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えほんのくにのしあわせな人たち#1

1)『絵本を読めば、幸せで良い人になれる』という仮説

大人対象の絵本の活動を長年やってきて、よみきかせイベントに来た方の多くが、笑顔になって帰っていくし、「ドンハマ★さん、なぜこの会には、良い人ばっかり来るんですか~?」と真顔で訊かれたことが何度もあります。

思うんですよね。確かに見るからに悪そうな人はいないけど、でも良い人ばかりの集まりだなんていうのもちょっと気持ち悪いかもって。主宰者のボクだって、今はニコニコ笑っているけど、他人をうらやんだり、ねたんだり、妄想をふくらませることだってありますよ~って。つまり人の心には、大抵、天使と悪魔が同居しています。

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ならば、絵本の会に来た人がなぜ「良い人ばかり」に見えてくるのかをまじめに考えてみて、行き着いた答えは、絵本に触れることで、その人の《天使部分》が刺激を受けて、《良い人物質》をどんどん分泌していくのだろうということです。特に、絵本の主人公が幸せな状態で、読み手がその主人公に親しみを感じたとすれば、幸せ気分も読み手に伝播して、天使を刺激するのだと思います。結果、《幸せ気分》⇒《天使を刺激》⇒《良い人物質が分泌》⇒《良い人になってますます幸せ》の好循環が生まれるのではないでしょうか?

そこで、ざっくりではありますが、『絵本を読めば、幸せで良い人になれる』という仮説を立てて、特にその効果が上がりそうな絵本の主人公を《えほんのくにのしあわせな人たち》と題して、ご紹介したいと思います。

2)幸せな主人公をいかなる条件でフィーチャーするか?

そもそも、幸せな主人公って、どういう人たちなのでしょうか?財や名誉を築いた成功者でしょうか?逆境から立ち上がった主人公でしょうか?それともみんなから称賛されるヒーローでしょうか?

一般的に、お金といった物質的なものや出世など、他者との比較によってもたらされる幸福感は長続きしないと言われています。そこで、幸福学の第一人者と知られる前野隆司さん(慶應義塾大学大学院教授)は、人の内面に注目して、人に幸せをもたらす4つの因子を提唱されています。

《幸せの4因子》                          ①『やってみよう』因子・・・夢や目標をもち、チャレンジし続ける    ②『ありがとう』因子・・・人とのつながりを大切に、感謝や利他心を持つ ③『なんとかなる』因子・・・楽観的に前向きに物事をとらえる      ④『ありのままに』因子・・・他人と比較せずに、自分らしさを大切にする

この「幸せの4因子」理論は、人に幸福をもたらす状況をアカデミックにとらえながらも、生活実感も伴うので、難しさよりもわかりやすいという印象があります。そこで、この4つの因子を強く持つ主人公を『えほんのくにのしあわせな人たち』と考えて、私なりにピックアップしてみたいと思います。

3)ルラルさんは、『なんとかなる因子』のチャンピオン

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「ルラルさんのだいくしごと」いとうひろし作(ポプラ社)

この作品は、ルラルさんシリーズの8作目にあたります。1作目である「ルラルさんのにわ」は約30年前に刊行。その後、長年愛され続づけてきたルラルさんですが、この「だいくしごと」では、雨漏りの修理のために屋根に登ったルラルさんに思わぬトラブルが発生します。立てかけていたはしごがいつの間にか、地面に倒れてしまったのです。

そこで、ルラルさんは、仲間である動物たちに、取ってきてほしいと頼みます。動物たちは、言う通りに、はしごを取りに行ったのですが、そこでなぜかあることを思いつき、はしごを持ってまったく別の場所に行ってしまったのです。結果、ルラルさんは、下に降りることができなくなってしまいました。さて、みなさんならこんなときどうしますか?

わたしなら、あわてて「おーいみんなそっちじゃない、こっちこっち」と呼び戻そうとすると思うのです。しかし、ルラルさんは違いました。その後の予定がいろいろあったらしいのですが、しかたないと屋根にごろんと寝転んで、空をながめ出したのです。それもずーっと、ずーっと。空の色があかね色に染まるまで。

そのうち、動物たちもはしごを持って戻ってきて、ルラルさんは屋根から無事降りることができました。しかしとがめることもなく、何事もなかったかのように平和な時間が流れていくのです。

ルラルさんのこの立ち居振る舞い。じたばた慌てず、目の前で起きた事象を受け入れて、共に生きていくという包容力。まさに『なんとかなる因子』のチャンピオンと言って良いのではないかと思います。もちろん、他の3つの因子の要素も至るところで感じます。ルラルさんを読めば、幸せな気持ちになれるのも、合点が行きます。

4)注目すべし!成長するルラルさん

作者いとうひろしさんによると、ルラルさんの設定イメージは「町役場か市役所の出納係を早期退職して、今は悠々自適な暮らしをしている50歳くらいの人」らしく、1作目「ルラルさんのにわ」のときは、想定外の現実に対して、受け入れがたいという反応を示すような場面もあったのですが、2作目以降、だんだん表情もやさしくなるように見受けられます。この変化の様子は、ルラルさん自身の人格的成長とも考えられ、成人発達理論の観点から見ても興味深いのではないと思います。

シリーズ最新作は2020年12月に刊行した「ルラルさんのつりざお」ですが、「死」や「遺されたものへのメッセージ」という深淵なテーマも取り扱われています。死といっても、ルラルさんがそうなるわけではないので、その点はご心配なく。作者のいとうひろしさんとは一度だけお目に掛かったことがありますが、外見の穏やかなイメージに比して、内面にいろんな熱い想いをグラグラ沸かしている作家さんだと感じました。シリーズの今後をますます楽しみしております。

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2017/11作者いとうひろしさんとドンハマ★記念撮影@ブックハウスカフェ





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