コロナ禍を乗り越えた4年間の集大成=カオス。2022年度卒業制作展・会場レポート。
デジタルハリウッド大学(以下、DHU)は2023年2月10日〜12日の3日間、駿河台キャンパスにて2022年度卒業制作展を開催しました。
卒業制作展は学生たちの4年間の学びの集大成であり、多彩な個性や才能が花開く瞬間を見ることができる場。今年度の卒展は、2年次から続いたコロナ禍を乗り越えた学部17期生(2019年度入学者)を中心とするもの。作者の思いや、費やした時間が垣間見えるような作品の数々が展示されました。
リアル会場とメタバース会場の双方で開催された2022年度のDHU卒展。今回のnoteでは、各ゼミの最優秀作品や優秀作品およびその作者を中心に、会場の様子をレポートします。
▼ライブ配信でも作品紹介や、市原えつこさんによる講評が行われました。
『殺愛審判』インタラクションゼミ・小林 あげは
インタラクションゼミの小林あげはさんが制作したのは、「愛」や「審判」について考えるインスタレーション作品です。
あるカップルが別れて数日後、彼氏だった男性の遺体が発見されたという作品設定。男性の部屋に残された手紙やカップルが共有していたSNSアカウントから、“元カノ”が「有罪か、無罪か」を来場者が審判します。
「当事者にしか分からないものを第三者が判断することは、危険性をはらんでいると思うんです。外見がグロテスクなものは悪く見え、自分に相談してきた相手が正しいように見える。そんな誰もがもっている無自覚なバイアスとその危険性、何かをジャッジする責任に気づけるきっかけになるような作品になっています」と小林さんは話しました。
また、小林さんは2022年度卒業制作展のメインビジュアルも担当。
「私たち2022度卒業生は感染症の影響で、大学在学中に生活が大きく変わった世代です。積み上げてきたものが無にかえってしまうような絶望がありました。でも、私たちは、そこからまた新しいものを作り上げ、復活したなと思っていて。その絶望と再生を表現するために、パソコンに不具合が起こったときに表示されるブルースクリーンをベースに、DHU生が作り上げてきた作品のモチーフを散りばめました。」とメインビジュアルに込めた思いを話してくれました。
『MODe:』映像表現実践ゼミ・渡邉祥、木村智哉
映像表現実践ゼミの渡邉さんと木村さんが制作したのは、AR(拡張現実)を映すARミラー。鏡の前に立つと、着ている服の色や生地の質感などを、AIが自動認識。さらには表情から感情を判定し、それらの結果を着用できるデジタルオブジェクトとして映像に反映します。
「スマートグラス/ARグラスが普及した時における、ファッションの形」というコンセプトのもと研究・開発を進めたそうで、たくさんの来場者の方がARミラーを体験していました。
『Dreaming KITTY』アニメ制作ゼミ・宮城愛里花ケイナ
「年齢や国籍、言語関係なく楽しめる作品を目指した」と語るのは、アニメ制作ゼミで最優秀賞に選ばれた宮城さん。宮城さんが作ったアニメーション(アニメ)は、セリフのない無声劇。ですが、迫力のあるアクションシーンや随所に挟まれるユーモアが盛り込まれており、最初から最後まで飽きずに楽しめる作品となっています。
宮城さんは、入学当初イラストレーターになりたいと考えていたといいます。しかし、アニメの授業を受け、作品を発表するなかで、アニメの面白さや表現したいものに気付いたそう。2年生のころからアニメ制作を勉強し、今回最優秀賞に選ばれるまでに技術や表現を磨かれました。
『ホームレス&アームレス』3DCG映像制作・技術研究ゼミ 李佳映
3DCG映像制作・技術研究ゼミの李さんが制作したアニメーションは、腕のない少年が画家になるまでの物語。その少年は、足指を使って絵を描いていきます。
教員からは「キャラクターがかわいらしく、イメージしたデザインどおりにモデリングされています」とコメントされるなど、完成度の高さが評価された作品。李さんは「絵を描くためには腕が必要と思われるけれど、ほかにも方法はあると伝えたかった」と作品に込めた思いを語りました。
