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体系的でわかりやすい「100のツボ」はどうやって書かれたのか? ー 『図解 人材マネジメント入門』 『図解 組織開発入門』執筆の裏側ー

組織を成長させるための理論と実践を体系的にまとめた『図解 人材マネジメント入門』に続き、組織開発の全体像がわかる『図解 組織開発入門』が2022年2月に発売になりました。
学習する組織、ティール組織、ビジョナリーカンパニーからワイズカンパニー、心理学的経営、デリバリング・ハピネスまで、組織に血を通わせる1冊となっています。

今回、書籍の刊行にあたり、著者の坪谷邦生さんに、書籍執筆の裏側を伺いました。ベストセラーシリーズの裏側をお楽しみください。

はじめに

お疲れ様です。坪谷です。
私は研究者ではなく、実践者です。20年以上「人事」を専門領域としてきました。このnoteでは、『図解 人材マネジメント入門』と『図解 組織開発入門』という入門書を、なぜ書こうと思ったか、そしてどうやって書いてきたのかを、お話ししようと思います。

❶人事の「全体像」がわからない苦しみ

私はもともと100名規模のIT企業のエンジニアでした。25歳のとき、疲弊していた現場の状況を改善したいと管理部門へ異動し、人事担当者、人事マネジャーとしての実務を経験しました。

そのころの私は「人材マネジメント」や「組織開発」が何をさす言葉なのか、よくわかっていませんでした。人材開発や労務管理との違いが理解できず混乱していました。学ぼうと何冊も本を読んだのですが「専門的で難しすぎる」「1社の特殊な事例のみ説明している」本ばかりで、全体像を捉えることができなかったのです。

自分なりに現場を助けるための人事施策を考えていたのですが、うまく行かないことが続きました。「それが何の役に立つの?」「人事のひとりよがりだよね」「現場のことわかってない」「他社はもっとうまくやっているよ」と否定されても、私には自信を持って言い返す言葉がありませんでした。

知識不足に苦しんだ私は、武者修行をしようと決めました。32歳のときにリクルートマネジメントソリューションズ社へと転職し、人事コンサルタントとして、50社以上で人事制度を構築して、組織開発を支援しました。コンサルタントの師匠たちから学んだ知の豊かさ、そして数多くのクライアント企業を支援する中で身につけた俯瞰的な視野は、まさに私が望んでいたものでした。

そして、私は人事の実践経験を通じて学んできたことを、もっと広く世の中へ届けることはできないだろうか、と考えるようになりました。

❷人材マネジメントを体系化して「地図」にする

人事コンサルタントという職業には大きな価値があり、その経験から私は多くを学びました。しかし、私が本当にやりたいことではないかも知れない、と感じていたのです。

私がお役に立ちたいのは、(かつての私の会社のような)困っている中小企業。そして、どうやって学べば良いかわからず悩んでいる(かつての私のような)人事の初学者でした。

そこには2つの壁がありました。1つ目の壁は価格です。数百万から数千万円というコンサルフィーを、困っている中小企業は支払うことができません。2つ目の壁は私の時間です。コンサルとして同時に関われるクライアント数は通常3社、どんなに無理をしても7社以上は不可能です。

意志ある人事担当者が、力を発揮する手助けができれば、多くの中小企業が助かるのではないか、そう考えました。そして人事の初学者だった20年前の自分が本当に困っていたのは、人事の全体像が捉えられないことでした。

ーー人事の初学者が「体系的にわかりやすく」理解できる入門書をつくろう。そう決めました。

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人材マネジメントの体系『図解 人材マネジメント入門』より

「体系的」と言葉でいうのは簡単ですが、有機的で複雑な人材マネジメントの構造を捉え、シンプルに表現することはとても大変でした。人事領域のプロである仲間たちと勉強会を開催して、先人たちの知を学びながら、実践で使えるレベルまで磨きこみました。上の体系図を完成させるのに、結局4年間かかりました。

❸15社の出版社に、企画を断られた

届けるべき体系が見えたので、次はこの本を一緒につくってくれる出版社を探しました。出版経験のある友人のアドバイスにしたがって、企画書(下図)を作成し、いくつもの出版社に持ち込みをしました。

『図解 人材マネジメント入門』の企画書-1
『図解 人材マネジメント入門』の企画書-2

結果は、惨敗でした。
どの出版社からも「とても意義がある本だ」と言っていただけたのですが「でも売れないだろう」とお断りされてしまったのです。出版不況のいま、よっぽど売れると確信できる本しか企画会議を通せないのだ、と。

断られた数は15社。とても苦しかったのですが、『ハリー・ポッター』の作者J・K・ローリングさんも12社の出版社から断られていたと知り、あの世界的ベストセラーだってそうなのだから、自分は断られて当たり前だ! と動き続けました。

中には真剣に向き合ってアドバイスをくれる編集者さんも多く、持ち込みは企画を一緒に磨いていただけるありがたい機会になりました。たとえ、いま握手できないとしても「いい本を作りたい」という想いは同じだったのです。

