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【読書】短評・2022年に読んで面白かった本 14冊くらい

 タイトルの通りです。去年読んだ「字ぃばっかりの本」は60冊くらい。マンガは数えていない。
 短めにザーッと流していきます。だいたい読み終わった順。



【1】『双面獣事件』二階堂黎人

 戦時中の沖縄の孤島に! 毒ガスを吐き! 目から怪光線! 顔がふたつで腕が4本、超怪力の巨大ゴリラが出現! しかも二体! 住民惨殺! という導入からはじまる大巨編ミステリ。
 ……いや、ミステリなんですかねこれは? ミステリはミステリか。謎も謎解きもあるし。そうか? 四捨五入していったら厳しくないか?
 冒険譚に、歴史と社会性を混ぜてシリアスにした感じ……とでも言いましょうか。一応著者お抱えの名探偵のシリーズなんですけど……
 ちなみにノベルス(新書)の表紙はこんなん。こわい↓


 ちなみにダブル顔面巨大ゴリラは、ダブル顔面巨大ゴリラです。なんらかのトリックとかじゃなく……
 正直、手放しで面白かったかと言われると難しい顔になります。一冊目から記事のタイトルに反していますね。すいません。
 でもダブル顔面巨大ゴリラですから。書いておきたいじゃないですか、そんなの読んだら……ね? わかって下さいよ!


【2】『童夢』大友克洋

 マンガの感想は書かないつもりでしたがこれは例外。映画『AKIRA』で有名な漫画家、大友克洋の全集が刊行開始。双葉社版で既に読んでたんですが買い直しました。何故なら尋常でなく好きだから。あとサイズがデカい。
 近未来都市!かっこいいバイク!SF!超能力!アクション!やってる『AKIRA』とは正反対、現代の団地を舞台にしたエスパーおじいちゃんと超能力子供によるバトル漫画。そうそう、このコマがとても有名ですね。

「おじいちゃんと子供? どうせなんかチャチい戦いでしょ?」と思った人、これ読んだらア、ア、ア……ってなります。すごいのよ。爆発崩壊しますからね建物が。あと人体も。
 事件やバトルそのものは団地の敷地内から出ないミニマムさで、よくぞこんなものが書けるなぁ……と幾度読んでも感服しまくり。すごい。
 いやもう、読んだことがない人は今すぐにでも読んだ方がいいと思います。完全にすごく、完全にすごい。


【3】『現代怪談考』吉田悠軌

 怪談師にして怪異・怪談の現代史も探求する吉田さんの著書。伝承、都市伝説、ネット怪談を「赤い女」をキーパーソン、「子殺し」をキーワードに読み解いていく。
 まぁとりあえず、目次を見てみましょう(晶文社 書籍データより)

https://www.shobunsha.co.jp/?p=6874

 ほら、ワクワクするでしょう。
「これと、これは、繋がるのではないか?」
「これは、このようになるのでは?」
「よもやこの話の大元は、これでは……!?」
 という、知識や話を「つなげる」、そこでパッと散る知の火花にワァッと感激する本であります。
 序文にある通り、厳密な研究本ではない。しかし「アッ、これとこれが接続される!」という知的興奮にワクワクさせられる、仮説の文学©️筒井康隆 というやつですね。滅法面白いので、興味のあるスジは是非……


【4】『書くことについて』スティーブン・キング

『IT イット』『シャイニング』『キャリー』『スタンド・バイ・ミー』『ショーシャンクの空に』などの世界一の小説家のひとりが人生と創作作法について呑み込みやすく語る。
 キングだってペーッと書いたらピャーッと売れたわけではない、売れたきっかけは、理解のある妻の存在……と書くとエッセイマンガになってしまうけど、すごい人はすごいなりに、今もなお努力していることがわかる本。
 ずーっとコツコツ地道に働きつつ、貧乏にあえぎながら小説を書いていて、ついに『キャリー』が出版社にかなりの値段で売れるくだりはドラマティックで泣けます。
「小説作法」のページも、英語と日本語の違いはあるだろうけどシンプルかつ力強い。なんせ書いているのがSキングなのであって、まず間違いはない。そして読み物としても抜群に面白いのです。
 後半では車に轢かれて死にかける九死に一生話&回復記も載っていて、人生ってマジで波乱万丈だな、と思ったりする。車を運転していたのがキング作品に出てきそうな雑な感じの人だったりして、あまりに出来すぎている。


