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「烏兎怱怱」の例文

知らない言葉や知っていても自分からは出てこない言葉に遭遇したときに忘れないよう書き留めているのだがいっこうに身につかない。これは覚えようという言葉を見つけてメモを開くと既に書いてあったりする。覚えるためには使わなければならない。「烏兎怱怱(うとそうそう)」を覚えるために使ってみる。

「顔もあらたに七日渡って、うしろ三百五十八」から始まる唄をご存じでしょうか。年が明けて一週間が過ぎると、私は毎年この唄を思い出します。幼い頃に祖母の背中で聴いた子守唄なのですが、知っている人に出会ったことがありません。歌詞はこうです。

 顔もあらたに七日渡って うしろ三百五十八
 烏に追われて七十五日 兎を追って四十八日
 穴掘り九日 水飲み十日 桃踏み百と八十五日
 目玉の数は二つと二つ 尻の穴には蓋三つ
 かって烏は十四の目玉 かまけて兎は九つ跳ねる

 一年をうたった唄なのだと祖母は言っていました。新年が始まって7日経つと、残りは358日。そこから75、48、9、10、185……と順に数を引いていくと、一年が終わる。それまでに眠らないと、烏兎怱怱であっという間に年をとってしまうということらしいです。
 とはいえ、合計が365であること以外に数字に意味を見出だせませんし、そもそも歌詞をどう解釈すればいいのか全く分かりません。なぜ烏に追われて兎を追っているのか、なんのために穴を掘るのか、なぜ桃を踏むのか、登場人物は何人なのか、尻の蓋ってなんなのか。全体的にどこか不気味です。「目玉」が2回登場するのも気持ち悪い。しかし何より不可解なのは、祖母の言う通り引き算してみても計算が合わないということです。

 365-7-75-48-9-10-185-2-2-3-14-9=1

 1余るのです。それを知ったのは8歳のときで、幸い、もう子守歌で寝かしつけられるような年齢ではありませんでしたが、もしももっと幼い頃にこの「余り1」を発見していたら、気になって眠れなかったことでしょう。
 この唄がどの地域に伝わるものなのか、あるいは我が家にのみ伝わる唄なのか、はたまた祖母の創作なのか、未だにわかりません。祖母曰く、唄には続きがあるそうです。ただし、知っていても唄ってはいけないらしく、とうとう私は教えてもらえませんでした。

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