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舞城王太郎「畏れ入谷の彼女の柘榴」

※あんまり本の感想じゃありません。

三編収録の二篇目「裏山の凄い猿」を読んで以来考えていることがある。
前回「あなたは私の瞳の林檎」を読んだ時にも頭の隅をかすめていたことでもある。
自分が好きなこと、とはどのように選ばれてきたか?
好き、嫌いはともかく、自分にとって無関心な事柄は?

「あんたにこんなこと言うのは可哀想やけど、あんたが生まれたとき、どうなるかなあと思ったけど、私もお父さんも全然変わらんかって、結構残念やったんや。あんたのせいでないよ?あんたも大変な赤ん坊やったけど、まあ世話自体は大したことなかったでな。あれって、子供が泣くやろ?ほしたら親としては辛いはずなんよ。ほやけど私ら辛くなかったから、子育て自体は大したことなかったわ。赤ん坊を泣かせたらあかん、みたいな罪悪感みたいなんがないと、多分だいぶ違うんやろな。ほやけど面倒は面倒やったで、夕方あんたがギャンギャン泣いてたとき『別にあんた今ここで死んでもええにゃでえ』て言うてたら、お父さんがそれ聞いて、あんたのこともうちょっと、頑張って愛情があるふうに育てようって言うたの。『この子に罪はないから』って。ほんで、私もそうしたんや。人のこと愛せる子になったほうがいいんやろうとは思ってたで。ほやけどまあ、どうやろ。あんた、もし私らみたいになってたら、もしかしたら、まあないやろうけど、遺伝ってこともあるんかもしれんし、教育がやっぱ上手くいってなかったってことかもしれんし、どっちにせよ親のせいってこともあるかもやで、ごめんな?」
 いやこの話をぶっちゃけたことを謝ってくれよ!と思ったけど、それは言えなかった。
 人を愛せない親の、人を慮ることができない人間なりの、子供に対する誠実さってことなんだろうから。

引用が長くなった。
主人公が同級生に「あんた絶対結婚できん」と言われたことについて、母親と話した時の母親の言葉。
それ以外の箇所もだけど、自分の中に引っかかるものがあった。
この母親とは違う。私は家族を愛してる。
それははっきり言えるけれど。
それ以外は?
あれ?
愛とかは話しが大きいか。
恋愛関係の話は興味がないし。
でも創作の多くに恋愛要素は入っている。
それら全て否定して読んだり見てるわけじゃない。
でも、うっとり、とか、こんな恋愛したいな、とか、ない。
例えばドストエフスキーを読んでいる時に、その背後にキリスト教のことがあったり、玄侑宗久読んでる時に仏教のことがあったり。
そんな感じで、話の背景に恋愛要素がありますね、という感じ。
そういうものとして、距離を置いて眺めている。
それに傾倒している人、それ中心に生きている人、のことを否定はしない。

で、それだけじゃない。
「親の敵討ち」が復讐の理由って意味が分からなかったり。
美味しいものを求めるために高い金を払う理由が見当たらなかったり。
花の美しさを理解出来なかったり。
イルミネーション?
ちょっと怖くなってきた。

「関心のないこと」を列挙すると、とんでもない数になる、のは当然として。
自分にとっては全く関心を持てないことに、関心を寄せている大勢の人がいる。感動している人がいる。
それはいい。自分の好きな事に「どうしてそんなの好きなの?」とか言われるのは嫌だし。

違うな、言いたいのはこんなことじゃない。
無理して興味のないことに首を突っ込もうとは思わない。

怖くなってきた?
近い。
思っていたより大勢の人が、自分とは違う感覚で生きている。
昼に家族で出かけた時、イルミネーションで飾られた道があった。
「帰る頃に見れるといいね」と娘が言った。
え、どうして、と私は思い、次いで、ああ、イルミネーションが光っているところが見れるからか、と気付いた。

男と女が物語に登場する。
読者は双方がくっついたり、微妙な関係になったり、あるいは破局したりを楽しんでいるのだろうか。
自分で書く男女(もしくは男男、女女、もしくは何かと何か)といえば
・初対面でくっつく
・既にくっついている
・知らん間に勝手にくっついた
の3パターンの気がする。くっつくまでのドキドキとか、あった気がしない。

ストーリー作成術などではなく、人間の、自身の、根源的な何かを覗き込んでしまっている気がする。

舞城王太郎の小説を読むというのはそういうことだ、というわけでもないのだろうけれど。今の自分にとっては、深くて暗い穴ぼこの縁に手をかけてしまっているような危うさを受け取ってしまった。

いや、愛してるよ。
愛せる範囲の、愛せる物事については。
そうでないことについては……。
手を伸ばしたり、足を突っ込んだり、もがいたりあがいたりするほどでは。
多分。



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