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石川県による能登半島地震で亡くなられた方の氏名等公表に思うこと


能登半島地震で亡くなられた方の氏名が公表へ

 1月15日、石川県は「令和6年能登半島地震で亡くなられた方の御氏名等(第1報)」という資料を公表しました(あえてリンクはしません、冒頭画像は公表資料の一部)。この資料では、今回の能登半島地震で亡くなられた方23人について、氏名、市町名、性別、年齢、死因が挙げられています。「ご遺族の同意を得られた内容を記載しております」との注記があります。

 災害時の安否不明者のお名前については、捜索活動に役立つことなどから積極的に公開する方向になってきました。一方亡くなられた方の氏名を公表するかどうかについては意見が分かれるところで、災害の都度議論が続いています。筆者はこの話題については以前から関心を持っており、本災害についても下記の記事にしています。

災害時の死者・行方不明者の氏名公表についての筆者の考え方

 この記事にも書きましたが筆者の基本的な考え方は、災害時の死者・行方不明者のお名前、大まかな住所(大字程度)、亡くなられた状況などの情報は、住民基本台帳の閲覧制限が行われているケースなどを例外として、基本的には公表した方がよいのでは、というものです。
 ただこの「基本的には」の具体的な方向については私の中でもいろいろと迷いがあります。「例外」としては、「住民基本台帳の閲覧制限」は客観的かつ機械的に判断できる「例外」の判定方法だと思いますが、それ以外はどうしていけばよいのか、難しいところです。少なくとも公表を明確に拒んでいるケースについて、無理に公表すべきだとは思いません。「遺族の同意」というのがよく挙げられ、基本的な考え方としてはそうだろうと思いますが、では具体的にどう「同意」を取るのか、またその作業がかなりのものになるだろうとは容易に想像がつきます。後述するように令和2年7月豪雨災害時の熊本県では、亡くなられた方65人全員について関係者の同意を得て氏名等が公表されました。不可能なことではないとは思いますが、容易なことでもなかろうと思います。
 また、災害時には様々な業務が発生しますから、公表までにある程度時間がかかることは当然なことだと思います。一刻も早く発表せよ、などとは思いません。いずれにせよ白黒を明確にして「こうすべき」と断ずることはできない話だと思います。いろいろと模索していかねばならないところだろうと思います。
 氏名公表に関連した話題は能登半島地震についてもいろいろなメディアで取り上げられています。当方のコメントありですが、静岡新聞に詳しい記事があります。

石川県による氏名公表の方向性の表明

 石川県は発災以来、亡くなられた方の氏名公表は行ってきませんでしたが、1月14日に行われた第21回災害対策本部会議で、氏名公表を随時行っていく方向であることが表明されました。同会議冒頭の「主な知事発言」から関係箇所を引用します。

 災害時における死者の氏名等の公表について、これまで準備を進めてきたところであり、明日から、ご遺族の同意が得られた方を随時公表する。
 公表の範囲は、①氏名、②住所( 市町名まで)、③性別、④年齢、⑤死因( 家屋倒壊・火災・土砂災害等)の5項目とする。
 ご遺族の同意を得るにあたっては、心情に配慮し、決して強制はせずに、くれぐれも丁寧な説明を心掛けてください。
 亡くなった方の氏名の公表は、その方の生きた証の公表でもあるので、丁寧に扱って欲しい。

石川県第21回災害対策本部会議 「主な知事発言」 より

 会議の動画も見ましたが、馳石川県知事は、この資料にある文章を基本的にはそのまま読み上げられていましたが、最後の「亡くなった方の氏名の公表は、その方の生きた証の公表でもあるので、丁寧に扱って欲しい」のところだけは資料から顔を上げて直接語りかけていました。想像に過ぎませんが、この部分は知事個人の心情にも合致していたのかもしれません。「その方の生きた証の公表」という部分、筆者は大いに共感します。
 氏名公表を積極的に行うかどうか、これは本当に難しい話で、現場でも様々な議論があったと思います。難しい話について重要な判断をされたことは、高く評価されてよいのではと思います。

亡くなられた方の年齢・死因等の公表も非常に重要

 また、亡くなられた方の年齢、死因などが合わせて公表されていることも大変重要です。こうした情報は、起きてしまった災害の姿を知り、今後の対策につなげていく上でも非常に重要になります。こうした情報を公表する判断についても、高く評価されるべきと思います。
 一概になんとも言えないところではありますが、場合によると、お名前は挙げず、大まかな住所、年齢、死因などだけを公表するといったことも、選択肢の1つとして今後考えられてもいいのかもしれません。

令和2年7月豪雨時の熊本県では全員の氏名や死因等が公表

 近年の自然災害でも、亡くなった方の氏名等を丁寧に公表した例もあります。令和2(2020)年7月豪雨の際、熊本県内では死者65人の被害が生じましたが、熊本県は65人全員のお名前、大まかな住所、年齢、性別、死因、そして発見状況の概要も公表しています(あえてリンクはしません)。熊本県災害対策本部会議の資料をみると、「氏名公表済65名」のほか、「同意確認中、公表拒否」などの記載欄がありますので、公表された方々はいずれも関係者の同意を得る作業がなされたものと思います。情報提供に同意された方達、大変な作業を進められた方々に頭が下がります。

東日本大震災のご遺族対象のアンケート結果から

 岩手日報社は東日本大震災後、毎年年初に震災で家族を亡くされたり行方不明のままとなったご遺族を対象とした継続的なアンケートを行っています。この中で、2022年には犠牲者の氏名公表についての設問があり、この年は256人が回答されています。氏名公表についての設問は2022年3月3日付紙面で紹介されました。
 この記事によると、東日本大震災では、亡くなった方のお名前は基本的に公表されましたが、このことについて「良かった」との回答が53.1%、「どちらかと言えば良かった」31.6%、「どちらかと言えば良くなかった」0.8%、「良くなかった」1.2%、「どちらとも言えない」10.2%という結果とのこと。また、氏名公表されたことによる不利益については「なかった」が93.4%、「あった」が3.5%だったと報じられています。
 災害と関係ない人ではなく、ご遺族を対象としたアンケートにおいて、氏名公表に肯定的な意見が8割強だったという結果となりました。小数ではありますが氏名公表に否定的な意見や、不利益があったということも無視はできません。震災から10年を経ての考えであることは注意が必要ですが、ご遺族であっても氏名公表を拒む意見が多数派というわけではないこともまた示されていると思います。

発災2週間後の氏名公表開始は遅かったとは思わない

 能登半島地震では、発災から約2週間での氏名公表開始となりました。これは、今回の災害の規模を考えると遅かったとは考えらません。他に優先されるべき事項はいくらでもあると思います。むしろこの段階でこうした方向を判断されたことは正直驚いているところです。ご遺族の意向を確認した上で公表していくとのことで、更に厳しい作業が続くと推察されます。今後もできる範囲で情報を出していただければと思っています。 


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。