わかったのは「実績」が必要だということです。人事という狭い領域の専門書は、著名な学者や有名企業の経営者などのネームバリューがなければ、出すことが難しいというのが多くの編集者の声でした。「『リクルート式 人材マネジメント』というタイトルなら出版できるかもしれませんよ」と提案してくれた方も(それは私が目指す本ではなかったためお断りしました)。

実績が必要なら、作ればいい。ブログ『人材マネジメントの壺』をスタートして1日1記事を100日間連続で掲載しました。その記事を再編集してKindle本『人材マネジメントの壺』、続けてそのプリントオンデマンド版を独力で刊行しました(シリーズ7冊)。ありがたいことに想像以上に購入いただき、計1,500部を販売することができました。

こうして動き続けた結果、無事にディスカヴァー・トゥエンティワンでの出版が決まりました。のちに聞いた話ですが、ディスカヴァー・トゥエンティワンの人事担当者の方が原稿を読んで「こういう本が必要だ」と言ってくれたことが、決め手だったそうです。

❹つまみぐいできる「100ツボ」構造

「体系的にわかりやすい」本を書くための体系ができあがり、出版してくれる出版社も見つかりました。次は「わかりやすい」を実現する書籍の構成を考えました。

持ち込みしているとき、ある編集者からもらったアドバイスが、大きなヒントになりました。それは「つまみぐい」です。教科書的な長い文章は、読者が「難しそう」と感じてしまう。パッと開いて「使えそう」だと感じる本が、現代の読者には求められているのだ、と教えてもらいました。

これは真理だと直観しました。しかしかなりの難題です。私が届けようとしているのは、有機的で複雑な人事の「体系」です。はたして「つまみぐい」できるようなシンプルな仕立てにできるのだろうか。悩みました。

完成したのは、100個のツボ(ポイント)を解説する構造です。パッと開いた見開き2ページで1つのツボ、ここだけで学びがある、そして10ツボを通して読むと1つの領域(Chapter)がわかり、100ツボをすべて読むと全体像を把握することができる。興味のあるところから読みはじめて、楽しんで読み進めていくうちに全体像が浮かびあがる、そんな仕立てによって「つまみぐい」と「体系的」な理解の両立を目指しました。

つまみぐい「100ツボ」構造

❺読者の反応から、さらに「組織開発」を深める

完成した『図解 人材マネジメント入門』は2020年5月に出版されました。おかげさまで現在3万部、専門書としては異例のヒットだと言われています。

たくさんの感想をいただき、講演や勉強会に参加する中で見えてきたことがあります。それは「組織開発」をさらに深める必要があるということです。

多くの読者は、今の日本企業の「組織」に限界を感じていました。「ビジョナリー・カンパニー」や「ティール組織」や「学習する組織」などに、そのヒントがあるのではないかと気づきながらも、なかなか理解できず苦労されていたのです。

人事制度だけでは組織はよくならない。研修だけでは人は育たない。・・・どうやら「組織開発」が重要らしい。そこまではわかるのです。しかし組織開発とは「どうやって」「どこに向かって」行えばよいのか、がわからないのです。

たしかに「組織開発」とは何なのか、書籍によって理解がバラバラだと私も感じていました。たとえばビジョナリー・カンパニーとティール組織は何が違うのか? どう関係しているのか? 説明してくれる地図を、私もまだ見たことがありませんでした。

ーー今度は組織開発を「体系的にわかりやすく」書いてみよう。そう決めました。

『図解 組織開発入門』の構造

前書『図解 人材マネジメント入門』は人事の「型(仕組み)」を理解するための入門書でしたが、今度は、組織に「血」を通わせるための本。密接に関連していますが、それぞれ独立して読める本にしました。

各章(Chapter)ごとにワーキンググループをつくり、その領域のプロである仲間たちと、対話と議論を繰り返して執筆を進めていきました。

また、ありがたいご縁が重なりました。組織開発の研究者である南山大学教授の中村和彦さん、ティール組織解説者の嘉村賢州さん、学習する組織の実践者である福谷彰鴻さん、デリバリング・ハピネス・ジャパンの島田由香さん、そして一橋大学名誉教授の野中郁次郎さん、など多くの見識者からアドバイスをいただいて論に磨きをかけ、完成させることができました。

1年間かかりました。

こうして生まれた組織開発の入門書『図解 組織開発入門』は、人事担当者、経営者、マネジャーといった組織を作る人だけでなく、組織で働くすべての人にお届けしたい本となりました。

おわりに

私は『図解 人材マネジメント入門』と『図解 組織開発入門』を、どこからどう学べば良いかわからず「それが何の役に立つの?」と否定されても言い返せない人事担当者だった昔の自分に、プレゼントするつもりで書きました。

人と組織の未来について、兆しや可能性を感じてくれたら、これほど嬉しいことはありません。あなたの、お役に立ちますように。

私のお伝えしたいことは、以上です。

2022年2月28日 株式会社壺中天 坪谷邦生


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