【5】『蝶々殺人事件』横溝正史

 横溝と言えば金田一耕助だが、コチラ金田一モノではなくもう一人の探偵・由利先生モノ。これがすごかった。なんかもうね、当時のミステリでやれるものをこの中編で全部やろうとしていて、そして全部やってのけている。
 具体的にはアリバイ崩しとか、密室とか、どんでん返しとか、アレとかソレとか……ネタバレになるから言えないけど……。ウォーッやるぞ! な気合と今まで摂取してきたミステリへの愛がミッチミチに詰まっていて面白さと共に「ここまでやるか!」と胸を打たれた。


【6】『ショットとは何か』蓮實重彦

 映画評論界の本物の重鎮、昨年は自身の集大成『ジョン・フォード論』をついに上梓したこの人の、『フォード論』に先駆けて出版された一冊。
「ショット」とは簡単に言えば「カメラを回してから止めるまでの映像の一区切り」、みたいなもんだと思ってください。
 じゃあ「良いショット」とは何なのか? 蓮實重彦がよく書く「ショットが撮れる」とは? ということを、うずまきの外側から中心へと向かうように、具体例を挙げながらゆらゆらと語っていく。
 この人のすごいのはスーパー頭がいいにも関わらず、映画そのものにいつも真摯に向き合っているところである。作品背景や豆知識などには見向きもしない。ただ「映画」と「映画史」を観ている。
 あぁこれはすごい、となれば素直に感動的に、言葉を尽くして褒めちぎり、ダメだなひどいな、と思ったら徹底的にしばく。妥協がない。
 で、褒めちぎりや映像再現文章などには愛が満ちている一方で、しばき言葉や「この批評家や界隈はなんもわかっておらず、アホ」という旨の言葉もあるわけですが、これが何とも品のよい言い回しで、かつ遠慮なくボコっており……
 そらへんのことをご本人もわかってやっているので、ある種の娯楽性も備えている。真のインテリが言葉でボコる様はやはりすごい。
 褒めている文章もまた、こう、「ふくらみ」があるんですよね。読んでいるだけでこっちもワァ、と高まっていくような。惹きつけて、引き上げて、観たい、と思わせる。観たことがある作品ならワァ、そうだったよな、いいシーンだった、もっかい観たい、と思わせる。
 褒めもけなしも知的で面白く、内容も豊かで、文ではなく聞き語り形式なこともあって、読んでいてとにかく楽しいのであった。


【7】『「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か』林智裕

 福島生まれ福島育ちの著者が3.11以降~現在に至るまでのマスコミ、有名人、知識人、政治家の報道・発言を取り上げ、キッチリとした証拠や数字や事実を背景に、今なお危険を煽る人々の首根っこを捕まえて、
「福島は! 安全だと! 言っているだろうが! 震災当時も!! 色々ひどかった!! なぜ!! ウソを!! つく!!」
 と叱る本。事実に基づかない不安や怒りを扇動するような言論や報道を筆者は「情報災害」と名付け、福島へ向けられた多くの言説を徹底的に非難、論難する。
 主張反論の全てに説得力がある。というか反論のしようもほぼないくらいにキチンとしている。
「おわりに」の章で、
「本書は、出来うる限り『イデオロギー(党派性)』」ではなく『ファクト(事実)』の書にしようと努めてきた」
 と記してあるが、その言葉にふさわしい本と言える。ただ、本書とは関係ないが、「ファクト(事実)」に「イデオロギー(党派性)」を混ぜ込んで「でもこれって事実ですよね?」とか言い出す輩もいるので、注意が必要だ。
 この本が(まさに本書内で非難されている)陰謀論を振りかざすあの人や、濃いめのスピリチュアル系も多く出している徳間書店から出版されなきゃいかん現状にはちょっと危惧を覚える。