『霧笛』ショートフィルム・VFX研究ゼミ・日高 翔吾
「死」をテーマに実写映像作品を作り上げたのは、VFX研究ゼミの日高さん。「友人の自殺をきっかけに死を考えた主人公が、バケットリスト(死ぬまでにしたい100のこと)を作り、夢を叶えていく」というストーリーです。
「卒業制作のテーマを決める前に身近に不幸があって、死というテーマしか浮かんでこなかった」と日高さんはこの作品を作った理由を話します。
「重たいテーマを扱うからこそ暗くなりすぎないようにしたかった」と日高さんはいい、笑えるポイントを随所に入れ込む工夫をしたそう。ゼミ担当教員の小倉先生は「テーマを分かりやすく表現しており、今の学生なら誰でも考えるかもしれないことをバケットリストという形で表現しているところが良い」と、日高さんの作品を最優秀賞に選んだ理由を述べました。
『可愛い子は旅をする』映像制作ゼミ・小瀧 万菜花
「ヤングケアラー」という社会課題に切り込んだ、約40分間の実写映像作品です。物語では家族のためにやりたいことを諦めてしまう高校生の少女、シングルマザーとして働き詰めの母、認知症になった祖母などが登場。ある相談員の支援がきっかけとなり、家族の関係性が変わっていくストーリーです。
ロケ地は千葉県鴨川市で行い、知り合いの紹介でプロの俳優さんが集まったそう。自身で脚本を書くときだけなく、台本の読み合わせや撮影時などに俳優の方々と話し合い、全員でキャラクターを作り上げたことが印象深いと言います。
『カップル戦争』映像制作ゼミ・川井田 理
バトルロワイヤルをテーマにした、実写映像作品。無作為に選ばれた複数のカップルが命を奪い合い、カップル同士の生き残りをかけた戦いが繰り広げられます。
DHUの八王子キャンパスで撮影が行われ、川井田さんは監督や脚本、編集などを担当。多くのDHU生たちに演者として協力してもらい、個性豊かなカップルが集まりました。
もともと特撮が好きで、プライベートではヒーローをテーマにした作品を作っているという川井田さん。卒業制作では、あえてヒーローを否定するような作品を作りたいと思い、ヒーローとは対極な自己中心的なキャラクターを描いたり、ドロドロした恋愛要素を取り入れたりしたそうです。
『ぽぽたん展』現代文化表現ゼミ・ぽぽたん
「こだわり続けた自分のかわいい」をコンセプトにしたというぽぽたんさん。展示場には、ぽぽたんさん自身がプロデューサー兼リーダーを務めるアイドルグループの映像が流れ、デザインしたスタイルブックやグッズ、衣装が置かれています。
アイドル事務所に所属していたこともあるぽぽたんさんは、より自分のかわいいを追求するため、自身でアイドルグループを作り上げました。ぽぽたんさんが歌う曲にも、女の子目線の歌詞やアニソンのような盛り上がる曲調など、こだわりが詰まっています。
アイドル活動のなかでも、DHUで学んだグラフィックデザインが活きたといいます。ぽぽたんさんの4年間の集大成といえる展示で、ファンの方もたくさん来場されていました。
『Evoris』ゲーム制作ゼミ・WORLD GATE(藤澤 周慶、佐藤 陣哉、佐原 立基)
『Evoris(エボリス)』は、同じタイミングで全プレイヤーにターンが回ってくるという独自のカードゲーム。プレイヤーは、自身のライフをかけることで、カードの戦闘力を上げることができますが、負けた場合かけたライフは全没収されます。「いつ」「何に」かけるかの判断に盛り上がるゲームシステムです。
制作者であるWORLD GATEさんがこだわったのは「カードバランス」。「必勝できるカードはあえて作らず、どこでリスクをとるかハラハラと楽しんでもらえるように工夫した」と話します。
ゲームバランスを追求した結果、制作者も初心者に負けることがあるそう。そのゲーム性の高さから展示会場にはつねに人が押し寄せ、待ち列ができるほどの人気でした。
『ブレイブ』3DCGムービーゼミ・林 清勝
「勇気」をテーマにした、主人公がヒロインを助けるアニメ作品。ゼミの担当教員である小岩先生からは「2人を通して勇気の大切さを描くシンプルなストーリーですが、クオリティの高いCG技術で見応えのある作品に仕上げられています」と高く評価され、最優秀賞に選ばれました。
