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この和訳センス良いな…お気に入り外国映画の邦題ベスト10

「この映画、なんでこの邦題にしたんだ?」

映画好きと集まって話していると、そんな会話になることが多い。そうなると決まって話題に上がるのが、リチャード・ギア主演の『愛と青春の旅だち』(原題:An Officer and a Gentleman)と、アルフォンソ・キュアロン監督の『ゼロ・グラビティ』(原題:Gravity)の2本。

前者は「原題の影も形もないやん!」、後者は「ゼロ、いる?」という評価を耳にすることが多いですが、良し悪しはさておき、日本国内での公開に際して、たくさんの人に興味を持ってもらうために、真剣に考えて付けられた邦題なのは間違いありません。

ということで今回は、素敵な邦題を付けてくれた宣伝のみなさんに敬意を表し、日本語になったことで味のある良いタイトルになったなぁ…と思う外国映画の邦題を、独断と偏見で10個ピックアップしてみました。

外国映画の邦題ベスト10

※五十音順

『あの頃ペニーレインと』

原題「Almost Famous」
直訳すると”ほぼ有名”、転じて”ブレイク直前”という意味になります。主人公がブレイク間近のバンドツアーに同行することから、このタイトルなんだと推測できますが、主人公が恋する女の子の名前”ペニーレイン”をタイトルに登場させたのが良い仕事だと思います。

恋愛要素もありそうな雰囲気になり、そして”ペニーレイン”と言えばリヴァプールにある通りの名前で、ビートルズの楽曲タイトルにもなっており、「音楽」と縁深い事で有名です。タイトルにこの名が入り、音楽的要素もある映画なのだという事が推測できるような設計になっています。

『行き止まりの世界に生まれて』

原題「Minding the Gap」
大の映画好きとして知られ、毎年発表される今年のお気に入り10本が、世の映画好き達にも注目されるオバマ元アメリカ大統領。今作はオバマさんの2018年お気に入りの1本に入ったことで私も知りました。

小さな町でスケボーに熱中する3人の少年の生活を通して、親子、男女、貧困、人種といった様々なアメリカの問題を浮かび上がらせるドキュメンタリー。原題は”足元に段差があるから気をつけて!”と言うときの慣用句で、ここでは格差社会である事と、スケボーにおける注意喚起のダブルミーニングになっています。

英語の慣用句の意味を日本語に直訳するのは厳しいところに、この邦題。映画を実際に鑑賞すると、なかなかにこのタイトルが刺さります。

『彼は秘密の女ともだち』

原題「Une nouvelle amie」意味は「新しい友達」
英題「The new girlfriend」意味は「新しい女友達」

原題のフランス語ではただの”友達”が、英題では”女友達”に。さらに邦題になると、”女友達”に”彼”という主語が付くことで、性自認に関するテーマが映画にはあるんだろう、ということが想像できます。上手いですよね。

フランスは性に関するダイバーシティの考え方が進んでおり、日本は改善されつつあるも、残念ながら遅れているのが現状です。仏→米→日と、性問題に明るくない国のタイトルほど、「性別」に関するワードがタイトルに多く出てきているというのは興味深い現象です。

『地獄の黙示録』

原題「Apocalypse Now」
”Apocalypse”が黙示録で、”Now”が後ろについている事から「黙示録:現代版」みたいなニュアンスだと思うので、辞書のタイトルのような堅い印象を受けます。邦題では、黙示録の修飾語が”地獄の”になり、黙示録の前へ。字面も音の響きも良いですよね。

アポカリプスと言えば、一般的には”ヨハネ黙示録”を指すキリスト教関連の単語ですが、それに対して「地獄」というものは、実は多くの宗教がその概念を持っており、公開当時にそこまで考慮されていたかはわかりませんが、この単語の組み合わせについては話を掘り下げたらアビスくらい深くまで行きそうです。今日はこのくらいにしておきます。

『死霊のはらわた』

原題は「EVIL DEAD」
直訳すると"邪悪な死者"、特に理由なく好きなタイトル。

”はらわた”なんて単語、『死霊のはらわた』以外であんまり聞かないですよね。はらわたには一応漢字があり、「腸」がそれにあたります。仮にタイトルが漢字だったとしたら「ちょう」と呼んでしまう人が多かったでしょうし、「はらわた」は平仮名の方が”はらわた感”も出るので、やはりこのタイトルで大正解な気がします。

『塔の上のラプンツェル』

原題「Tangled」意味は"もつれた"。
ラプンツェルの髪を形容するタイトルだと思われます。ディズニーやピクサー映画の邦題は、原題から結構イメージを変えてる事がままあります。『リメンバー・ミー』は「Coco」だし、『アナと雪の女王』は「Frozen」です。