【8】『魔物』西村寿行

 今年読んだ小説では、ある意味でいちばん衝撃を受けたかもしれない。とにかく文章が短く、キレがある。簡素で、読ませる。
 冒頭からして「主人公が車で北海道を旅行中、いきなり見知らぬ奴らに襲われて谷に転落」という掴みバッチリの引き込み方。
 どうやら秘密結社的なやつの手先がなんか追っかけてきてるらしい……。追っ手のあの目つき……物の怪! あれは魔物の目だ! 物の怪! というなんかようわからんが迫力のある文章と、理由は不明だがとにかく襲われ続ける展開にページが止まらない。グレネードランチャーで撃たれたりする。ここは現代日本である。そこまでして主人公を襲う物の怪! 魔物め! 何者なのだ!
 途中なんかよくわからない味方が現れたり修行シーンがあったりしてよくわからないがとにかく文章が短く、キレがある。簡素で、読ませる。
 ページを止めさせないことに特化したような作品だ。なのでクライマックス、大詰め、「こ、この残りページで、どうなるんだッ……!?」からのオチには「ズコーーーッ!!」っとなった。こんな終わり方が許されていいのか。しかし読まされてしまったからには、西村寿行の勝ち。君も西村寿行に負けよう。



【9】『透明な季節』梶龍雄

 第二次大戦中の尋常中学、「ポケゴリ」とあだ名される体罰&パワハラ&性格最低&理不尽なしごきしまくりの配属将校(軍事教諭)が射殺されるという事件が起きる。
 刑事がやってきて捜査する中で、主人公の少年も率先してではないけれど、自分なりに調べてみたりしていく。生徒の犯行なのか、それとも教師の誰かが……?
 その中で「ポケゴリ」の妻で、あんなろくでもない男には似つかわしくない美しさを持つ薫さんに惹かれていく……
 が、しかし。
「戦時中だから、殺人事件だけど、それどころじゃないよね!」となり、戦争の激化に伴って全部あやふやになっていく。
 いろんな人がしれっといなくなったり戦地に送られたり死んだりしていく。殺人事件とは無関係に。そうだね、戦時中だからね。誰も彼もがあらかたそれを受け入れて、スーッ……と事件がフェイドアウトしていく。これがチョー怖い。戦争はよくないッスね。
 一応謎解きはあるしちゃんと解決もするけど、ミステリとしてはこぢんまりしている。しかし一種の青春モノ、それも「反戦」でもなく「戦争賛美」でもなく、当時の少年(作者の自伝的側面もある)の体温の低い青春モノといった作品として大変面白く読めた。


【10】『犬の記憶』森山大道

 風景や、道端の物や人をパシャパシャ撮って回る「スナップショット」カメラマン日本代表、森山大道のエッセイ集。
 幼年期や若き日々の記憶にまとわりつかれながら、ここではないどこかへと絶えず放浪する男、森山。
 俺は誰なのか。俺はどこから来て、どこへ行くのか? そんなことは何もわからない、あるのは記憶と、写真と、自分自身だけ。記憶を文章に綴り、現在を写真に収める。それが自分自身がいまここに在る証明であるかのように。
 硬めで難しめな文章で綴られるひとりの男の半生と放浪。先行きのわからない現代だからこそ、強く強く訴えかけてくるものがある。



【11】『怪異猟奇ミステリー全史』風間賢二

 エドガー・アラン・ポーから「新本格ミステリ」まで。ゴシックから論理への耽溺まで。怪奇から新時代の本格推理まで。
 今まで頭の中で点と点、バラバラに散らばっていた知識が、「怪異」「猟奇」「ミステリ」の歴史という長~い棒でズブズブと串刺しにされて一本になっていく一冊だった。
 その気持ちよさたるや筆舌に尽くしがたく、読んでいて「アーッ」「なるほど~ッ」「アーッ」「アーッ」と何度も脳内で叫んだ。実際に叫んだ可能性もある。それくらいイイ本だった。


【12】『赫獣(かくじゅう)』岸川真

 1984年、港と山に挟まれた長崎の山奥に、真っ赤な毛に覆われた謎の怪物が現れて、住民惨殺! 恐怖! 戦慄!
 著者はいま文学方面へと舵を切っているようだけど、この真っ赤な怪物パニックスリラーは出色の出来で、ウオオオオーッとなって一気に読んでしまった。
 文学をやるくらいの人なので文章力は確かであり、ここに(よい意味での)B級映画的、典型的なキャラクターたちが乗っかると文学パワーと娯楽パワーが掛け算になってスーパー面白くなるわけである。
 これ、文庫になってないんですよね。文庫になったら本屋さんが『羆嵐』(新潮)、『海の底』(KADOKAWA)、『滅びの笛』(徳間)とかと並べて、「怪物! ヒグマ! ザリガニ! ネズミ! わくわく動物パニックフェア」つって売り出しやすいと思うんです。どうですか?

