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こうして私は80日間【犬のインド】を撮った④

Photo&text=Akira Hori All rights reserved

長逗留となったコバーラム(Kovalam)を後にした私は、野生のゾウがいることで知られているペリヤール野生動物保護区での撮影を終えるとコモリン岬をめざした。

コモリン岬はアラビア海、インド洋、ベンガル湾の3つの海が合流するするインドの最南端にある。そこは太陽が海から昇り海に沈むという希有な場所だ。

こう聞いてスルーするわけにはいかない。だいたい私は最果てが好きなのだ。

地図①】

コーチンからインド最南端のコモリン岬までは バックウォーターの小舟と鉄道を使って移動した。
ルート図は、 野生動物保護区への経由を省略している。

聖地の犬

コモリン岬にはヒンドゥー教の聖地カンニヤークマリがある。

あるガイドブックには、インド人でも“死ぬまでには行ってみたい”という人もいるとまで書かれている。

背後にあるのは、ヒンドゥーの著名な宗教改革者ヴィヴェーカーナンダの像(右)と小島にある記念堂(左)

ベンガル湾とアラビア海の波頭が行き交うこの場所で、人々は沐浴していた。
カンニヤークマリの沖合いには彫像と記念寺が建立された小さな島がある。

その場を離れて数十メートル歩いたところで犬を見かけた。犬はひとりで海辺を歩いている。

インドの中のフランス

コモリン岬からインド亜大陸を北東へ辿る。

マドゥライを抜けた後、どうしても立ち寄りたい街があった。鉄道を使えば約12時間、 噂によれば、そこはいわばインドの中のフランスだという。

地図②】

なるほど。1954年までフランスの植民地だったというポンディシェリ(地図 ②右上)には、フランス統治時代の面影がそこはかとなく残っていた。

インドの他の都市ではちょっと見られないような特徴的な並木道、マスタードのような色合いのヴィラが目に入る。

海の見える安ホテルに投宿する。 窓を開け放つとベンガル湾から吹き抜ける風がことのほか心地いい。

ホテルから数十メートル 歩くと時間が止まったような感覚をおぼえた。

ポンディシェリでの隠し撮り

微笑ましい光景だ。気がつくと、フェンスの隙間から消音でシャッターを切っていた。

世界遺産と犬


ポンディシェリから少し北上すると、世界遺産の遺跡群のあるマハーバリプラム (地図②右上)に着く。

海岸寺院があることで知られているマハーバリプラムは、実は絶好のサーフスポットだ。 昨年には、サーフィンの国際大会が開催されている。

スイカ売りの手前に犬がいた。 インドではあまり見かけない洋犬のような筋肉質の 犬だ。 精悍だが愛くるしい顔をしている。おそらくハウンド系の血が入っているんだろう。

ラッキーなことに、背景には世界遺産のレリーフが見える。
タージ・マハル然り、アーグラー 城然り。いつの間にか「世界遺産と犬」が撮影テーマの 1つ になったようだ。

後方は「アルジュナの苦行」と呼ばれる世界最大のレリーフ。修行者や動物たちの姿が彫刻 されている


マハーバリプラムからさらに北上する。

目と鼻の先には、チェンナイ(地図③左下)がある。
かつてはイギリスの東インド会社の拠点が置かれた南インド屈指の大都市だ。
以前はマドラスと通称されたが、現在のインドでは植民地時代の英国風の地名は廃れ、 本来の名称である「チェンナイ」が復活している。

地図③】

市内を散策してみると、教会の近くで犬が休息していた。

下の2枚の組写真の犬の姿勢に着目してほしい。遠景で 少しわかりにくいが、左の写真では、犬は座っている。ところが右の写真では、見事にでんぐり返っている。街の風景に溶け込むようにして犬がリラックスしていることを雄弁に物語っている。

チェンナイの市街地。同一場面を時間差で撮った


ただ歩いているだけで神様に出会える。

旅行サイトでは、そんなふうに囁かれることもあるプリー(地図③右上)は、インドの4大聖地の 1つだ

巨大寺院ジャガンナートはインドの一大叙事詩、ラーマーヤナにも記述されている。
眼を凝らして見ても、残念ながら犬は写っていない


プリーの郊外では、 牛が放牧されており、その近くを数頭の犬が走り回っていた。

失敗作だがロケーションがよくわかるのがこれしかないので、懲りずに貼っておく。一瞬の動きにねらいを定めたものの、距離がありすぎて慌ててしまったようだ。超望遠ズームではピント合わせが難しかった

思い切って寄ってみた。
至近距離でカメラを向けても、犬も牛も全く動じない。 そ知らぬ顔、どこ吹く風である。

超接近中! 度胸だめしなのか?

人類の文化の違いは犬の胃袋の中身を左右する

2000年代初頭のインドでは、純血種に出会うのは稀だったが、 近年は純血種を家庭に迎える人が増えているという。

プリーのビーチの近くで撮影した。 純潔のドーベルマンの子犬だ

そういえば、 インドのどこの都市だったか記憶が定かでないが、ドライカレー(だけ!)を黙々と食べているおとなのドーベルマンを見かけたことがある。 犬が頭を突っ込んでいた器は、半切りにしたスイカほどの大きさのボールだったボウルだった(笑)
人類の文化の違いは犬の胃袋の中身を左右するということだ(笑)

プリーの海岸線にも犬がいた。
青い空と溶け合うようにしてベンガル湾がどこまでも広がっている。

早朝ビーチに出てみると、漁師たちが一斉にビーチにしゃがみ込んでいる。
一体何をしているのしているのだろう? 

驚くべきことに、このヒトたちは、波打ち際を”水洗トイレ”にしてしまっているのだ。日本人の平均的な衛生観念からすれば、思わず眉をひそめたくなる奇習だろう。しかし彼らにとっては、 「合理的な」行いなのかもしれない。

犬たちは、漁師たちのこの奇習により恩恵に預かっているようだ。
波打ち際に残ったヒトの糞は、 辺りをうろつく犬たちの胃袋に収っていく。
見ていて決して気持ちのいいものではないが、太古の昔からパリア犬は、こうして飢えをしのいできたのだろう。

犬はヒトにとって”掃除人” の役割を果たしているという意味では、 ヒトも犬の悪食の恩恵に浴しているとも言える。

作業をする漁師たちに1頭の犬が寄り添っている

 巡り合い

プリーの海岸では、珍しい犬も見かけた。
下の写真
の筋肉質の子犬は、南インド原産のセントハウンド である Kombai(orその雑種)だと思われる。   Kombaiは、非常に知的だという評価がある。

実際、この海岸ではよく犬を見かけたが、 群れを作っていなかった。犬たちのほとんどはひとりで行動していた。

それにしてもベンガル湾に沈む太陽はどこまでも赤く美しい。

夕暮れ時。 静かにたたずむ犬


近くのコナーラクという小都市に世界遺産に登録されている太陽神をまつる寺院
があるという。プリーからバイクでわずか45分、ほんの少しの移動だ。
 
寺院の境内に歩を進めると、不意に犬が現れた。

コナーラクのスーリヤ寺院にて


ファインダー越しに見る犬は、まるで神の使いのようだ
本当にそう思えた。


※第①話から第④話 (最終話)までの全ての写真はリバーサルフイルムで撮影した。

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