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読書熊録

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素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています
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2022年7月の記事一覧

2022年上半期に読んで胸に残った本10選

2022年上半期に読んで胸に残った本10選

2022年上半期も、たくさんの素敵な本に出会いました。その中から特に胸に残ったおすすめの10冊をピックアップしご紹介します。小説4点、ノンフィクション6点。長引くコロナ下の日常を捉え直す作品や、スケールの大きな超大作、視点を劇的に変える科学モノなど、いずれも世界の窓を少し開いてくれ、新しい風を心に吹き込んでくれる本たちです。

①「地図と拳」「ゲームの王国」で日本SF大賞を受賞した小川哲さんの最新

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幻想を剥ぐ視点ーミニ読書感想「憑依と抵抗」(島村一平さん)

幻想を剥ぐ視点ーミニ読書感想「憑依と抵抗」(島村一平さん)

文化人類学者、島村一平さんの「憑依と抵抗」(晶文社)が面白かった。現代モンゴルの宗教や、社会主義と民主化、経済開発と格差拡大の実相を活写する。ユニークなのは、「モンゴルといえば」を想像すれば浮かんでくる遊牧民ではなく、首都ウランバートルや辺境にスポットを当てること。私たちが抱く雄大で牧歌的なモンゴルの幻想を剥ぐ、鋭い視点を持ったノンフィクションだった。

タイトルからして秀逸。「憑依」は霊に身をま

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SF小説の未来を切り開く超新星たちーミニ読書感想「新しい世界を生きるための14のSF」(伴名練さん編)

SF小説の未来を切り開く超新星たちーミニ読書感想「新しい世界を生きるための14のSF」(伴名練さん編)

自身もSF小説家の新鋭である伴名練さんが編者を務めた「新しい世界を生きるための14のSF」(ハヤカワ文庫)が圧倒的に面白かった。ハズレなし。それぞれのカラーが鮮明。ここに登場するのは、来るべきSF小説の新世紀を切り開く超新星たちだ。

伴名練さんは本書を「今あなたが目にしているのは、未来から来たアンソロジーである」(7ページ)との文章から始める。偽りない。掲載されているのはSF作家として新鋭であり

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ウクライナ情勢を理解するために5〜6月に読んだ3冊

ウクライナ情勢を理解するために5〜6月に読んだ3冊

3月からずっと続けている。ロシアのウクライナ侵攻は収束する気配が見えない。ウクライナは少しずつ厳しい戦局に追いやられているようにも感じる。自分は何も手助けできていないのではないか?との思いにもかられる。しかし、せめて、思いを馳せ続けたいと考え、読み続けている。ペースは少し落ちているが、これからも読み続けたい。

①「13歳からの地政学」
ロシアによる侵攻は明らかに地政学的理由がある。地政学を平易に

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加害の歴史に接続する物語ーミニ読書感想「地図と拳」(小川哲さん)

加害の歴史に接続する物語ーミニ読書感想「地図と拳」(小川哲さん)

小川哲さんの最新小説「地図と拳」(集英社)を読み終えた。傑作だった。いや、大傑作だった。2022年は「地図と拳」が出版された年として記憶されるのではないか。満州を舞台に、日露戦争前夜の1899年から第二次対戦後の1955年までの半世紀を描く長編。「次の大戦」の不穏な足音が聞こえる2022年に、本書は生まれるべくして生まれた。

本書は小説を超えて、叙事詩だ。数々の登場人物が現れるが、その誰もがはっ

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