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能登半島地震 土砂移動現象による建物倒壊等の発生箇所と土砂災害警戒区域


 能登半島地震にともなう土砂移動現象により多くの人的被害が生じた2箇所について、先に記事を書きました。

 今回は、人的被害発生箇所に限らず、今回の地震起因の土砂移動現象により激しい家屋被害が生じた箇所を空中写真から判読してみました。

倒壊等建物の判読方法

 判読対象は、住家や事務所など人が日常的に所在していると思われる建物です。空中写真から地震による土砂移動現象が見られる箇所にあり、今回の地震にともなう土砂移動現象により倒壊、流失、変形したとみられる建物を判読しました。以下では「倒壊等建物」と略記する場合があります。空中写真でも判読できる程度に大きく倒壊・流失・変形した建物を読んでいますので、現地で見れば何らかの変形をしているといった建物は読めていません。また、建物の変形等は判読できないが建物の周囲には土砂が到達しているというケースもありましたが、こうしたケースは判読対象外としました。また、日常的には使用されていない可能性が高いと思われる建物も対象外としています。
 世帯、事業所などの単位で、同一敷地内に複数の建物があるとみられる場合、そのうち1棟が倒壊・流失・変形していれば「1箇所」と数えました。したがって「建物の棟数」ではなく「箇所数」となります。また、母屋や主な建物と離れた小屋のような建物のみが被害を受けている場合は判読対象外としました。

被災状況の判読例 左が被災後、右が被災前。地理院地図より

 まず、国土地理院公開の「斜面崩壊・堆積分布データ」で判読されている斜面崩壊等の土砂移動現象と地理院地図を重ね、斜面崩壊等が生じた範囲内の建物の有無を判読しました。判読範囲は穴水~輪島付近より東側の能登半島ほぼ全域(下図)です。なおこの作業を始めた段階では輪島西部は斜面崩壊データが公開されておらず、七尾付近は相対的に斜面崩壊が少なかったため、この範囲を先行して判読しました。
 判読された建物の被災状況(倒壊・流失・変形)を、国土地理院公開の発災後と発災以前の空中写真や、ストリートビューなども合わせて判読しました。急遽判読したものであり、見落としなども考えられます。写真が不明瞭でよく読み取れない箇所もあります。厳格に正確なものではありません

判読範囲(黒枠線内) 地理院地図より

倒壊等建物と土砂災害警戒区域の関係の判読方法

 判読された倒壊等建物の位置と、国土交通省「重ねるハザードマップ」を見比べ、土砂災害警戒区域との関係を判読しました。土砂災害警戒区域には急傾斜地の崩壊、土石流、地すべりの3種類がありますが、そのいずれかの範囲内に倒壊等建物が所在していた場合を「範囲内」としました。
 土砂移動現象が見られる範囲内で倒壊・流失・変形している建物を判読していますので、土砂移動現象発生前に地震の揺れによって倒壊していた建物が含まれている可能性もあります。

被災箇所と土砂災害警戒区域の重ね合わせ例 珠洲市仁江町

34箇所中29箇所が土砂災害警戒区域の範囲内

 こうして判読した結果、今回の地震に伴う土砂移動現象による倒壊等建物としては、少なくとも34箇所が判読されました。このうち、何らかの土砂災害警戒区域の範囲内に所在していたとみられる建物が29箇所でした。
 なお、繰り返し述べていますように、ここで判読しているのは空中写真でもわかるくらいに倒壊・流失・変形した家屋です。今回の地震で土砂移動現象による被害を受けた家屋の数が、判読範囲内全部で34箇所だという意味ではありません。土砂移動現象により何らかの被害を受けた家屋は他にも多数あると考えられます。

判読された土砂移動現象による倒壊等建物の分布図

 「範囲外」となった5箇所について、個々に詳述は避けますが、うち土砂災害危険箇所ではあるケースが2箇所でした。土砂災害危険箇所も一般的なハザードマップに掲載されていることが多いので、「土砂災害警戒区域または土砂災害危険箇所」、いうなれば「ハザードマップで土砂災害に関して何か色が塗られているところ」の範囲内とすれば、34箇所中31箇所となります。他の3箇所も、土砂災害警戒区域となる条件のボーダーライン的なケースとおもわれる箇所や、地形的に見れば過去の地すべりで形成されたと思われる地形付近であるなど、いずれも「全く土砂移動現象など起こりそうもない場所」とまでは言えない箇所と考えられました。

倒壊等家屋発生箇所での人的被害

 倒壊・流失・変形といった被害は単なる「全壊」ではなく、人的被害にもつながりやすい極めて激しい被害程度と言えます。判読結果からは、激しい規模の家屋被害がみられた箇所は、その多くが土砂災害警戒区域の範囲内だったと思われます。
 当方のこれまでの調査(現地調査ではなく報道や各種地理情報等を用いた分析)にもとずく推定では、判読された倒壊等建物34箇所のうち、少なくとも3箇所では人的被害(死者)が生じています。広く報じられている穴水町由比ヶ丘付近(2箇所)、珠洲市仁江町(1箇所)がそれです。また、少なくとも1箇所で安否不明者が生じ、他にも複数箇所で安否不明者が生じている可能性があります。

地震災害に関しても土砂災害警戒区域は有益な情報では

 地震に伴う土砂移動現象は、特にがけ崩れ的な現象の場合、揺れとともにほぼ瞬時に家屋に土砂が到達する可能性があり、大雨によるがけ崩れよりも更に被害軽減のための行動が難しいと考えられます。しかし、場合によっては土砂移動現象の発生や、家屋への到達までにわずかな時間(秒単位のことかもしれませんが)が確保できる可能性もないとは言えません。土砂災害警戒区域で強い地震に見舞われた場合、とっさに少しでも危険性の低い場所に移動することで、被害軽減がはかれる場合もあるかもしれません。実際に本災害においても、土砂災害警戒区域にいることを認識しており、その場を離れたことで難を逃れたとみられる事例が報じられています。(だからと言って結果的にとっさの行動を起こせず被害軽減ができなかったようなケースを責める気持ちは全くありませんし、できたはずだなどという指摘をするつもりもありません)

 土砂災害警戒区域は主に大雨起因の現象を対象としてはいますが、基本的には地形的に土砂移動現象が起こりうる箇所を示しています。冒頭で挙げた記事でも書きましたが、土砂災害警戒区域という情報は、住家等での地震起因の土砂災害を考える上でも(地震の後に警戒すべき場所を考える上でも)重要な参考情報となるのではないでしょうか。
 ただし、先の記事でも書きましたように、地形的に土砂移動現象が生じうる場所でも、住家等が無い場所は土砂災害警戒区域には指定されないことには十分注意が必要です。また、当然のことながら土砂災害警戒区域の情報も完璧なものではありません。地形的に土砂災害警戒区域に指定されないような場所でも、何らかの土砂移動現象が起こる場合もあります。厳格に信じ込むのは適切ではありませんが、だからと言って全く信用ならないものと捉えることも適切ではありません。重要な情報の1つとして活用することが重要でしょう。

 なおこの件については、1月22日のNHK「ニュース7」でご紹介いただきました。Web記事ではもう少し詳しく掲載されています。


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