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ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』【読書記録#3】

通勤中に涙したどめすです。

読んだことがなかった名著『アルジャーノンに花束を』を読み終えた。
世界観にまんまと引き込まれ、ページをめくる手が止まらなかった。通勤中でなければ1日中読んでいたかもしれない作品。

タイトルは聞いたことがあったが、どんな話かまったく知らなかった。投稿主がよく聞くバンドのヨルシカが「アルジャーノン」という曲を出していたのも後押しとなり購入。

本作品は32歳でありながら、6歳程度の知能指数であるチャーリィ・ゴードンという男性が主人公となっている。養護学校に通う彼だが、大学の研究施設で「知能を上げる手術」を受けることとなる。チャーリィより先に白ねずみのアルジャーノンが同じ手術を受け成功しているため、その手術を受ける最初の人間として彼が選ばれた。その手術を受けた彼が、知能を上げていく過程とそこから感じ取ったことが中心に描写されている。

一言で説明すると上述のような内容になるのだが、読んでみると1人の人生を圧縮されたような展開となっていて、非常に読み応えがある作品。

作品の進め方が「経過報告」という形で手記のように残されていて、状況説明などすべてチャーリィ・ゴードンの言葉で描かれている。貫徹してこの表現方法なのだが、チャーリィが手術を受ける前後で文章の質が変わってくる。作品の中で知能が上がる過程までもが記されているのだ。この表現方法には非常に驚かされた。

最初は誤字が非常に多い。文章の作り方も稚拙で、思いついたことをどんどんつなげているのだが、手術を受けた後は徐々に理路整然と文章が構築されていく。経過報告で残されている会話の内容からも知能の向上が感じられ、ここまで見るとチャーリィにとって順風満帆かと思われたが、そうはいかない。

知能が上がり、知識が増え、今まで理解できなかったことが理解できるようになり、チャーリィが周囲の人間に抱く印象も変わってくる。自分の知能が低いことで笑いものにされていたことを知る。そこからチャーリィの人格から暖かさが薄れていったように感じられる。そんなチャーリィから離れていく人も増えてしまう。知能が上がることでもっと友人が増えると思っていたのに、逆に孤独になる結果となった。

後にチャーリィは自分が受けた手術の問題点を論文として発表し、その身に起こる変化を経過報告に残すようになる。その最後には元のチャーリィ・ゴードンに戻るのだが、そこからまた友人に囲まれるようになる。

手術前のチャーリィは文章にも内面の暖かさがにじみ出ており、非常に好感が持てる人間だった。しかし知能が向上するにつれ、己の不遇さについて思うところが露見するようになり、非常に攻撃的になってしまう。
他人に優しく接することができる人には、自然と応援してくれる人が集まってくる。当たり前のようなことだけれど、実践するのは難しい。チャーリィのように無意識的にできることなのだろうか。

本作品を読んでから、ヨルシカ「アルジャーノン」のMVを初めて観た。本作品の世界観が落とし込まれた、引き込まれるMVだった。チャーリィの人生の一部が表現されていて、一見の価値がある。こちらもぜひ。


能力があれば幸せとは限らない。難しいね。


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