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労働の本質ってどこ?福利厚生と制度がユニーク過ぎる企業「サニーサイドアップ」が凄いよ

労働環境と企業体質を問われ、半年くらい前にビッグ〇-ターがSNSでド派手な炎上をしました。

それで突然ですが、もしもそんな企業とは全く正反対に、フラれただけで休暇がもらえたり、健康になるだけでインセンティブがあったりと、有り得ないくらいサポートの手厚い、(良い意味で)とんでもない企業があったらどうでしょうか。
ことワーク・ライフ・バランスが唱えられはじめた令和においても夢のような話ですが、存在するのでしょうか?

ありました。


ネットサーフィン中、たまたま目に止まった
「株式会社サニーサイドアップ」。
その福利厚生(制度)がやたらユニークで、働くとはどういうことなのかというのを深く考えるキッカケになったので、HPから分かる情報の範囲で浅薄ではありますが勝手にヨイショしようと思います。

令和元年以降の働き方改革はまだまだ建前だけな部分もありますが、
自己や家庭を顧みず働いたという昭和時代の「モーレツ社員」だとか、
「24時間働けますか」が流行語大賞となったという平成元年からは見違える程、「労働」は単なる「働くこと」以上の意味合いを持ち始め出したことと思います。

しかしこれを踏まえた上でなお、「サニーサイドアップ」のそれは一線を画すものとなっています。

大事なことなので先に述べますが、この企業と僕個人は何の関係もありません。選考を受けているわけでも社員でも役員でもない全くの赤の他人です。
また本記事は2024年現在企業HPに掲載されている情報を信頼したもので、予告無く変更されたりします。

■ざっと概要

東京都中央区日本橋に本社を置くPR&プロモーションやスポーツビジネス、ブランディングを手掛ける企業。
広義には広告代理店と言って差し支えなさそうですが、HPにある言葉を借りれば”たのしいさわぎをおこしたい”会社。

企業名の由緒来歴は、「日常生活のささやかで素敵な喜びをもたらす身近にある親しみやすいアイテム及びサービスを提供する会社を目指すということで、Sunny Side Up=『目玉焼き』としました」。

完全栄養食としての、普遍で有用な卵自身の可能性に倣ったのか、はたまた料理としての柔軟変形性―茹で、焼き、炒め、オムレツ、スコッチ、キッシュやポーチド―に倣ったのか、真意は定かではありませんが、キャッチーなネーミングに反し、深い含意をたたえているように思えます。

また「サニーサイドアップ」という英単語には「目玉焼き」だけでなく「明るく元気で楽観的であること」というスラングがあるようで、企業理念、人材、労働環境の芯が通っていることからも、その表向きの柔らかい印象とは裏腹に、意識付けは組織レベルでの周知徹底がなされているように思えました。

創業は1985年とありますが、拝見する限りでは新興ベンチャーにあるようなフリーアドレス・ユニバーサルデザインを採用した、柔軟で明朗快活、外向的で溌剌とした人間と環境が整っている印象を受けます。

実績も素晴らしいものですが、僕がここで伝えたいのは業務やサービス内容でないため、それらは割愛します。

ここまでであれば単なる、よくある華やかキラキラ系オフィスじゃん……で終わりますが、この企業の面白いところはもう少し別にあります。

■32BENEFITS “32の制度” について

サニーサイドアップには、労働を楽しくし、“たのしいさわぎをおこす”ための原動力となる独特の“32の制度”なるものが存在するようです。

32といいつつ記載されているものは30個しかなかったのですが、
よんどころない事情があったりしそうなのでとりあえずHPにならって“32の制度”としておきます。
王貞治の背番号1番が永久欠番になってるみたいな感じなんですかね(違う)。

これはよくある家賃補助や社会保険といったものとはまた別ベクトルの、非常にユニークなもので、ここにサニーサイドアップらしさが、というより働くこととか、組織とかが願わくばそうあってほしいよね、というエッセンスが詰まっています。

ちょっと長くなりますが以下から。またHPより概要を一部引用します。特に興味深い部分は強調しています。本当は全部真っ黒太字にしたいのですが。

🍳SKILL UP部門―サニーサイドアップらしさを磨く

#1「たのしいさわぎ創造支援」制度
音楽、映画、スポーツ、ライブなど世の中で起きるイベントや文化活動への参加に対し、会社が費用を一部支給する制度。“たのしいさわぎ”を起こすための持続的な創造力を養う。

