見出し画像

重ねるハザードマップの「住所で検索」はおすすめできません

 8月10日に気象庁・国土交通省が共同会見して台風10号に対する警戒を呼びかけていました。その中で国土交通省「重ねるハザードマップ」の利用をすすめる話がありました。

 重ねるハザードマップで関心のある地域の災害の危険性を見ること自体は大いに重要なことで、なにも違和感はありません。しかし、この資料ですすめられていた「住所で検索」する機能は、あえて一言で断定的に言いますと、おすすめできません

 重ねるハザードマップには上部に検索窓があり、ここに住所を入力すると、その位置にジャンプして、その場所の災害リスク情報が自動表示され、吹き出しでの表示や読み上げまでしてくれます。

図1 重ねるハザードマップに住所を入力して検索

 一見よさそうに見えるのですが、「危険極まりない情報の見せ方」だと思います。ここで表示される災害リスク情報は、本当に針の先ほどの「点」の情報だけです。ちょっとでもずれた場所の情報は無視されます。上記と少しだけずれた場所の住所で検索してみましょう。

図2 図1からちょっと離れた住所で検索

 図1とちょっと印象が異なりますね。これだけ見ると、このあたりは格別危険性がない場所のように思えてしまうかも知れません。この2つの住所の位置関係を拡大してみましょう。

図3 図1と図2の住所の拡大

 図1の住所は実は静岡市役所の住所です。図2は静岡市歴史博物館の住所。これらの敷地の間の距離はせいぜい100~200mくらい。たまたまこの計算結果では浸水想定区域の範囲内・範囲外に別れていますが、地形的にはさほど違うところではありません。
 また、「静岡市葵区追手町5-1」の住所が充てられるのは図3の点線で示された範囲です。しかし、重ねるハザードマップの住所で検索機能が探し出して示しているのは、この点線の北端の「点」の災害リスクだけです。「静岡市葵区追手町5-1」の範囲内は浸水想定区域の範囲内と範囲外が混在しています。ちなみに「静岡市役所」でも検索できるのですが、その結果は図2と同じ、格別の危険性がないような表示となります。おそらく、市役所記号の位置あたりの「点」を探し出したのでしょう。

 更に怖い表示もありえます。

図4 km単位で位置がずれる例

 図4で入力した住所は「静岡市清水区草薙600-1」で、これは「日本平夢テラス」という、テレビ塔と観光施設が一体化したようなところです。この場所は図4中の「実際の位置」で示した場所にあります。ところが「重ねるハザードマップ」がジャンプするのはその北西約1.7kmの位置です。これは、「静岡市清水区草薙600-1」という番地の位置情報を「重ねるハザードマップ」(のベースマップの地理院地図)が持っていないため、「静岡市清水区草薙」の代表地点にジャンプしているためです。「静岡市清水区草薙」の範囲がだいぶ広いので、これだけ壮大にずれているわけです。
 たとえば「×市○○丁目」の位置情報だけが存在していて、「×市○○丁目1番地」の位置情報が存在していない場合、「×市○○丁目1番地」も「×市○○丁目2番地」も同じ場所にジャンプすることになります。

 こうしたことがありますので、重ねるハザードマップの「住所で検索」機能の利用は、一般の方には全くおすすめできないと私は考えます。「わかりやすく」しようとして、危険な誤解を誘発する危険な機能が生まれてしまったな、と。ごく単純に、探したい位置の地図を表示した上で、画面左上にある「災害種別の選択」アイコンを押して、その地域の様々な災害リスクを読み取る、という素朴な使い方を強く強くおすすめします。

図5 左上アイコン押して、単純に使いましょう 


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。