「最初はほかの作品を作ろうと考えていた」という林さん。しかし、「せっかく3DCGムービーを作るなら、激しいアクションを作りたい」と自ら過酷な道を選んだといいます。制作途中なんども「何でこんな大変なことを…」と後悔しつつ、約10ヶ月間かけて超大作を完成させました。
『卒業制作展からの脱出』グローバルリーダーシップゼミ・小濱央暉、佐藤茉優
「DHUのことをもっと知ってほしい」「興味のある作品だけでなく、同級生のいろんな展示を見てほしい」そんな思いを持つふたりによって作られた、脱出ゲーム。
DHUのホームページや、各ゼミの展示室に謎解きのヒントが隠されており、卒業制作展をまるごとゲームにしてしまった、体験型のアトラクションです。スマートフォンを持っている中学生以上を対象にして企画が練られ、LINEボットで自動的にストーリーや問いが表示される仕組みを作りました。
小濱さん、佐藤さんは「わたしたちはゼミでコミュニケーション担当みたいな感じでした。在学中に知り合った人たちの協力があったからこそ、生まれたゲームだと思っています。来場した高校生の皆さんにとっては、作品だけでなくDHUの歴史も知れる内容になっているので、楽しんでもらえたら嬉しいです」と話してくれました。
『地獄』『マジャパヒット王国ドキュメンタリー』『エレガンティック』グローバルリーダーシップゼミ・RIFQI NAUFAL BUSTAN
イラストレーション、ドキュメンタリー映像、ファッションブランドの3作品を卒業制作として展示した、インドネシア出身のRIFQIさん。
DHU入学以前から、イラストを描くのが好きだったため『地獄』という作品を制作。母国で多くの人が信仰しているイスラム教とキリスト教における、死後の世界からインスピレーションを受け、デザインしたそうです。
また、DHUの授業で映像制作にも関心が寄せられたことから『マジャパヒット王国ドキュメンタリー』も制作。そして、これからチャレンジしたいこととして、ファッションブランド『エレガンティック』も構想。RIFQIさんの過去・現在・未来、それぞれを象徴する作品が展示されました。
『#TUTORKEN』電子出版ゼミ・RAMADHANI NIKEN NABRITA
『#TUTORKEN』はデジタルコンテンツ制作のハウツーを学べる電子書籍シリーズ。電子書籍限定の機能を活用することで、インタラクティブ性をもたせ、読者は実際に手を動かしながら、デジタルコンテンツの作り方を学ぶことができます。
YouTubeへの動画投稿も行っているというNIKENさん。動画制作のハウツー動画を投稿したところ、若者からの反応が多く、「コンテンツ制作を勉強したいのに、勉強の仕方が分からない人が多いのでは」と感じたそうです。その経験から、DHUで4年間学んできた知識を共有するためのツールとして『#TUTORKEN』を開発。今後は母国のインドネシア語にも対応させていきたいと、将来の展望も話してくれました。
『Live2DMV』アートディレクションゼミ・はる
はるさんはLive2Dを活用した映像とモデル、そしてLive2Dの解説書の3作品を制作。
卒業制作展当日、はるさんはバーチャルキャラクターとして、来場者の方たちとコミュニケーションを取っていました。またLive2Dの解説書は、イラストを中心にしてわかりやすい内容になっており、Live2Dを広めたいというはるさんの気持ちが伝わってきます。
『楔』コミュニケーションデザインゼミ・齋藤 みお
「深淵」という別世界を空想したVR空間、VR空間と現実をつなぐ人形「楔」という2作品を制作した齋藤さん。
普段からVR空間で過ごすことが多いという齋藤さんは、美しい世界観や理解が難しい世界観など、混沌としたさまざまな空間に出会うそうです。深く、深く潜り過ぎて、VR空間に飲み込まれないように、現実世界との媒介として「楔」を制作しました。
