情報の強者_メモ

『風が吹けば桶屋が儲かる』リサーチスキルのこと:情報の強者

新しい事業企画やサービスのデザインを考えるときに、リサーチは欠かせません。新しい兆しや機会領域を見つけて確信を得るために行う、探索型のリサーチは、とてもクリエイティブな取組みです。

ですが、デザイン系の教育や現場でリサーチの手法を体系的に学ぶ機会はあまりないように思います。現場観察をしたりユーザーインタビューをするフィールドリサーチは実践的に経験しますが、世の中の情報から探すデスクリサーチについては、我流で何となくやってるような気がします。

そこで今回は、情報の扱い方について教えてくれる本のご紹介です。

情報の強者
伊藤洋一
新潮社 2016.02

著者の伊藤洋一さんは経済界の人で、ラジオ番組『Round up world now』をPodcastでも配信しているので、僕は毎週これを聞いています。経済がベースであっても、政治、国際情勢、社会トレンド、テクノロジーなど見識は幅広く、どうやったらこのような情報の収集と見解が持てるのか、聞くたびにすごいなと思っているのですが、この本にそのノウハウが書かれています。

情報を扱うには特に2つの意識が大切といいます。それは、

1. 思い切って捨てること
2. ループ(思考の輪)をつくること

です。本書は情報のインプットからアウトプットまでのプロセスを、大きく4章に分けて順に解説していますが、その中で上の2つを軸にどんなことが強調されているのかをここでまとめてみます。

1. 思い切って捨てること

情報が溢れる今の時代、選択するスキルが大切になります。それぞれのメディアに対しての付き合い方が紹介されています。著者がおすすめしている視点は次のようなものです。

・本は深さがある
・新聞は遅いが侮れない
・世界を偏りなく観ること
・デバイスを積極活用
・人に会うこと

例えば本は、1人がじっくり時間をかけてテーマを余すことなくまとめているので、一見時間がかかるようで、実は最も効率的に情報を集めることができます。また読んでいる人が意外と少ない(売れても5万部=5万人しか読んでいない)のは、数少ない情報を得ているともいえます。僕自身もリサーチの手段として、本は大切にしている情報源です。

新聞も、ネットによってスピードの優位性が弱くなったとはいえ、まだ有効なメディアです。それは記者や編集者がニュースを扱うプロなので、情報の質が高いこととソースがしっかりしているからです。ただし日本の新聞は国内の情報に偏りがちなので、海外の新聞を読んだりNHKのワールドニュースを見ることをおすすめしています。(僕も最近アプリで朝に見るようになりました)

逆にネットニュースはタイムリーに情報を得るために有効です。著者の伊藤さんはガジェット好きの経済アナリストなので、朝3時に起きて海外のマーケットを(ベッドの中で)スマホでチェックしたり、情報をすぐシェアするという使い方です。(ちなみにプレゼンはiPhoneでやるそうです)

人と会うことも重視しています。特に景気ウォッチャーや定点観測として、タクシーの運転手やその街に住んでいるいる人と定期的に話をして多くの気づきを得ています。僕は他業界の人と話をすることで違った視点が得られるので、煮詰まったらそういった人に聞くように意識しています。

一方で、気を付けた方がよいのは次の2つのメディアです。

・テレビとは付き合いを少なめに
・ネットの情報に溺れないこと

テレビは映像で分かりやすさや印象の強さがある一方、1日の中で同じコンテンツを繰り返し切り貼りして使う傾向があります。そのため情報に新鮮さがなかったり、内容が深みがない(印象重視)ものになってしまいます。特に夜は日中の繰り返しが多いので、その時間はテレビを見るよりも人と会って話をする方が有意義だといいます。

ネットはタイムリーでフィルターがかからない強みがありますが、ソースがあいまいだったり、SNSを使っていると自分好みの情報に偏る傾向があるので、どこから得るかについては要注意です。誰もが経験あると思いますが、ネットサーフィンをして時間をかけた割にはあまり有意義な情報が得られなかったりしがちです。

このようにして有効な情報の得るためには、逆説的に捨てる視点を意識することが大切になります。これが本書の1つめの主張になります。

2. ループ(思考の輪)をつくること

もう一つの主張は、つなげる視点です。入手した情報そのものは誰でも知っていることですが、情報と情報を組み合わせて自分なりの仮説をつくっていくことが、リサーチの質を高めることにつながります。

前に新エディターシップという本を読みましたが、そこでは情報を『統合する』という言葉を使い、異質なものを組み合わせて新しい視点を示すことが編集の腕の見せ所、というようなことが書かれていました。感想文をまとめていますので、気になった方はこちらもご覧ください。

本書では喩えとして「風が吹けば桶屋が儲かる」のことわざをあげていますが、その意味は『世の中は全部つながっている』ということです。このつながりを見つけるためには幅広い視点を持っていないといけないし、ちょっとした情報にもつながりを見つける高い感度も必要です。そして自分なりの仮説をアウトプットしながら整理していくことも欠かせません。

こういった思考は、割とデザイナーが得意とするところである一方、整理や伝え方は論理的でないと理解が得られません。なので、つなげるスキルとロジックに落とすスキルの両方が、必要だといえます。

以上が全体の内容ですが、本自体は新書なのでサッと読むことができるうえカジュアルな文体なので、サラッと読むことができます。ですが内容は充実しています。(それこそ1つのテーマを余すことなく深堀りしています)読者層を問わない内容ですが、デザイナーなどのクリエイティブ職の人にとって情報をうまく扱いたい人にとっては、入りやすい本でおススメです。

他にもこれまでにもリサーチにおける情報の扱い方で、いくつか学びになる良書がありましたので、最後にご紹介しておきます。



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デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。