせており、古代の超人英雄の再来を思わせた。
 だが何より目を引くのは、全裸の上から股間に被せたペストマスクである。
 男の周囲には彼を公然猥褻罪容疑で現行犯逮捕を試みた警官達がのびていた。さらに離れた場所には増援の特殊急

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(没)廃業探偵の愁い

(没)廃業探偵の愁い

「探偵に最も必要な素質とは何だと思いますか?」

 学生時代のことである。卒業記念にと単身乗り込んだシベリア鉄道の車輌内で、私は“探偵”と出会った。
 自分の部屋で暇を持て余していた私は、ハバロフスクで乗り込んできた同じ日本出身の男と親交を深めることになった。
 ややオーバーなデニムのボトムス、ゆるりとした白いシャツの上にスエードのベストを羽織り、中折れ帽をかぶっている。黒縁伊達眼鏡の向こうで狂気

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熒惑の星

熒惑の星

時の流れが逆行していく。減少する、エントロピー。
そしてぼくは、軽功をもって雷霆の一閃を回避する。
安堵の一息。
全ての条理は無事に世を遡って還ってきたのだ。
 
無傷の君を、腕に抱きかかえる。
(二)


↓──おかしい。
巨頭は訝しんだ。
時空を超えて未来へ跳躍する霹靂柱の雷霆は狙いを過たない。
あの時、たしかに標的を捉えていた。逃すことはあり得ない。
否。
巨頭は邪眼をもって望界する──事

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貴族転生

貴族転生

 生意気な貴族を殺したら遺族に恨まれ司法局の執殺官に追われてネロウの都を散々に逃げ回った挙句密業者に依頼してドゥリムン川を渡って国境を抜けようと試みたところで裏切りに遭い遂に命運尽きて年貢の納め時と相成った。
「オレは悪くない。悪いのはあいつだ」
 逮捕時に愚痴ったのはそんな台詞である。当然聞く耳を持たない執殺官は紫苑を司法局の暗い石牢に鎖で縛りつけた。そして遺族の意向いかんによっては拷問をくわえ

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丁王覇記

丁王覇記

 シャンヨンと出会った時、殺してやると罵られたことをよく覚えている。
 いまとなっては考えにくいことだけど、当時のぼくと彼女は犬猿の仲だった。ぼくはそんなつもりはなかったけどもシャンヨンはどうにもぼくが憎くて仕方がなかったらしい。
 あれはそう、十二年ほど前のことだ。ぼくと彼女は互いの両親の面会の際に引き合わされた。ちょうどぼくの父ヒヴォンが近隣諸国を制圧し、盤州の一地方に覇権を敷いた頃だった。父

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