「深淵には神様がいると仮定して、世界観を考えました。神様も楔もダークなイメージを与えるかもしれませんが、VR空間がまだ世界中に広まっておらず未開の地であることから、不気味な見た目にしています。この作品を通じて、VRの可能性を感じてもらいたいです」と、齋藤さんは話しました。
『うさ銀行』コミュニケーションデザインゼミ・池田 彩華
休みの日になると、電車で45分かけて行きつけのゲームセンターへ通い、大好きなメダルゲームをしているという池田さん。メダルのジャラジャラ音に着目した池田さんは、目が見える人と見えない人が一緒に遊べるボードゲームを開発しました。金庫番や銀行強盗などの役に分かれ、聴力のみで犯人が誰かを探り当てます。
池田さんが春から働く職場では、視覚や聴覚に障害を持つ方がいることから、彼らと仲良くなるツールとして『うさ銀行』を考案したそうです。内定者懇親会では試作段階のゲームを導入し、距離が縮まったと言います。
現在は製品化を視野に入れており、クラウドファンディングの企画が進行中。『うさ銀行』が店頭に並ぶ日も近いかもしれません。
『2022年度卒業制作展会場MAP』髙山 友暉
卒業作品紹介の途中ですが、ここで2022年度卒業制作展の会場MAPを作った現在3年生の髙山さんにインタビュー。
ゼミであったマップデザインの授業から縁がつながり、卒業制作展のMAP制作を担当したという髙山さんは、「地図」という文字をピクセルで表現。近くでみるとモザイクがかかっているように見え、遠くからだとはっきり読めるデザインに仕上がっています。
高山さんは今回の卒業制作展を見て「ほかの美大と比べ、やっぱりデジタルを使った表現が多い。未来がみえるような展示でワクワクした」といいます。2024年度卒業制作展への意欲が湧いたと話してくれました。
『干支セトラ Snowmotion』デザイン&プロトタイピングゼミ・Ponponsan
『干支セトラ Snowmotion』は、3人称視点のVRゲームです。
開発者のPonponsanさんが、一般的に普及している1人称視点のVRゲームに「アクションをしても、その姿が自分では見えない」「視点移動の幅が狭く、没入感が感じられにくい」といった課題を感じ、独自に開発したのが今回の作品。ゲームシステムの独自性・VRゲームとしてのクオリティが評価され、学部長賞を受賞しました。
この作品は、ゲーム・コンピューター関連の日本最大級の展示会『東京ゲームショウ・TOKYO GAME SHOW』にも出展。Ponponsanさんが1年次から教わっていたというゼミの担当教員の星野先生からは、今回の作品に対し以下のような賛辞が送られました。
『なかひらさくら』メディアアートゼミ・何様 シラン
何様シランとして活動している、中平さくら(なかひら さくら)さん。彼女の世界観、人生を丸ごと詰め込まれた空間を、卒業制作として展示しました。ご自身がその空間にいることで作品が成立することから、会期中はシランさんご本人が作品を解説し、多くの来場者が集まりました。
会場には過去に制作した作品だけでなく、制作途中であるタバコの箱を縫い合わせたじゅうたんや、多数の写真なども展示。ご両親やお付き合いしている彼氏、ゼミの担当教員である落合 陽一先生に撮影に協力いただいたそうで、写真や作品などさまざまな角度からシランさんを見ることができました。
シランさんは「ここまで自分に向き合ったのは初めてで、多角的に向き合うことができました。これからの人生に卒業制作がどんな影響を与えるのか、実験的な意味で楽しみ」と話しました。
最後に、4年間の学生生活を終えようとしているシランさんから、在学生や未来のDHU生へメッセージが送られました。
以上、2022年度卒業制作展のレポートでした!
デジタルハリウッド大学は、デジタルコンテンツと企画・コミュニケーションを複合的に先端の実務家から学び、外国語の重点的な学習を通じて、未来を生き抜く力を身につける大学です。ご興味のある方は、ホームページやSNSなどをご覧ください。
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