主人公の名前がタイトルに入っているのが分かりやすいですよね。小さいお子さんは「ラプンツェル観たい!」って言うと思うんですよ。海外のお子さんはどうなんでしょう、「"Tangled"観たい!」って言うのかな…?「”ラプンツェル”観たい!」って言いそうな気がするけど。そういった意味でもキャラ名がタイトル内にあるのは凄く良いことだと思います。

そして私にとっては「場所+キャラの名前」という形式は馴染み深く落ち着くんでしょう、『となりのトトロ』『崖の上のポニョ』とかが染みついてるんで。

『北北西に進路を取れ』

原題「North by Northwest」
「北北西」を英語で言うとNorth Westであり、聞き馴染みないかもしれませんが「北微西」という方角を指す際もNorth by Westと言います。「北西微北」はNorthWest by North、「北西微西」はNorthWest by West。つまり”North by NorthWest”という方位は現実には存在しないのです。これには諸説あって、掘り下げていきたい所なんですが、今回は邦題の話。

命令文形式になってるタイトルって珍しいですよね。ポスター映えするというか。この他に知ってるのは「明日に向って撃て!」くらい。”進路を取れ”が付いただけでなんだか”北北西”がカッコ良く聴こえる良いタイトルです。でも実は、劇中で北北西には1回も移動してません。

『遊星からの物体X』

原題「The Thing」
映画の内容を考えると、この原題も含みがあって良いタイトルだとは思いますが、個人的には完全に邦題に軍配が上がります。「遊星からの物体X」は実はリメイク作品(正確には同じ原作小説の2度目の映画化)なのですが、1作目のタイトルが「遊星よりの物体X」と言うので、この時点でこのカッチョ良いタイトルがほぼ出来上がっています。

そして”遊星”は、”惑星”と同じ意味の単語です。敢えて広く使われていない”遊星”が使用されている事も印象的ですが、明治期に東京大学閥が””惑星”を、京都大学閥が”遊星”をそれぞれ主張し、その後次第に”惑星”ユーザーが増えていった歴史を踏まえると、「遊星よりの物体X」が公開された1951年には、今よりも”遊星”という言い方がそこまで珍しくなかったのかもしれません。

いずれにせよ、現代では使われる事が少なくなってしまった”遊星”のおかげもあってオリジナリティな響きを持つタイトルとなっています。

『6才のボクが、大人になるまで。』

原題「Boyhood」
ご覧になったことのない方のために説明をすると、この映画は、とある家族とその周辺の人々を12年間も断続的に同じキャストで撮影し続け製作された奇跡的な作品です。最初かわいい少年だった主人公は、映画終盤には髭も生え、ピアスも開け、すっかり大人の風貌に。

なので”Boyhood=少年時代”という原題だと、なんとなくこの映画の前半部分しか指さないような…そんな印象を受けていしまいます。(これは日米の感覚の差もきっとある。)

その点、邦題は”大人になるまで”と明言していることに加え、それを言っているのが”6歳のボク”という形式をとっており、主人公による主観的な語り口調という珍しいタイトルになっています。”僕”を漢字ではなくカタカナ表記で”ボク”にしているあたりも”6才感”出ていて芸が細かいです。

『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』

原題「F9」
「ワイルド・スピード」はシリーズを通して邦題が良い事で有名です。各作品の原題は1作目の「The Fast and the Furious」(直訳:速さと激怒)をもじって、「Fast Five」や「Furious 7」などまだ辛うじて原形をとどめたタイトルになっていましたが、シリーズ9作目は省略されまくった果てに、ついにドシンプルな「F9」に。初見の人は”花の9人組”かと思いそう。

(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
このポスターは偶然にも9人だし。

ですが、そこはさすがの邦題。映画の内容に応じて、これまでも「SKY MISSION」や「スーパーコンボ」など、良いタイトルを付けてくれていましたが…『ジェットブレイク』。良いタイトルです。

日本語タイトルはアメリカ本国でも評価されているみたいですよ。

おわりに

意識して海外の映画を観ていると、タイトルが表示されたときに、邦題と結構違うんだなと思う事が、意外と多いです。今観ている映画、好きな映画、それぞれ元の言語ではどういう意味のタイトルなのかを知ると、発見が多いのでオススメです。

例えば、シルヴェスター・スタローンの『ランボー』5作目である『ランボー ラスト・ブラッド』(原題:Rambo: Last Blood)は、1作目の原題が「First Blood」であることを知っていて初めて、対になっているタイトルであることが分かります。

みなさんの好きな「邦題」は何でしょうか?ぜひ色んな映画の原題を調べて、その意味の違いを感じてみてください。

おまけ

逆パターン。

日本の映画が海外で公開されるとなると、現地の言葉でタイトルが付きますが、高畑勲監督の『おもひでぽろぽろ』英語タイトルがとても素敵なので、最後に紹介して終わります。ではまた次回!

「おもひでぽろぽろ」英語版スチブジャケット

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