#2「スキルアップ支援」制度
社員の成長=会社の成長
と捉え、資格取得やセミナーなど、個人主体の「リカレント」や企業主導の「リスキリング」にかかる費用を支給する制度。

#3「サニー文庫」制度
日々の勉強やインプットを支援するため、社員の書籍代を補助する制度。書籍はシェア本棚として寄贈やレンタルが自由

#4「英語“とか”ペラペラ」制度
グローバルな“たのしいさわぎ”支援のため、TOEIC800点または英検1級取得で32,000円のインセンティブ。また、第三言語(中国・韓国・ドイツ・スペイン・フランス・アラビア・ポルトガル・イタリア・ロシア語)習得で320,000円のインセンティブがそれぞれ支給される。

🍳WORKER FRIENDLY部門―“たのしいさわぎ”の原動力

#5「幸せはあるいてこない」制度
月間平均10000歩が目標らしい?
歩くだけで3,200円のインセンティブと健康をダブルで手に入れられる制度。

#6「目指せ!A身体」制度
健康診断でA判定を獲得すると、健康へのインセンティブとして32,000円。肥満気味だと翌年基準値クリアで10,000円が貰える制度。契約ジムもあり。

#7「寝る子は育つ」制度
心身の健康と労働中の集中力支援のため、毎月平均7時間以上の睡眠をとった社員に3,200円。

#8「シエスタ」制度
Well-being(心身と社会的な健康)支援のため、社内での公的な睡眠タイムの取得を認める制度。

#9「振“給”」制度
休日出勤をした際、平日の振替休日に対して、より休暇を充足させるために3,200円を支給する制度。

#10「たのきん」制度
月末金曜日のプレミアムフライデー。15時の仕事納めののち、部門部署問わずメンバー同士の交流を深める制度。

🍳BE YOUSELF部門―自分らしく生きる働く

#11「パートナーシップ」制度
多様性とダイバーシティに基づく新時代の就業規則。同性婚・事実婚の場合にも結婚出産祝金、結婚休暇が認められる制度。

#12「Dear WOMAN」制度
いわゆる昨今の生理休暇に加え、卵子凍結や保存までの費用補助、AMH(卵巣予備能)検査と精液検査なども補助。生き方の選択肢を広げ、誰もが自身の身体と向き合えるための制度。

#13「サニーベイビー支援」制度
メンバー同士で結婚し2人目以降の子供が産まれた際に、都度100万円を支給する制度。家事代行やシッター費用補助などの支援にも拡大予定だそう。

#14「世界一の朝食」制度
世界一の朝食を謳うオーストラリア・シドニー発のオールデイダイニング「bills」をアジアで展開するサニーサイドアップ。更なる世界一発見のために“今一番行きたい飲食店”を社長と楽しめる制度。

#15「TKG」制度
頑張るメンバーのお腹を支援するため、たまごかけご飯がキッチンで無料食べ放題できる制度。これすき。

🍳PRIVATE部門―プライベートも一生懸命

#16「ファミリーホリデー」制度
家族と過ごす時間を大切にしてもらうため、家族旅行や運動会、結婚記念休暇や離婚休暇の取得を認める制度。

#17「誕生日休暇」制度
誕生日(誕生日月内)に休暇を取得できる制度。チームメンバーからはハッピーバースデーの歌がプレゼント。

#18「恋愛勝負休暇」制度
メンバーの恋愛を応援するため、告白、勝負デート、プロポーズ、はたまたその準備など「勝負日」に休暇取得ができる制度。

#19「失恋休暇」制度
すっきりして次の恋愛に進んで欲しいという社長の想いを込め、失恋したら会社を休んでも許される制度。

🍳SOCIAL部門―メンバーを支援

#20「クラブ活動支援」制度
PRパーソンという会社の特徴を活かし、オウンドメディアでメンバーのクラブ活動をジャンル問わず届ける制度。

#21「キミのなかみは」制度
中途・新卒採用のメンバーが垣根を超えて交流する機会を支援する制度。

#22「ダガヤサンドウ応援」制度
本社の周辺エリア(千駄ヶ谷&北参道)にまつわる情報をSNSで発信すると、使った費用の一部を会社が支給する制度。メンバー全員が地域のプロモーターとなる。

