震災は大事、でもユーザーはそっとページを閉じる。だから伝えたいことは先に言わない #ずるい文章術 vol.2
こんにちは、奥山です。
ウェブメディアwithnewsの編集長を8年ほどやっていました。
スタートしたのは2014年。
なんで立ち上げたのかというと、新聞記事がデジタル空間で全然、読まれていなかったからです。
けっこうがんばって取材して、たくさんの人が関わって世に出しているのに、手応えがない。
ということは、発信の仕方が間違っているんじゃないか。
そう思い、まったく新しいアプローチを考えるため、withnewsという新しい場所が生まれました。
その中で気づいたことがあります。
「大事なことは先に言っちゃいけない」
これって、もしかしたら、ライター、広報、宣伝、PRを仕事にしている人のお役に立てるかもしれない発見なので、ちょっと書いてみることにします。
すごく大事だけどみんな読みたいわけではない
というのも、今どきのコーポレートサイトには、企業理念や、SDGsへの取り組みなんかがありますよね。
すっごく大事な情報なんですが、でも、みんなが読みたいと思ってくれるコンテンツかというと……悩ましい。
すくなくとも、スマホで気軽に読むには真面目すぎで重すぎです。
この悩み、新聞社の記事も同じです。
というか、より切実です。
ニュースって、すっごく大事なことだけど、みんなが読みたいかどうか微妙なものが多いからです。
例えば、東日本大震災。
2021年は節目の10年でした。
大事です。
だから、まず、こう書きます。
「東日本大震災から10年経った」
残念。これでは読んでもらえません。
震災10年を伝えたいなら、まず、震災と書いてはダメなんです。
読む側の立場になってみてください。
震災のこと、普段から気にしていますか?
いつも被災地のことを考えていますか?
違いますよね。
震災という文字が入った時点で、多くのユーザーは、大事なことだとわかりつつも無言でページを離れてしまいます。
たいていのニュースサイトにはアクセスランキングというコーナーがあり、今、読まれている記事のタイトルが並んでいます。
上位にいるのは、だいたい、その時、注目されているタレントの話題。そして、スポーツ。たまに、世間を騒がせた事件の続報です。
ニュースといっても、かたい政治の話は圏外です。ウクライナのようなものを除き国際問題がランクインすることはまずありません。
わざわざ難しい話なんて読まない
考えてみれば当たり前です。仕事や日々の生活で忙しい中、わざわざ、難しい話を読む余裕なんてないからです。
それでも、真面目なテーマを発信しなければいけない時があります。
震災という言葉を使わず、震災を伝える。
そのことを意識して、私が書いた記事があります。
気をつけたのは書き出しです。
記事は、「JR東日本が新幹線などの車内で流れる『文字ニュース』を終了すると発表しました」という文章から始まります。
でも、本当に伝えたいことは、「東日本大震災から10年」です。
しかし、10年という節目の年であっても、現実には記憶の風化が進み、東日本大震災を身近に感じられない状況でもありました。
大事なことだし、思い出してほしい、忘れないでほしい。
だから、「新幹線の文字ニュースの終了」からスタートさせました。
身近なネタから書き出すことで、ユーザーとつながるための足がかりを作ろうとしたのです。
実は私は、かつて仕事で「新幹線の文字ニュース」に関わっており、さらには震災当日、文字ニュースで死者・行方不明者の人数を更新し続けた担当者でした。
「文字ニュースの終了」から、自分の実体験につなげ、そして「東日本大震災から年の節目」という話に広げたのです。
伝えたいことを後回しにして、ユーザーが関心を持ちそうな要素を先にもってくる。
ユーザーも、東日本大震災のテーマが大事だとは思っています。
でも、大事であることと、読みたいことには大きな違いがあるのです。
震災のような、問答無用で大事なテーマの場合ほど、要注意です。
書き手の伝えたい気持ちが大きすぎて、読者が置いてきぼりになるからです。
「伝えたいことはあえて先に書かない」
これ、忘れないでください。
といったことを『スマホで「読まれる」「つながる」文章術』という一冊の本にまとめました。震災と同じくらい難しい「SDGs」の伝え方や、プレスリリースを読ませるコンテンツにしてしまう工夫など、具体的なケースを交えて紹介しています。
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