牛山素行

静岡大学防災総合センターで、豪雨災害を主な対象とした災害情報学を専門に研究しています。…

牛山素行

静岡大学防災総合センターで、豪雨災害を主な対象とした災害情報学を専門に研究しています。 https://researchmap.jp/read0193057

マガジン

  • 静岡新聞「時評」寄稿記事

    静岡新聞「時評」欄に著者(静岡大学防災総合センター・牛山素行)に2,3ヶ月に1回程度の間隔で,災害に関係して筆者が考えることなどを寄稿しています.これらの記事を,紙面掲載後にこちらに転載しています.記事は字数制限がありますので,いろいろと追記している場合もあります.

  • 災害関係のいろいろなトピックス

    災害、防災関係で書いたことで、災害事例や特定の話題にかかわらず横断的な内容の記事をまとめました。

  • 風水害の「避難」について

    洪水・土砂災害など、風水害時の「避難」に関係して書いた記事をとりまとめています。

  • 風水害犠牲者調査について

    筆者はここ十数年以上にわたり,風水害による犠牲者の発生状況の調査を続けています.その調査結果に関係する記事をまとめておきます.

  • 2023年の梅雨前線による豪雨災害調査メモ

    2023年6月から7月にかけての梅雨前線の活動による大雨に伴う災害について、静岡大学防災総合センターの牛山素行によるツイートなどもとに速報的にとりまとめたものです。

最近の記事

  • 固定された記事

令和6(2024)年能登半島地震 災害調査メモ

 2024年1月1日に発生した令和6(2024)年能登半島地震による災害に関連し、当方が記述したことやまとまった報道などを以下にとりまとめておきます。  なお、各記事の記述内容は、各記事の執筆時点で得られた情報をもとに記述したもので、その後得られた情報により数値や見解が大きく変わっている場合があります。この場合も全ての内容を都度修正してはいないことをあらかじめご了解下さい。

    • 能登半島地震 多様な現象が全て発生

      (2024年1月24日付静岡新聞「時評」欄への寄稿記事)  元日の北陸地方を襲った能登半島地震。23日時点では死者233人(うち災害関連死15人)、安否不明者19人と発表されている。なお災害関連死者とは、災害による負傷の悪化や避難生活などにおける身体的負担による疾病での死者であり、1995年の阪神・淡路大震災以降に一般化した概念である。それ以前の災害でも同様なケースはあったと考えられるが、災害の死者数としては記録されていない。従って、過去と近年の災害の人的被害規模を見比べる

      • 能登半島地震 土砂移動現象による建物倒壊等の発生箇所と土砂災害警戒区域

         能登半島地震にともなう土砂移動現象により多くの人的被害が生じた2箇所について、先に記事を書きました。  今回は、人的被害発生箇所に限らず、今回の地震起因の土砂移動現象により激しい家屋被害が生じた箇所を空中写真から判読してみました。 倒壊等建物の判読方法  判読対象は、住家や事務所など人が日常的に所在していると思われる建物です。空中写真から地震による土砂移動現象が見られる箇所にあり、今回の地震にともなう土砂移動現象により倒壊、流失、変形したとみられる建物を判読しました

        • 誤解多い『内水氾濫』 既知の現象 冷静に議論

          (2023年10月31日付静岡新聞「時評」欄への寄稿記事)  大雨に伴う現象の一つに「内水氾濫」がある。降った雨水が排水できなくなり、宅地や道路にあふれることを指す。河川の本流の水位が上昇し、支流の水が流れ込みにくくなって支流があふれることを指す場合もある。内水氾濫の対になる言葉が「外水氾濫」で、これは河川の堤防が決壊したり、堤防を越えて水があふれ出したりすることを指す。  内水氾濫は極めてありふれた現象である。外水氾濫以外はすべて内水氾濫であり、日常的に目にする「道路が

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        令和6(2024)年能登半島地震 災害調査メモ

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        • 静岡新聞「時評」寄稿記事
          25本
        • 災害関係のいろいろなトピックス
          18本
        • 風水害の「避難」について
          21本
        • 風水害犠牲者調査について
          16本
        • 2023年の梅雨前線による豪雨災害調査メモ
          8本
        • 2022年9月23~24日の静岡県内での豪雨災害調査メモ
          7本