🍳THANK YOU部門―ありがとう

#23「MVT表彰」制度
“Most Valuable たのしいさわぎ”を体現したメンバーを表彰する制度。選ばれたメンバーにボーナスを贈呈。

#24「アワード獲得表彰」制度
詳細は社外非公開のようです。

#25「これからもヨロシクね」制度
長期勤続に対し、休暇と報酬金を贈る制度。

#26「Thank You, Colleagues!」制度
取締役が「勤労感謝」の日(おそらく11月の「勤労感謝の日」とは別)に、メンバーへの感謝を込めて朝ごはんを振る舞う制度。

#27「Sunny coin」制度
リアルタイムでメンバー同士が褒め合い、給料に変わるポイントを渡し合うピアボーナス(社員同士による賞賛を主とした各種インセンティブ)制度。

#28「プレミアムヒューマンデー」制度
11月1日の国際男性デー、3月8日の国際女性デーに、メンバーへの感謝とギフトを贈る制度。


🍳GOOD部門―やさしいきもちで

#29「サステナブル支援」制度
オフィス内でもSDGs活動を実施する制度。ボトルやバッグ、グッズなどが制作されているらしい。

#30「サニカリ」制度
メ〇カリの社内限定版。メンバー同士で不要になった服、雑貨などを売買できるフリーマーケット制度。


■労働の本質を突くユニークさ

どうでしょうか。ここまでする?というものから何だこれ?というものまで凄い振れ幅です。

さて、サニーサイドアップの福利厚生のユニークな点は、労働に限らず、生きていく上で生じるイベントや
それに伴うQOLの上昇と下降に限りなく寄り添おうという姿勢にあると思います(ここでの本題からは逸れますが、サニカリ制度なども痒い所に手が届く的な面白いものだと思います)。

あらゆる気配りがただのお気持ちでなく明確に制度化されていることによって、よくある「アットホームな会社」的な、実態の捉えられないフワッとした雰囲気のようなもので誤魔化されていない。

一見はふざけている様に見えても、その一つ一つは「この制度は何のためにあって、それをなぜ支援するのか」という理屈の部分が非常にハッキリしており、納得がいきます。

それでいて制度の内容、文章のニュアンスから伝わる配慮や面白さと、それらによってメンバーのモチベーションや帰属意識を高めるマネジメントとが非常に良く噛み合っています。やさしさとしたたかさ。内柔外剛。白身黄身と殻のようです。福利厚生どころか、政府による公的扶助を企業レベルにコンパクトに落とし込んだかのような手厚さですね。

企業は、各メンバーの睡眠から食事、健康、プライベートや不測のアクシデントに対し、それを組織の構成員としてでなく、一人の人間として尊重する態度で扱い、支えています。

これにより十分な社会的・精神的安定を提供し、それによってメンバーは更に高い水準での自己実現とワーク・ライフ・バランスを充足させていき、その生産性が企業に帰属され、発展していく……という仕組みが実現しています。

そもそも、働くことは面倒くさいことです。眠かったら寝たいですし、浮ついて仕事が手に付かないときも、辛くて手に付かないときもあります。であるならば尚更、やることなすことに動機付けやインセンティブが無ければやる気も出ません。
所詮そんなもののはずなのに、そのために過労死など、あってはいけないことです。

サニーサイドアップがそういった労働の本質にうまいこと寄り添い、可能な限りのリスクヘッジを試みた結果が“32の制度”なのだと思います。

良く考えてもみれば労働環境や人間関係は、家族や友人と並び、長期的に身を委ねるコミュニティとなるはずです。オフィス等の仕事場でただ仕事をする/させるだけが労働であるというのは前時代的な発想なのかもしれません。


■おわりに―全ての企業が真似をするのは無理、ではどこを手本とするか

ここまでヨイショヨイショでしたが、筆者の感想は「凄いけど、怖い」でした。

完全な憶測ですが、ここまで保障がされているということは当然、高い生産性をもって取り組むことがその分だけ求められるはずです。
これはむしろ、ピリピリキビキビした職場だったほうがまだ理解できます。

しかし“たのしくさわぐ”環境において、その制度をしっかりと享受しつつ、それでいて協調して有用な能力とアイデアを和気あいあい生み出す、という公私のスイッチの緩急は想像以上に難しいように思えます。

それこそ、月9ドラマで出てくるような大都会のど真ん中の参差錯落とした上場企業のビルで、お洒落なオフィスに腰を据えてワーク・ライフ・バランスを実現しつつキャリアを形成するって、並大抵の人間にはまずもって無理だと思うんですよね。