【13】『Ank:a mirroring ape』佐藤究

 わくわく動物パニック……俺もいるぜ! とばかりに参戦するのは『テスカポリトカ』で直木賞をゲットした佐藤究。これはそのひとつ前の長編。
 舞台はちょっぴり未来の日本。アフリカで保護されたチンパンジーが、京都にある霊長類研究所に運ばれてくる。ここでは知能の高いチンパンジーの学習と研究が進められているのだ。
 職員が瞠目するほどの知能の高さを見せつける保護チンパンジー「アンク」。 
 で、いろいろあって京都で無数の人間の気が狂い、35000人くらいが死ぬ。動画で拡散した奴が大勢いたので国内や海外でも大量の人間がおかしくなり、ウン万人が死ぬ。そういう壮大な小説。ちなみに原因は、ウイルス、細菌、病気、化学兵器などではない。
 元は群像新人賞で文学畑からデビューした著者。仕切り直して娯楽小説へと向かい、江戸川乱歩賞をゲット。その次が本作。ちなみにこれ、大藪春彦賞と吉川英治文学賞をもらっている。で、『テスカポリトカ』は直木賞(&山本周五郎賞)。出版した本すべてで賞を獲っている男……
 文学やってた人なので文章は折り紙つきだし、何より中身が濃くて面白いったらない。キャラとして便利すぎるパルクール少年が突如として湧いてくる点に目をつぶれば、今年いちばん面白かった小説であった。


 

【14】『奇想版 精神医学事典』春日武彦

 真面目な精神科医にして、あまり趣味のよろしくない文章や対談本(相手はマブダチの作家・平山夢明。中身は推して知るべし)も出している怪人による精神医学事典。
 もちろん春日武彦なので普通の事典ではないし、普通の医学書ではない。項目は、「俺が連想した順」で並んでいる! 要するに「俺の脳内連想事典」なのだ!
 精神科医なのでそちら方面の単語が圧倒的に多いが、なんせ「俺の脳内連想」なので変わったモノがポコポコと連なっていく。たとえば、
……引きこもり → 結界 → 40トン(※奇行を繰り返していた中年女性が1日に使っていた水道量) → 背負い水 → 水中毒 → 水難の相 → タイタニック号 → オリンピック号 → 替え玉 → 替え玉妄想……
 こんな具合。精神医学や心の病だけでなく、著者が強い興味を持つ「チープでキッチュなもの、俗悪なもの」「オカルト、へんな事件」「人間のチャチさを感じさせるもの」「怪人物」「文学やミステリ」なども入り乱れる。
 そんなわけで、今まで色んな本を出してきた春日武彦の「脳内全集」、というか「ベスト盤」「エッセンシャル」といった趣のある一冊なのであった。
 なお一項目が長くて3ページなので大変読みやすく、巻末には「あいうえお」順の索引もある。しかし項目数は200超。文庫で600ページ。完成までに約10年を要している。す、すごい。This is 奇書。


 以上です。

 今年(2023年)は正月休みに金庸の中国武侠小説『秘曲 笑傲江湖』(全七巻)というムチャクチャな本を読んでしまったので、あとはだいたい消化試合となります。

 主人公がしれっと変わったり、謎のツボ押し怪人六兄弟や巨体破戒僧が無から出現したり、キャラ立ちしまくりの怪人がポコポコ出てきて去ったり、人がいきなり死んだり、死にそうな奴が最後まで生きてたりします。
 寄り道が多く、なんだかよくわからない。なんだかよくわからないが、読んでいくうちに中国の長江とか揚子江とか、ああいうデカい川の流れを岸で眺めているような、おおらかな気持ちになっていく本です。



【おわり】

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