        記事

          石川県による能登半島地震で亡くなられた方の氏名等公表に思うこと

          能登半島地震で亡くなられた方の氏名が公表へ  1月15日、石川県は「令和6年能登半島地震で亡くなられた方の御氏名等(第1報)」という資料を公表しました(あえてリンクはしません、冒頭画像は公表資料の一部)。この資料では、今回の能登半島地震で亡くなられた方23人について、氏名、市町名、性別、年齢、死因が挙げられています。「ご遺族の同意を得られた内容を記載しております」との注記があります。  災害時の安否不明者のお名前については、捜索活動に役立つことなどから積極的に公開する方

          石川県による能登半島地震で亡くなられた方の氏名等公表に思うこと

          住家がないところは土砂災害警戒区域にはならない

           能登半島地震では、地震に伴うがけ崩れなどによる土砂災害が各地で発生し、人的被害にもつながっていることが伝えられています。1月10日時点で比較的多くの報道が見られる土砂災害被災現場としては、穴水町由比ヶ丘付近(死者14人程度)と、珠洲市仁江町(死者9人)の2箇所があります。 珠洲市仁江町の土砂災害  珠洲市仁江町では斜面崩壊で家屋が被災し、ここにお住まいだった方と、正月で帰省していた家族11人が巻き込まれ、うち9人が亡くなったと報じられています。   下図は地理院地図

          住家がないところは土砂災害警戒区域にはならない

          能登半島地震 空中写真から判読した倒壊建物の建築時期(輪島市鳳至町)

          ※写真は国土地理院公開の輪島市街地付近(2024年1月5日撮影)の空中写真 地震による建物倒壊と建築時期  今回の能登半島地震では、地震の揺れによりかなり多くの建物倒壊が生じているようです。報道などの映像で見る範囲では、倒壊している建物は比較的古い建物が多いように思われました。阪神・淡路大震災では、建築基準法が大きく改定された1981年より前の建物で被害が多かったことはよく知られています。  2016年熊本地震の際も、1981年より前の木造建物では「倒壊」(単なる「全壊

          能登半島地震 空中写真から判読した倒壊建物の建築時期(輪島市鳳至町)

          能登半島地震 死者・行方不明者の数について

          能登半島地震の死者数・安否不明者数  1月6日午前の時点で、能登半島地震に伴う死者は98人、安否不明者は211人と報じられています。かなりの規模となってきてしまいました。本当に痛ましく思います。  安否不明者はごく最近(ここ数年)よく使われるようになった概念で、従来からある「行方不明者」とは若干意味が異なるのですが、近年は「行方不明者」が特に災害直後は明示的に発表されていないこともあり、大局的には類似する概念ですのでここではあえて区別せず用いることとします。 災害時に

          能登半島地震 死者・行方不明者の数について

          能登半島地震 死者・行方不明者の氏名公表について考える

           能登半島地震により亡くなられた方は、1月4日朝時点では73人と報じられています。すでに2016年熊本地震の直接死者50人を大きく上回り、戦後の地震災害による死者数としては1983年日本海中部地震の104人に次ぐ規模となってしまいました。大変心が痛みます。  今回の地震による死者・行方不明者については、1月3日夜に一部の安否不明者15人のお名前が公表され、4日朝までにうち10人の安否が確認されたと報じられています。  一方、亡くなられた方のお名前については4日朝時点で行政機

          能登半島地震 死者・行方不明者の氏名公表について考える

          令和6(2024)年能登半島地震 1/1~2のメモ

           2024年1月1日16時10分頃、石川県能登地方を震源とするM7.6の地震が発生し、気象庁は「令和6年能登半島地震」と命名しました。以下、経時的にポストした内容を一部加筆修正しメモとして記録しておきます。冒頭の図は気象庁「令和6年1月1日16時10分頃の石川県能登地方の地震について」(第一報)より。 発災直後 潮位計データを見つつ 輪島では引き波なしにいきなり押し波がきたように見える posted at 16:43:16 珠洲、輪島[地理院]の潮位計はデータが入電しな

