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能登半島地震 多様な現象が全て発生

(2024年1月24日付静岡新聞「時評」欄への寄稿記事)

 元日の北陸地方を襲った能登半島地震。23日時点では死者233人(うち災害関連死15人)、安否不明者19人と発表されている。なお災害関連死者とは、災害による負傷の悪化や避難生活などにおける身体的負担による疾病での死者であり、1995年の阪神・淡路大震災以降に一般化した概念である。それ以前の災害でも同様なケースはあったと考えられるが、災害の死者数としては記録されていない。従って、過去と近年の災害の人的被害規模を見比べる際には、直接死者の数で見るよう注意しなくてはならない。

 直接死者数で見ると今回の人的被害規模は93年の北海道南西沖地震(死者・行方不明者230人)に近く、戦後の地震災害としては2011年の東日本大震災(直接死者・行方不明者約1万8500人)、阪神・淡路大震災(同約5500人)、1948年の福井地震(死者3769人)、46年の昭和南海地震(死者・行方不明者1443人)に次ぐ規模となる可能性もある。実に痛ましいことが起きてしまった。

 今回の地震では、揺れによる建物倒壊、火災、津波、土砂災害など、地震に伴って起こりうるさまざまな現象が、いずれもかなりの規模で発生してしまったことが特徴の一つと感じている。

 東日本大震災では津波の被害は甚大だったが、揺れによる建物倒壊は目立たなかった。三陸の沿岸部などで津波による建物の流失・倒壊は無数に見られたが、津波到達直前に記録された映像、災害後の津波到達範囲外の映像や筆者の当時の記憶をたどっても、至る所で建物が倒壊し道が通れない所ばかりといった状況ではなかった。これは不幸中の幸いと見ることもできたが、こうした状況が伝えられることで地震の際にも普段通りの道をたどって津波からの避難ができるかのようなイメージが社会に定着すると困ると懸念もしていた。

 今回能登で津波の被害を受けた地区の映像を見ると、多くの建物が倒壊し道路も通行困難となった場所をさらに津波が襲っている状況がうかがえる。恐ろしいことだが、これがむしろ一般的な地震・津波災害の姿と言えよう。

 過去の災害に学ぶことは無論重要だ。しかし、特定の災害事例「だけ」に学ぶことは、十分起こりうる他の現象を見落とすことにつながりうる。広い視点から考えておくことの重要性を改めて認識している。

【note版追記】


 能登半島地震による災害についての現時点での筆者の雑感です。原稿を書いたのは掲載の10日ほど前ですが、現時点でも見方が大きく変わってはいません。冒頭写真は国土地理院が公開している空中写真から、津波と揺れで大きな被害を受けた珠洲市宝立町鵜飼付近の状況です。
 文中では直接死者と関連死者は分けてみる必要があることに言及していますが、「安否不明者」と「行方不明者」も異なることにも注意が必要です。
 現在でいう「安否不明者」という概念が用いられるようになったのはここ数年のことで、それ以前は「行方不明者」でした。現在は安否不明者と行方不明者がそれぞれ意味が異なるものとして行政的にも定義されていますが、数年前まではこのような定義は固まっていませんでした。
 以前の「行方不明者」は、何らかの形で(住民や関係機関からの通報など)「この人の行方がわからない」という情報が寄せられた人、というイメージであり、人数だけが発表される事もありました(昔はむしろ亡くなった方の名前の方が先に出ていました)。 一方現在の「安否不明者」は、「この人の行方がわからない」という情報が寄せられた人だけでなく、自治体が住民基本台帳等を参照し、「連絡がとれないと思われる人を探している」いる状況のようです。いわば「自治体が自治体内での調査では安否不明であることをしっかりと確認した人」とでも言えるかと思います。
 こうしたことから、「安否不明者」は数年前までの「行方不明者」より数が多くなりやすいと思うのですが、災害時はいろいろな混乱があり得ますので、一概には言えなさそうです。
 このあたりはどこかで明文化しなければと思っていますが、なかなかできずにいます。

(2024/2/28追記)
 上記の訂正線で消した部分ですが、最近はここで書いたような状況になっているようだという話を聞いていたのですが、少なくとも今回の能登半島地震の現場ではこうした扱いは行われておらず、「安否不明者」も基本的に「何らかの形で(住民や関係機関からの通報など)「この人の行方がわからない」という情報が寄せられた人」で名前を確認できた人を公表しているようです。机上の話としてはともかく現実にはそうだろうと思います。少なくとも実態は上で書いたような状況ではないようですので、この話は取り下げさせていただきます。


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。