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地域の一次産業の興し方 ~5つの壁を壊す、5つの場づくりの秘訣~【後編】

 「地方創生」が叫ばれ、地域の主軸産業たる一次産業・食産業にも関心が高まる中、水産業では三陸、農業では福島が、最も勢いのある(時に愛と敬意をこめて「変態」とも呼ばれる)生産者のコミュニティとして注目を集めています。
 【前編】では、そのような地域の一次産業のコミュニティが、新しい産業の形を生み出し、地域を活性化していく上でのポイントとなる、「5つの壁」(「地元の壁」、「バリューチェーンの壁」、「業の壁」、「官民の壁」、「地方と都市の壁」)を壊すことの重要性をまとめました。今回の【後編】では、そのような、5つの壁を壊していく勢いあるコミュニティを地域で生み出すための「場づくり」の5つの秘訣を公開します。

5つの場づくりの秘訣

 「5つの壁」を壊して、一次産業、地域を活性化していくためのコミュニティを創る上で大事にしてきたのが、熱量の高い「場づくり」です。震災後、東北の生産者と共に創ってきたこの場は、日本でも一番熱量が高い一次産業関連のコミュニティと自負してます。そのようなコミュニティを生み出す場づくりにおいて、ファシリテーターとして試行錯誤をしながら培ってきた5つの秘訣についてまとめます。

<1.生産者が主役の場>

  新しい一次産業を創るコミュニティには、前編で述べたように、あらゆる壁を超えて様々な人が関わることが必要ですが、まず大事にしてきたのは、あくまで地域の生産者が主役である、ということ。NPOがコーディネーターとして、企業がスポンサーとして、行政が助成金の提供を通して、支援をするということは必要不可欠ですが、ややもすると、NPOの「べき論」が先行してしまったり、支援企業の意向が押し付けられたり、行政の都合で縛りをかけたり、ということが起こりがちです。

 東の食の会では、生産者のためのマーケティングのブートキャンプ「三陸フィッシャーマンズ・キャンプ」「福島ファーマーズ・キャンプ」を行ってきていますが、ここで常々言ってきたのは、私がマーケティングについて話すことも、ゲスト講師が話すことも、すべて「前座」で、生産者が主役であり、自分の想いについて、食材について話すことがメインコンテンツである、ということです。そして、地域の産業としてのあるべき姿や、後述のビジョンづくりやアクションを決める時にも、もちろん私も仲間として意見を述べますが、生産者の想い・考えをまず中心に考えるということはぶらさずにやってきました。支援企業や行政と揉めることも多々ありますが、生産者中心、生産者が主役であることを貫いてきたことで、熱量の高いコミュニティができています。

<2.安心で自由な場>

 生産者中心の場を作る上で、心掛けているのは、安心して自由に発言でき、自分をさらけ出せる場にするということ。これは当たり前のことのようですが、地域社会の中ではとても難しく、特に一次産業という伝統的な産業の地元コミュニティでは、若手が自由に発言できるという環境はまずないと言っていいでしょう。慣性の法則と年功序列の中で、今までのやり方や構造を変えるような発言や行動は、疎まれるだけではなく、地元コミュニティから村八分となるリスクも大いにあります(実際、チャレンジをしたことでそのような目にあっている方も多くいます)。なんなら、単に地元をアピールしてメディアに露出して目立っただけでも叩かれたりします。
 この、地域社会、一次産業を覆っている「空気」(もっと言えば、日本社会全体を覆っている空気)を取っ払い、ここは何でも言ってよい、何を言っても叩かれない、自由に思っていることを発言し、やりたいことを行動に移せる場だということを示すために、いつも「タブーなし」宣言をします。
そして、ファシリテーターのこちらもしっかりと一人一人の参加者と向き合い、自らを曝け出す。みんなが安心して自分を曝け出し、フラットで、変なマウンティングのない場を創ることで、このコミュニティの「空気」は、地域社会、伝統的な一次産業を覆っている空気とは全く違う、とても心地よい自由なものになってます。