          令和6(2024)年能登半島地震 1/1~2のメモ

          特別警報運用開始10年 具体的な危険性 例示を

          (2023年9月5日付静岡新聞「時評」欄への寄稿記事)  気象庁が発表する防災気象情報の一つに「特別警報」がある。通常の警報の発表基準をはるかに超える現象が予想され、重大な災害の起こるおそれが著しく高まっている場合に発表され、最大級の警戒を呼びかける情報である。8月30日に運用開始10年を迎えた。  昨年2月に気象庁が公表した全国の住民2000人を対象にした調査では、大雨特別警報を「見聞きしたことがない」との回答は9%で、古くからある大雨警報を「見聞きしたことがない」とい

          特別警報運用開始10年 具体的な危険性 例示を

          2023年8月静岡市葵区諸子沢の地すべりについて

          諸子沢の地すべりの概要  2023年8月21日頃、静岡市葵区諸子沢で比較的大規模な地すべりが発生したようです。今のところ人的被害や住家の被害は生じていません。8月25日に現地を少し見てきました。以下、災害情報的な視点からいくつかメモしておきます。  地すべりが集落を直接襲ったわけではないこともあり、いつ動き始め、いつ大きく動いたのかなどはよく分かりません。上記静岡市の資料によれば、8月21日に川の濁りがひどいと地元から市に通報があり、同22日に市により地すべりの発生が確

          2023年8月静岡市葵区諸子沢の地すべりについて

          風水害での安全確保 目標は避難不要の生活

          (2023年7月12日付静岡新聞「時評」欄への寄稿記事)  風水害に関し「どう避難すれば安全か」「安全な避難のタイミングは」といった問いを受けることがある。こうした問いには「どんな場合でもこうすれば確実に安全、といったうまい話はありません」と答えざるを得ない。  防災に関する啓発記事や番組、講演などでは、「こうすればいいですよ」という、分かりやすく簡単にできそうな「正解」を挙げることが好まれる。災害の厳しい「教訓」を聞いた後に、「でもこうすれば大丈夫ですよ」といった救いの

          風水害での安全確保 目標は避難不要の生活

          色別標高図をハザードマップ代わりに使ってはダメです

           上記記事中で、秋田市楢山大元町の豪雨災害現地踏査で地理院地図の「自分で作る色別標高図」機能を使って、同地区が周囲に比べてかなり低い場所(洪水に対して危険性が相対的に高い場所)であることに触れました(下図)。  ここで使った「自分で作る色別標高図」ですが、これを「危険な低い土地を探そう」といったの用途で使うのは絶対ダメだと考えます。水害に対して危険な「低い土地」は標高の絶対値で決まりません。たとえば先に作った楢山大元町と同じ凡例で範囲を広げるとこうなります。  「なるほど

          色別標高図をハザードマップ代わりに使ってはダメです

          2023年7月15日の大雨による被災地現地踏査

          秋田県五城目町大川西野田屋下  7月20日に現地踏査。車が洪水に流され、運転していた方が亡くなったと見られる現場付近。なお現場付近は地名がやや複雑に入り組んでいるところですが、ここでは車が発見された場所の地名を挙げています。  流された車は、この道路を通行していた可能性が考えられます。撮影箇所付近は浸水痕跡が不明瞭ですが、撮影位置の最も近い道路両側に街路樹があるあたりから浸水痕跡が見られ、ピーク時にはこのあたりから先は浸水していたものと思われます。写真中央付近では道路面か

          2023年7月15日の大雨による被災地現地踏査

          「避難情報の遅れ批判」に対して思うこと

           7月15日の秋田での大雨に関して、「避難情報が出るのが遅かった」といった趣旨の批判が散見されます。当方が思ったことをいろいろツイートしたので更に加筆してメモとしてまとめておきます。 仙北市で「緊急安全確保が出なかった」「伝達が遅れた」との件 7月16日付秋田魁新報が「仙北市の「緊急安全確保」 発令から40分以上市民に届かず」との見出しで伝えています。  「角館町西長野地区で入見内川が一時氾濫しながら緊急安全確保を出さなかった」とありますが、まず、同地区には避難判断水位

          「避難情報の遅れ批判」に対して思うこと