これは、優秀な人間が義務と権利をしっかりと行使して積み上げてきた結果に過ぎないし、「働かないほうの働きアリ(例えば、僕のような)」が紛れ込んだところで、休暇だの報酬だの都合の良い部分だけ齧るので、ロクに成績を残さないし、何にも貢献していないアリはやっぱり巣を追い出されるか、足並みを揃えられず野垂れ死ぬ、というビジョンしか見えません。

もう一つ難しいのが、全ての企業が採用することは現実的妥当的に考えて無理だ、という点です。
先のようにシステムにフリーライドしようとする僕のような輩は後をたたないと思いますし、こんな事をやれるほど体力(資本)やリソース分配に余裕のある企業はそう多くないはずです。

それに医療や行政、教育機関(と言っても公務員は無いでしょうが)でこれが導入されたらどうでしょう?中々たまったものではありません。普及するとかえって社会が回らなくなるというジレンマが。

そして残念ながら、お互いがお互いを思いやれるほど、社会に余裕がない時代になってきているような気がします。それに普通の企業ではこのような制度も形骸化するだけです。

サニーサイドアップの制度は、メンバーの、そして理念としての“たのしいさわぎ”の手助けをするための「手段」として存在するものです。

これをただの中小零細企業が模倣したところで、この「手段」は、制度を導入すれば何か良くなるだろうという「目的」にすり替わるだけです(手段の目的化)。
ただ休むとか、ただ報酬を与えるとか、そんな薄っぺらい理由ではこの高尚なシステムは成り立たず、享受する側もその制度の意味を深く理解し、相応の態度で活用しなければならないのだと思います。

では我々は、こうしたサニーサイドアップの多様的で深く、ユニークなエッセンスの数々を、どう受け取るのが良いのか?

これは非常にシンプルです。企業がとか、制度がとか、そういう高次的な話にして実践するのが少し早いというだけで、まずは「私」と「あなた」とか、そういう一歩の踏み出し方をしていくべきだと思います。

また先と似たような話になりますが、制度化とか以前に、人には日常生活やライフスタイルにおいて辛いことや嬉しいこと、その他諸々の変化が沢山ありますよね(32の制度に基づくなら、健康、通院、不調、勉強、失恋、離婚、結婚、出産、誕生日、不幸……)。

しかし、労働というのは、そういった人生のイベントに単に「くっついてきている」作業だと考えることができます。

大多数の人間にとって労働はつまるところ、食い扶持を得るための社会的活動、くらいのイメージだと思います。
実際人間は働くためだけに生きている訳ではなく、サニーサイドアップの制度はそういう点で労働の本質を非常に面白い視点から突いていると感じられました。卵と鶏どちらが先かという話のように思えますが、こと労働においてはQOLを考慮するべきで、それが充足すれば仕事も充足するだろう、と考えられる節があります。

サニーサイドアップという企業がメンバーに対して“32の制度”の配慮をしているのと同じように、我々も、周囲の個々人を尊重し合うのが物事の始まりとして相応しいのではないでしょうか。……つまり、ここまで挙げてきた「制度(福利厚生)」に対して、人間側が追い付いていないのです。制度の含意を正しく理解し、正しく享受し、正しく還元することができる人間はほんの一握りです。手厚い待遇を受けたいなら、まずは、システムが整備される以前の問題として、それを受け取るに相応しい人間になってからだよね、という話です。

私たち自身が生活上の利害関係者に対し、互いの精神的、生活的背景の解像度を高めて、もう少しだけ分かってあげたり、寛容になってあげるだけで、自ずから“32の制度”にみられるような深い配慮の考え方は「個人→集団→企業組織」と発展段階的に、サニーサイドアップの制度の通りではないにしろ、幹から枝へ葉へなぞるように実現していく可能性が十二分にあると思います。

人の数だけ色んな考え事があって、普段一緒に仕事をしている人ももしかしたらあんなことやこんなことを抱えているかもしれないので、その可能性に誰もが気を配ることができるようになったら、労働が今までと違った角度から良い方向に変わり始めるかもしれないな、という気付きを得られました。

制度として普及させるのは現段階ではやっぱり厳しそうですが、意識するだけならすぐに始められるはずです。労働は何のために?そして誰のために?……仕事中だけでなくても、サニーサイドアップの精神の実践は、日常に“たのしいさわぎ”をもたらすためのブレイクスルーとなるかもしれませんよ。

ただし、公道の街路樹に除草剤を蒔いたりゴルフボールで車の窓を割ったりするユニークさは要らないです。おわり。




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