<3.前向きで楽しい場>

 自由な場を作ると、行政や既存流通に関する批判が出ることもありますが、誰かの批判をしているだけでは何も生まれません。そして、批判を中心とするコミュニティは、排他的になりがち。それよりも、前向きに、自分たちが何をすべきなのか、何をするのかを議論をすることを大事にしてきてます。
 東の食の会が行ってきたブートキャンプには、参加者要件はなく、農業・水産業に関わる方なら誰でもよく、年齢も問わないということにしていますが、唯一の条件として「前向きであること」をお願いしています。震災後の東北では一次産業に関わる方々からすれば、いくらでも不満や批判を言って然るべき状況でしたが、東北の生産者のリーダー達は、それでも前を向き、自分たちの想い、東北の自然や文化の素晴らしさ、食材の美味しさを発信し続け、日本で最もポジティブなコミュニティを創ってきました。
 また、コミュニティが続く大きな理由の一つは、単純に「楽しい」ということ。どんなに建設的な場でも、眉をひそめて真剣に議論し続けているだけではなかなか続きません。ブートキャンプは、行政の支援も得て開催させていただいており、スーツ姿の役所の方々に囲まれることが多いですが、役所の方々もネクタイを外してスーツを脱いで一緒に馬鹿話をするような場、生産者にとって「楽しい」場とすることを貫いてきました。私自身、東京にいる時よりも東北にいるときの方が間違いなく楽しい時間を過ごしていますし、エネルギーをもらいます。面白いことを言ってやろう、やってやろう、というのはマーケティングの本質でもあると思います。そんな楽しい場は続くに決まっていますし、顧客から見ても魅力的であり、それが産業としても成功することにつながります。

<4.ビジョンを共有する場>

 自由で前向きな場のエネルギーを、共通の方向に向けて産業として発展させていくためには、コミュニティの中でビジョンを共有することが必要。これは地域の一次産業だけでなく、あらゆるコミュニティ・組織に必要なことですが、ビジョンを共有することで、勢い、「うねり」が生まれてきます。
 三陸のフィッシャーマンたちとは、「新しい水産業」、「顔の見える水産業」、「食卓に一番近い海」といったビジョンをみなで議論し、共有していました。
 「福島ファーマーズ・キャンプ」立上げの際には、福島の農業界の若手リーダーのみんなと議論をして、福島の次世代の農業リーダーを200名生み出すということを掲げました。
 また、震災後5年というタイミングには、次第に被災の状況も落ち着いてきて「復興」という言葉だけではどこに向かうべきかわからなくなっていく段階で、多くの生産者と、東北の食産業としてどこを目指すべきかというビジョンづくりの作業を行い、「東北を食のブランドが最も多く生まれてくる地域にする」「東北の食から世界に通じるブランドを生み出す」というビジョンを掲げました。
 企業のクレドなどのようなかっちりとしたものまで行かなくても、ビジョンを共有することで、目に見えない共通の「匂い」や「共通意思」みたいなものが生まれていく感覚を持ってます。そして、それが様々な連携を生み出し、地域の産業全体の発展につながっていきます。

<5.アクションに移す場>

 未来、方向感を共有することは大事ですが、最も大事なのは、その上でアクションをすること。さまざまな「セミナー」や「協議会」で議論ばかりしていても、一ミリも世の中は変わりません。アイディアをすぐに実行に移す。そういう「アクション・プラットフォーム」となることを、東の食の会は設立直後からずっと指向しています。
 震災直後に渋谷のストリートで三陸ワカメの量り売りをやったり、東京で鰹の解体ショーをやったり(結局解体できず)、ホテルのボールルームに船の舳先を持ち込んだり、フランスで福島のおにぎりを握ったり、と、東北の生産者達と一緒にやんちゃなことにどんどんチャレンジしてきました。
 ブートキャンプをやっていても、商品やマーケティングのアイディアを発表した後、次の回に、「実際に作ってみました」「やってみました」という話を聞くのが一番嬉しいし、そういう人はどんどん成長、成功していきます。いつも伝えているのは、さまざまな東北の生産者を見てきて、成功している人に共通していることとして確実に言えるのは、マーケティング戦略でも経験でも何でもなく、単に「アクション量が人並外れて多い」ということです。
 コミュニティが、理論よりも実践を、プランよりもアクションを重視し、ここで何かを議論したら本当にコトを起こす、という場を作ることが何より大事だと思っています。


 このように、生産者が主役となり、安心して自由に、前向きに楽しく議論し、そこから共通のビジョンが生まれ、アイディアが生まれ、それをすぐに実行に移していく。そうして生まれたコミュニティは、地域の前向きな生産者達の可能性を閉じ込めている「地元の壁」、「バリューチェーンの壁」、「業の壁」、「官民の壁」、「地方と都市の壁」の「5つの壁」を壊していき、地域の一次産業のポテンシャルを解放し、アップデートをして、活力ある地域経済を創っていくはずです。
 震災後に一緒に創ってきた東北の一次産業のコミュニティを通じて、東北のリーダー生産者達は、新しいコトに挑戦し、地域の顔となり、首都圏をはじめ域外に積極的に足を運び、食べる人と直接つながり、ビジネスとしても成功し、次世代の憧れとなり、担い手を生み出しています。

 私たち、「東の食の会」としては、そのような地域が一つでも多く増えることに全力でコミットしたいと考えており、「ファーマーズ・キャンプ」「フィッシャーマンズ・キャンプ」を自分の地域で開催したい、という方がいましたら、是非、東の食の会事務局(info@higashi-no-shoku-no-kai.jp)までご連絡ください。

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